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過失なく相手を独身者と信じた不貞行為第三者の責任を否定した判例紹介

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平成30年 3月 8日(木):初稿
○原告妻が、原告の夫であったAと被告との不貞行為によって、原告とAとの婚姻関係が破綻し離婚に至った等と主張して、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、550万円慰謝料等の支払を求めた事案について請求を全て棄却した平成23年4月26日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)理由文を紹介します。

○請求棄却の理由は、被告女性は、通常は独身者が参加すると考えられているお見合いパーティーでAと知り合ったこと、Aは、被告との交際期間中、被告に対し、氏名、年齢等を偽り、一貫して独身であるかのように装っていたこと等から、被告が、Aが独身であると信じて交際を続けていたことについて、過失があると評価することはできないので不法行為は成立しないとしました。

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主  文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,550万円及びこれに対する平成21年10月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告に対し,原告の夫であったA(以下「A」という。)と被告との不貞行為によって,原告とAとの婚姻関係が破綻し離婚に至ったなどと主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき,慰謝料500万円と弁護士費用相当額50万円との合計額である550万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成21年10月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。

      (中略)

第3 争点に対する判断
1 事実経過

 前記第2の1の事実,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) Aは,昭和54年に慶應大学経済学部を卒業し,県庁職員として勤務した後,○○大学医学部に入学し同学部を昭和63年に卒業した。Aは,その後医師免許を取得し,平成4年に眼科医として開業し,平成12年2月頃,東京都新宿区に眼科及び美容整形外科を専門とする「aクリニック」を開設した(乙1,3,19,証人A,原告本人,被告本人,弁論の全趣旨)。

(2) 被告は,大学を卒業後,銀行に勤務し,平成12年7月からb法律事務所に秘書として勤務していた(乙11,12,被告本人)。

(3) 被告は,平成11年頃から,結婚相手を探すためのお見合いパーティーに参加するようになり,同年5月頃,渋谷区で行われたお見合いパーティーでAと知り合い,電話番号を交換した。その数日後,Aから被告に電話があり,被告はAと会ってお茶を飲んで話をし,その約1か月後に再びAと会って食事をした。被告は,この間もお見合いパーティーへの参加を続けており,偶々同じパーティーに参加したAと2,3回顔を合わせた(証人A,被告本人)。

(4) Aは,これらのお見合いパーティーにおいて,本名を名乗らず,「A1」と名乗り,年齢についても,実際は44歳であったにもかかわらず,30歳と偽っていた。被告がAから受け取ったお見合いパーティーの自己紹介用のカード(乙5)にも,「A1」との偽名が記載されていた。
 また,Aは,平成11年当時,原告及び子供達と東京都目黒区八雲所在の自宅で同居していたが,上記カードには,住所として,自宅の住所ではなく,Aが書斎等として使っていた世田谷のマンションの所在地(東京都世田谷区〈以下省略〉)を記載し,勤務先については「cクリニック」と記載していた(乙5,6,証人A,被告本人,弁論の全趣旨)。

(5) 被告とAは,平成11年8月頃,肉体関係を持ち,以後,親密な交際をするようになった(証人A,被告本人)。

(6) Aは,被告に対し,自らの生い立ち等につき,自分は婚外子であるが戸籍上は父の実子として届出がされており,異腹の兄2人,姉1人,妹1人が居る旨,結婚せずに自分を育ててくれた実母に対し特別な思い入れがある旨を述べた。また,被告に対し,自らの学歴を偽って医学部に現役合格した旨を述べ,医局を出てから間がなく医者として未だ一人前ではない旨,これから大学院に進んで勉強したいと考えているので,すぐに結婚したいとは思っていない旨を述べていた。
 被告は,Aの上記発言等や,Aとはお見合いパーティーで出会ったこと,上記カード(乙5)の記載等から,Aが30歳の独身の医師であると思っており,自宅で同居している被告の両親に対しても,A1という男性と交際している旨を伝えていた(乙5,11,被告本人)。

(7) 被告とAは,交際期間中,週1回か2回,平日の夜8時頃に待ち合わせをして食事を共にし,食事の後は,世田谷のマンションに行って共に数時間を過ごすことが多かったが,世田谷のマンションに寄らずに二人で街を歩くこともあった。
 Aは,被告に対し,実母に毎月7万円の仕送りをしており,仕送りする金を稼ぐためにアルバイトをしていて,時給が良い土曜日と日曜日にアルバイトをするので,土曜日と日曜日は被告とは会えないと説明していた。
 また,Aは,被告と世田谷のマンションで数時間を過ごしたときも,被告に対し,当直の仕事がある等と述べて,その日のうちに被告を車で被告の自宅まで送るなどして帰宅させていた(証人A,被告本人)。

