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オーバーローン不動産住宅ローン返済金に清算を認めた家裁審判紹介

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令和 2年 5月23日(土):初稿
○「オーバーローン不動産住宅ローン返済分の共有持分を認めた地裁判決紹介」の続きで、オーバーローン不動産住宅ローン返済金に財産分与を認めた平成9年10月7日水戸家庭裁判所龍ケ崎支部審判(家庭裁判月報50巻11号86頁)を紹介します。

○協議離婚をした妻が夫に対して、夫に将来支給される退職金、夫が現在居住している土地建物及び離婚原因となった暴力行為の慰謝料・財産分与として合計2000万円の支払を求めました。これに対し、水戸家裁審判は、退職金が賃金の後払い的な性格を有することから、離婚時に相手方が任意に退職したと仮定して算出した金額を、現実に退職金が支給されたときに支払うとして、退職金につき財産分与を認めました。

○土地建物の財産分与については、土地建物の資産価値がゼロに等しく、相手方の有責行為の有無につき当事者間に争いがあることから、土地建物につき財産分与として請求することはできないとしましたが、妻が住宅ローン支払に寄与した金額を合計81万5233円として、その2分の1にあたる40万7616円は、申立人において支払ったものとして、その清算のために相手方から申立人に支払われるべきものとするのが相当としました。

○オーバーローン不動産住宅ローン返済分について清算を認めるのは珍しい審判ですが、残念ながら、東京高裁で覆されており別コンテンツで紹介します。しかし、水戸家裁の論理は妻側としては使えます。

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主   文
1 相手方は、申立人に対し、100万円とこれに対する本審判確定の日から支払済まで年5%の割合による金員を支払え。
2 相手方は、申立人に対し、相手方が○○株式会社から退職金を支給されたときは、769万1666円とこれに対する同支給日の翌日から支払済まで年5%の割合による金員を支払え。

理   由
1 申立ての趣旨
イ 相手方から申立人に対し1450万円を分与する。
ロ 相手方は、申立人に対し、上記金額を含めて2000万円を支払え。

2申立ての理由
イ 申立人(昭和26年2月14日生)と相手方(昭和18年7月8日生)は、昭和47年2月1日婚姻し、同年6月29日長女聡美、昭和51年4月22日二女淑美、昭和53年1月14日三女博美が出生した。

ロ 相手方は、18歳の頃から現在まで△△(現在は○○(株))の保線区員として勤務し、現在は助役の地位にある。
 申立人は、相手方の安い俸給で家計をやりくりし、苦労をしながら長女に短大を卒業させ、二女、三女も高校に通わせ、相手方に対しても不自由させることなく尽くしてきた。

ハ 申立人は、3人の子らを短大と高校に通わせるようになるにつれて、相手方の俸給だけで生活を維持していくことが困難になり、外に出て働くようになった。
 その頃から、申立人と相手方の夫婦仲が悪くなり、相手方は、些細なことで暴力を振るうようになり、申立人はこれに耐えられず、夫婦の仲は冷えていった。
 そして、両者は、平成7年8月23日、二女及び三女の親権者を相手方として協議離婚をした。

ニ 相手方は、離婚時点において、34年間△△に勤続したことになるから、基本給を40万円とすれば、1900万円を下回らない退職金が支給されることになる。
 また相手方は、本籍地所在の借地の上に住宅を建築して居住しているが、この土地建物の価格は、債務を差し引いたとしても1000万円を下回らない。
 相手方がこれらの財産を取得するにつき、申立人の長年の寄与は計り知れないものがあり、その合計価格の2分の1に相当する1450万円が、相手方から申立人に財産分与されるべきである。

ホ 申立人と相手方の離婚の原因は、相手方の度重なる暴力行為など粗暴な振舞いによるところが大きいから、相手方は、申立人に対し、離婚慰謝料を支払うべきであるが、その額は、500万円をもって相当とする。

3 相手方の答弁と主張
イ 申立ての理由イの事実は認める。

ロ 同ロのうち、申立人が相手方に対して不自由させることなく尽くしてきたことは否認し、その余は概ね認める。

ハ 同ハのうち、申立人が平成3年6月ころからパートに出たこと、申立人と相手方が平成7年8月23日に二女及び三女の親権者を相手方として協議離婚をしたことは認め、その余は否認する。
 申立人がパートに出た理由は、「早く結婚したので青春のやり直しをする」というものであり、その後の料理店での仕事は、自分の遊興のためであった。
 相手方が申立人を殴ったのは3回(平成6年8月13日、29日、平成7年1月25日)と思うが、申立人に殴られるような非があり、相手方だけを責めることはできない。

ニ 同ニのうち、相手方が△△及び○○に長年勤続していること、借地上に建物を所有していることは認め、その余は否認する。
 相手方は,定年までに数年を残しており、退職金請求権を確定的債権として財産分与の対象とするのは不適切である。 
 借地権は相手方の祖父が取得したものを父が相続し、更に相手方の母が承継し、これを相手方が平成3年12月に承継した(相手方が建物を新築した際に借地人の名義も相手方とした)ものであり、その後母が死亡して相手方が借地人の地位を承継したのであるから、夫婦の協力によって取得した財産ではなく、財産分与の対象とはならない。
 建物は、全て相手方の借金で建築したもので、平成9年4月末日現在で○△○に1650万5471円、○△銀行(抵当権者は甲)に1078万8352円の残債務があり、資産価値はない。
 申立人は、相手方に無断で相手方名義で別紙立替払金一覧表記載の債権者から金員を借入れたが、これを相手方において返済し又は今後返済しなければならない。その合計額は、80万円であり、相手方はこの返済を申立人に求める。