(8) 世田谷のマンションは,ワンルーム・マンションであり,ベッド,テレビ,オーディオコンポ,冷蔵庫,洗濯機,テーブル等が置かれていた。Aは,被告に対し,世田谷のマンションに一人で暮らし,東京都板橋区常盤台に住んでいる実母の家と世田谷のマンションとを行き来していると述べ,被告はその説明を信じていた(被告本人,弁論の全趣旨)。

(9) 被告は,世田谷のマンションに配達された原告宛ての郵便物を目にして,Aに対し「Xって誰」と尋ねたことがあった。Aは,被告に対し,妹だと答えた(証人A,被告本人)。

(10) 原告は,世田谷のマンションに行くことはほとんどなかった(原告本人)。

(11) Aと原告は,平成12年1月頃,Aの書斎,書籍の保管場所及びaクリニックに勤務する医師の臨時の宿泊施設等とするために,渋谷にワンルームマンション(渋谷のマンション)を購入した(乙13,証人A,被告本人,弁論の全趣旨)。

(12) Aと被告は,平成12年1月頃から,渋谷のマンションで会うようになった(証人A,被告本人)。

(13) 渋谷のマンションには,ベッド,テレビ,オーディオコンポ,冷蔵庫,洗濯機,テーブル,本棚,衣装ケース等が置かれていた(証人A,原告本人,被告本人)。

(14) 被告は,Aが世田谷のマンションから渋谷のマンションに引っ越したと思っていた(弁論の全趣旨)

(15) 被告は,平成16年4月末頃,Aの子を妊娠したことを知り,同年5月上旬,Aに会った際,渋谷のマンションで妊娠したことを告げた。
 Aは,その場では喜んだ様子を見せたが,以後,被告に会おうとしなくなり,被告が携帯電話やメールで被告の両親と会ってほしいとAに何度も申し入れても,のらりくらりとした対応をして被告の要望に応えず,同年6月頃から7月頃までは電話に出なくなってしまった。被告は,Aが従前から結婚をためらっている様子であったため,Aの上記のような対応について,すぐには結婚したくないという気持ちの現れだろうと思っていた。
 Aは,同年8月頃以降,被告が胎児の様子や定期検診の結果等を書いた手紙で送ると,返信のメールを送信してくるようになり,被告の銀行口座の番号を聞いて同口座に毎月一定額を振り込んでくるようになった。

 Aが平成16年11月30日に被告に送信したメールには,子供の名前は「○」の字が入った名前にしてほしい旨が記載されていた(乙16,被告本人)。
  (16) 被告は,平成16年○月○日,Aとの子(男児)を出産した。
 Aは,同月25日,病院に入院していた被告と子供を見舞った。Aは,その際,被告に対し,子供をとりあえず被告の戸籍に入れておいてほしいと述べた。被告が驚いて,「えっ,どうして」と尋ねると,Aは,しどろもどろになり,子供の名前は,「○」という字と被告の父の名前の中から一字を取った名前はどうかと言ったり,初孫なのに申し訳ないなどと言うのみで,明確な説明をしなかった(乙11,被告本人)。

(17) 被告は,その後,Aに電話をして,子供の出生届を出すので,そのときに入籍もしたいと申し入れたが,Aは,今仕事中だからと言って電話を切り,以後電話に出なくなった。
 被告は,産褥期が終わった1か月後頃,渋谷のマンションを訪ねたが,Aが不在だったため,このまま電話に出ないのであればAの実母を訪問する旨を書いたA宛ての手紙を渋谷のマンションに置いてきた(被告本人)。

(18) 被告は,その後もAから連絡がなかったため,平成17年3月2日,子供を連れて,被告の父と共に,東京都板橋区常盤台所在のAの実母の自宅を訪れた。
 被告が,Aの実母に対し,平成16年○月○日にAとの間に男の子が生まれたが,出生届や入籍の話をし始めたら急にAと連絡が取れなくなったことなどを告げたところ,Aの実母は,Aは既婚者で子供が3人居ると述べ,全面的にAが悪い,Aに子供を認知させ,被告に対する償いをさせると述べた。また,Aの実母は,被告は未だ若いので子供を養子に出して外の人と結婚したらよいと述べた。これに対し,被告の父は,子供は養子に出したりはせず,娘が責任をもって育てるが,Aには子供の親として,娘と子供が生活できるように責任をもってほしいと述べた。
 被告は,同日,Aの実母の話を聞いて初めて,Aの本名は「A1」ではなく「A」であり,年齢も被告より20歳年上であることを知った(乙3,11,被告本人)。

(19) Aは,平成17年3月3日,被告の自宅を訪れて被告と被告の両親に謝罪し,被告と別れたくなかったため既婚者であること等を言い出せなかったなどと述べた(乙3,被告本人)。

(20) 被告は,同月5日,Aに送信したメールで,Aの本名,生年月日及び卒業した大学を教えてほしいと申し入れ,同月6日にAから返信されたメールで,Aの正しい生年月日,卒業した大学等を知った(乙18,19)。

(21) 被告は,Aの実母からAが既婚者であること等を知らされた後,当時勤務していた法律事務所において被告の上司であったG弁護士(以下「G弁護士」という。)に対し,Aとの件について相談した上,Aに対し慰謝料及び養育費の支払を求める通知書を送付した(乙11)。

(22) Aは,被告及びその代理人であるG弁護士と協議の上,子供の名前をEとすることに同意し,平成17年7月20日,Eを認知したが,被告からの慰謝料及び養育費の請求には応じず,被告に対し,慰謝料等の支払に応じるための条件として,EとAとの間の父子関係の存否に関しDNA鑑定を行うことを要求した。平成18年3月,AがEの父である旨のDNA鑑定の結果が出たが,Aは,被告の慰謝料等の請求に応じなかった。
 被告は,平成18年9月26日,東京家庭裁判所に対し,Aを相手方とする養育費請求調停の申立てをした(証人A,甲2,乙11)。

(23) 原告は,平成19年1月10日朝,Aが妙に落ち着かない様子で外出の用意をしていることに気づき,「どこに行くの」と尋ねた。Aは,原告に対し,今まで隠していたが,実は養育費の調停をしていて,今日はその調停の日である旨,甲山Yという女性との間に子供が居て,Yから養育を請求されている旨を答えた。原告がAに事情を問い質したところ,Aは,平成11年から平成16年まで被告と不倫関係あり,平成16年に被告との間に子供ができたことなどを告げた。
 原告は,同日午後8時頃,Aの実母に電話をし,同人から,Aと被告の間に子供があることは事実であり,Aが子供を認知し被告から養育費と慰謝料を請求されていることなどを聞いた。
 Aは,同日午後9時半頃帰宅し,原告は,Aに対し,詳しい事情を尋ね,調停のことや今後の原告との結婚生活についてどのように考えているかなどを問い質したが,Aは曖昧な答えに終始した(甲6,証人A,原告本人)。

(24) 原告は,Aが被告と不貞関係を持ち子供をもうけていたことを知って,精神的に強い衝撃を受けた。原告とAは,ほとんど会話をすることがなくなり,原告は,喪失感や絶望感を感じると共に,めまいや食欲不振,吐き気,不眠などにも悩まされるようになったが,長男の受験の直前であったため,子供達の前では平静を装うように努めた(甲6,原告本人)。

(25) Aは,年齢制限のあるお見合いパーティーに年齢等を偽って他人になりすまして参加するために,平成19年3月10日頃から同月11日頃までの間,知人に依頼して,Aの顔写真が印刷され,若い医師を被交付者とする自動運転免許証を偽造させた。Aは,同医師名名義のキャッシュカードを入手するために,同月13日,上記の偽造運転免許証を銀行員に提出し,銀行口座申込書等を偽造して銀行員に提出し,同医師名義の預金通帳及びキャッシュカードを詐取しようとしたが,運転免許証が偽造であることを看破され,未遂に終わった。
 Aは,同月,偽造有印公文書行使罪等の容疑で逮捕され,同月30日に起訴され,同年7月19日に有罪判決を受けた(乙11,13の1ないし10,証人A,原告本人)。