ホ 同ホは争う。
 離婚原因は申立人にあるから、相手方が慰謝料を支払う義務はない。

4 裁判所の判断
イ 退職金の半分相当額の分与請求について
 相手方に将来支給されることがほぼ確実である退職金は、賃金の後払い的な性格が強いものと考えられ、そうすると夫婦同居中に得た相手方の賃金は、結果として夫婦の協力により取得した財産とみなされるべきものであるから、退職金に関して申立人にも何らかの権利があるといわざるを得ないというべきであり、財産分与としては、離婚時に相手方が任意に退職したと仮定して、その際に支給されるであろう退職金相当額から所得税等相当額を控除した残額の半分に相当する金額を基本として、婚姻以前の勤続年数(10年)とこの勤続10年の場合の退職金の支給率(15.0)をも考慮して定めた金額を、現実に退職金が支給されたときに、申立人から相手方に支払うべきものとするのが相当である。

 まず離婚時に退職した場合の退職金相当額から所得税等相当額を控除した残額の半分に相当する金額を算定すると以下のとおりである。
 退職金計算の基礎となる離婚当時の俸給額につき、相手方は、基本給38万7800円から加算給3万7020円を控除した35万0780円であると主張するが、これを証明する資料の提出が容易であるのにこれをせず、また基本給から加算給を控除するという説明が不自然であるから、この主張は採用せず、概算額として40万円を算定のための基本給とする。
{40万円×54.0(勤続33年の支給率)-30万円(所得税及び市町村税の概算合計額)}×1/2=1065万円
 そして財産分与の額は、この1065万円から、婚姻前の勤続年数分の支給率である15.0に当たる分を差し引いた残額とするのが相当であるから、結局、1065万円×39(=54-15)/54=769万1666円とする。

ロ 建物及び借地権について
(a)相手方単独名義の建物(軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建、1階90.23平方メートル、2階59.70平方メートル、平成3年10月28日新築)には、○△○(登記上の債権額1690万円)と甲株式会社(同じく債権額1200万円)の抵当権(債務者はいずれも相手方)が設定されており、現在でもこれら住宅ローンの債権額は合計して160万円程度しか減少していないことが認められ、資産価値はほとんどゼロであること(建物の固定資産税評価額は800万円強とのことである)が容易に推測される。したがって、建物の価額の半分を財産分与として請求することはできないというべきである。

(b)上の2口の住宅ローンの返済については、平成4年1月から平成7年4月までは相手方の実母からの援助で賄っていたことが認められ、申立人が返済について寄与しているのは、○△銀行に対する返済については、平成3年12月分と平成7年5月から8月分まで(ただし8月分は離婚前日の22日までの日割計算額)の返済合計額38万4032円、○△○への返済については、平成7年5月から8月分まで(ただし8月分は離婚前日の22日までの日割計算額)の返済合計額43万1201円と認められ、この合計81万5233円の2分の1にあたる40万7616円は、申立人において支払ったものとして、その清算のために相手方から申立人に支払われるべきものとするのが相当である。

(c)借地権については、建物を新築した平成3年に更新料200万円を地主に支払って借地人名義を相手方としたこと、この200万円のうち、夫婦が共同で負担したのは60万円(自己調達分50万円と兄弟への婚姻期間中の返済額10万円の合計)であることかが認められ、したがってその半分である30万円は、申立人が支払ったものとして、その清算のために相手方から申立人に支払われるべきものとするのが相当である。

ハ 申立人が相手方名義でした借金について
 これらの借金につき、もっぱら申立人の個人的な用途に費消したと認めるに足りる資料はなく、夫婦の共同財産の清算として申立人から相手方に支払うべきものがあるとは認められない。

ニ 申立人の慰謝料請求について
 申立人の請求する慰謝料は、いわゆる離婚慰謝料と解されるが、その根拠となる相手方の有責な行為の有無につき当事者間に争いがあり、本件手続において財産分与の一要素として審理し判断を下すことは不適当と認められるから、これについて判断しないこととする。相手方が主張する慰謝料についても同様である。

ホ 以上述べたところと、離婚後に申立人において高校在学中の三女の養育費を一部負担したところを考慮し、相手方は、申立人に対し、財産分与として、869万1666円を支払うべきものとするのが相当であるが、その支払時期については、内金769万1666円については相手方が退職金を支給されたとき、その余の100万円については直ちに支払うべきものとするのが相当である。
 よって、主文のとおり審判する。

(別紙)
立替払金一覧表
 債権者 返済期間           立替払残額
1 乙 平成7年1月~平成 9年 5月 支払い済
2 丙 平成6年1月~         6/1現在 280,000
3 丁 平成6年6月~平成 7年12月 支払い済
4 戊 平成4年6月~平成 7年11月 支払い済
5 戊 平成5年4月~平成10年 2月 6/1現在 140,000
6 己 平成7年4月~平成 9年10月 6/1現在 380,000
  合計                      800,000
以上:4,652文字

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