(26) 原告は,上記刑事事件においてAの情状証人として証言した際,可能であれば夫とやり直したいと思っている旨を証言したものの,被告と長年不貞関係にあったAに対する不信感から,Aとの婚姻関係を続ける気持ちになれず,平成19年10月,東京家庭裁判所に夫婦関係調整調停の申立てをした。
 Aは,同年12月,原告に対し,被告と会っていた渋谷のマンションを整理するので上記調停の申立てを取り下げてほしいと強く申し入れ,原告は,平成20年1月,Aの要望を容れて上記調停の申立てをいったん取り下げた。しかしながら,その後も,原告とAは,ささいなことで言い争いになるなど,夫婦関係を修復することができず,原告は,うつ状態になる等体調,精神状態が悪化したため,同年5月,再度,東京家庭裁判所に夫婦関係調整調停の申立てをし,同年8月27日,Aと調停離婚をした(甲5,6,原告本人)。

2 争点(1)について
(1) 原告は,被告がAに配偶者が居ることを認識していたにもかかわらず,Aとの不貞関係を続けたと主張し,証人Aは,被告との交際期間中,被告に対し「不倫もいいだろう」というようなことをささやいたことがあった旨証言する。

(2) しかしながら,証人Aは,原告宛ての郵便物について被告から尋ねられた際,妹だと答え,また,渋谷のマンションで被告と過ごしたときは,毎回,今日は当直があるからと言って被告を車で送り返すか,駅の改札まで送っていったとも証言しており,これらの言動が,自らが既婚者であることを被告に気づかれないようにするためのものであることは,明らかである。
 証人Aの上記(1)の証言は,これと矛盾する同証人の上記証言や,上記(1)の証言と反対趣旨の被告本人の供述に照らし,措信することができない。

(3) 原告は,渋谷のマンションにはAの家族の写真,子供のオムツ,衣類,ほ乳瓶等が置かれ,Aの車の後部座席にはチャイルドシートが備え付けられており,被告はこれらの物を目にすることによって,Aが既婚者であることに気づいていたはずであるとも主張し,証人Aの証言及び原告本人の供述には上記主張に沿う部分がある。
 しかしながら,既に判示したとおり,Aが被告との交際期間中,氏名,年齢,住所,学歴等を偽って独身であるかのように装っていたことに照らせば,仮に,原告が主張するように家族の写真,子供のオムツ,衣類,ほ乳瓶等が渋谷のマンションに置かれたり,Aの車の後部座席にチャイルドシートが備え付けられていた時期があったとしても,被告が渋谷のマンションを訪れたり,Aの車に乗るときには,Aが,これらの物を被告に気づかれないように隠していた可能性は十分考えられる。

 以上のことに加え,渋谷のマンションを訪れた際,Aの家族の写真や子供のオムツ,ほ乳瓶等を目にしたことはなく,Aの車にチャイルドシートが備え付けられていたこともなかった旨の被告本人の供述に照らすと,証人Aの前記証言及び原告本人の前記供述は,被告が渋谷のマンションを訪れたり,Aの車に乗ったりした際に,上記写真等やチャイルドシートが被告の目に触れるような場所に置かれていたとの事実を認めるに足りないものというべきであり,他に上記事実を認めるに足りる証拠もない。

(4) そして,他に,被告がAとの交際期間中,Aが婚姻していることを認識していたことを推認させる間接事実ないしこれを認めるに足りる証拠はない。

(5) 原告は,被告が,Aとの交際期間中,Aが婚姻していることを知らなかったとしても,被告には,Aが婚姻していることを知らずにAとの不貞関係を続けたことにつき,悪意と同視すべき重大な過失がある旨をも主張する。
 しかしながら,前記(3)で判示したとおり,被告が,渋谷のマンションの室内の様子やAの車の内部の様子から,Aが既婚者であることを容易に知ることができたとの事実を認めるに足りる証拠はない。
 むしろ,前記1で認定した事実経過(取り分け,被告は,通常は独身者が参加すると考えられているお見合いパーティーでAと知り合ったこと,Aは,被告との交際期間中,被告に対し,氏名,年齢,住所及び学歴等を偽り,一貫して独身であるかのように装っていたこと等)に照らすと,通常人の認識力,判断力をもってしてはAが婚姻していることを認識することは困難であったというべきであり,被告が,Aの実母に会って同人からAが既婚者であることを聞かされるまでの間,Aが独身であると信じて交際を続けていたことについて,過失があると評価することはできない。

(6) 以上のとおり,平成17年3月2日にAの実母からAが既婚者であることを聞かされるまでの間は,被告にAが婚姻していることの認識があったとは認められず,また,その認識がなかったことにつき被告に過失があるとも認められないから,被告がAと交際し性交渉を持ったこと等が原告に対する不法行為を構成するということはできない。

3 結論
 よって,原告の請求は,理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。(裁判官 武田美和子)

以上:7,579文字

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