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賃借人の転借人に対する明渡請求を棄却した地裁判決紹介

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令和 2年 5月22日(金):初稿
○令和2年4月1日施行改正民法の改正された条文は多岐に渡りますが、第7節賃貸借の条文にも改正条文が結構あります。その中で転貸借の改正条文を紹介します。

第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
第613条(転貸の効果)
 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
2 前項の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
3 賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には、賃貸人は、賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。ただし、その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでない。


○上記条文の太線部分は、条文が訂正されたもので、太下線部分は条文が新設されたものです。
転貸借は、第612条転貸の制限として、賃貸人の承諾が必要との条文は、従前のままですが、第613条転貸の効果として、1項は従前転借人は、「賃貸人に対し直接に」義務を負うとだけ規定されていたものが「賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する」義務を負うと詳しい内容に訂正されました。

○また第3項として「賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には、賃貸人は、賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。ただし、その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでない。」との規定が新設されました。いずれも、従前から判例よって認められていた解釈を正式に条文化したものです。

○改正前の事案についての判例ですが、転貸建物の賃貸人が,賃借人の賃料未払を理由に原賃貸借契約を解除したものの,同解除は賃貸人と賃借人の合意による解除であり,これによって転借人の権利は消滅しないとしして、賃貸人の転借人に対する建物明渡請求を棄却した平成31年2月21日東京地裁判決(判タ1468号171頁)関連部分を紹介します。

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主   文
1 被告会社の訴えのうち,別紙物件目録記載2の建物部分につき,被告Bの原告に対する賃料債務が存在しないことの確認を求める部分を却下する。
2 被告Bは,原告に対し,別紙物件目録記載2の建物部分を明け渡せ。
3 被告Bは,原告に対し,1564万2000円及びこれに対する平成28年7月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告と被告会社及び被告Bとの間で,被告会社が,原告に対し,別紙物件目録記載3の建物部分につき,別紙賃借権目録記載の賃借権を有することを確認する。
5 原告のその余の請求及び被告会社のその余の主位的請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は,第一事件について,原告と被告Bの間に生じたものは被告Bの負担とし,原告と被告会社との間に生じたものは原告の負担とし,第二事件について生じたものは2分し,その1を被告会社の負担とし,その余を原告の負担とし,第三事件について生じたものは被告会社の負担とする。
7 この判決は,第2項及び第3項に限り,仮に執行することができる。
 
事実及び理由
第1 請求

【第一事件】
1 被告Bは,原告に対し,別紙物件目録記載2の建物部分を明け渡せ。
2 被告会社は,原告に対し,別紙物件目録記載3の建物部分を明け渡せ。
3 被告Bは,原告に対し,1564万2000円及びこれに対する平成28年7月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
【第二事件】
1 被告会社,原告及び被告Bの間で,別紙物件目録記載2の建物部分につき,被告Bの原告に対する賃料債務が存在しないことを確認する。
2 被告会社,原告及び被告Bの間で,別紙物件目録記載3の建物部分につき,被告会社が別紙賃借権目録記載の賃借権を有することを確認する。
【第三事件】
1 主位的請求
 原告及び被告Bは,被告会社に対し,各自209万1534円及びこれに対する平成28年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 予備的請求
 被告Bは,被告会社に対し,527万3340円及びこれに対する平成28年7月2日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

         (中略)


第3 当裁判所の判断
1 訴えの利益について

 被告会社の第二事件に係る訴えのうち,被告会社が,原告及び被告Bに対し,本件建物部分1について被告Bの原告に対する賃料債務の不存在の確認を求める訴えは,他人である原告と被告Bの間の権利関係の存否の確認を求めるものであり,かつ,当該権利関係を判決主文において確認することが,被告会社と原告又は被告会社と被告Bの間の法的紛争を解決するために必要とは認められないから,訴えの利益があるとはいえない。
 したがって,上記訴えは却下されるべきである。

2 認定事実
 後掲各証拠と弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 本件建物の使用状況(甲14,被告A本人)
 原告は,元々木材業を営んでいたが,平成5年頃に木材業を廃業した。
 本件建物は,平成7年から平成8年2月にかけて,大規模な修繕工事が行われた。その後,Gが本件建物の301号室ないし303号室並びに4階部分を,Hが本件建物の202号室,203号室,205号室及び206号室を,Dが本件建物部分1を使用するようになった。このほか,本件建物の1階部分を3分の1ずつに分けて,G,H及びDがそれぞれ3分の1ずつ使用するようになった。
 Dは,本件建物部分1の使用を始めるに当たり,本件建物部分1を第三者に賃貸することを予定しており,被告Aも,具体的な入居者名までは把握していなかったものの,そのことを認識していた(被告A本人)。

(2) 原告における未収入金及び賃料収入の計上(甲13)

         (中略)

2 争点1(第1賃貸借契約の存在及び債務不履行)について
(1) 第1賃貸借契約の存在について
ア 原告は,平成8年3月1日,Dとの間で第1賃貸借契約を締結したと主張し,原告代表者である被告Aは,これに沿う供述をする(被告A本人)。被告Bは,第1賃貸借契約の締結を認めるが,独立当事者参加人である被告会社は,第1賃貸借契約は原告及び被告Bが作出した架空の契約であるとして,その存在を争っている。

イ そこで検討すると,第1賃貸借契約に係る契約書は作成されていないものの,認定事実(2)イのとおり,原告において,少なくとも平成20年4月1日以降から継続的にDからの賃料収入が計上され,原告は,D,G及びHからの賃料収入のみを運転資金として運営され,税金等の支払もしていたものである(甲13)。また,被告会社は,本件建物の所有権を有しないDとの間で賃貸借契約(第3賃貸借契約)を締結して本件建物部分2を占有していたところ,被告会社の占有権原を法的に根拠付けるため,Dと本件建物の所有者である原告との間でも,原賃貸借契約が締結されていたとみるのが自然である。これらの事情によれば,原告とDとの間で第1賃貸借契約が締結されたとする被告Aの供述は信用することができ,原告は,平成8年3月1日,Dとの間で第1賃貸借契約を締結したものと認められる。
 なお,原告とDが平成8年3月1日に第2賃貸借契約を締結したことは,原告と被告Bとの間で争いがなく,認められる。また,証拠(甲4)と弁論の全趣旨によれば,Dの相続開始により,被告Bが第1賃貸借及び第2賃貸借契約における賃借人の地位を承継したことが認められる。

ウ これに対し,被告会社は,第1賃貸借契約に係る契約書が作成されていないこと,契約期間が定められていないこと,原告に対し賃料が毎月定期的に支払われたことがなく,賃貸人及び賃借人ともに賃料の回収・支払の意思がなかったこと等を理由に,第1賃貸借契約は架空の契約であると主張するが,上記イで述べたところによれば,原告が主張する上記事情は,第1賃貸借契約の存在についての上記イの認定判断を覆すものとまではいえず,採用することができない。

(2) 第1賃貸借契約の債務不履行について
 原告は,第1賃貸借契約は,D及びDから賃借人の地位を承継した被告Bの賃料未払の債務不履行を理由に解除されたと主張する。被告Bは,原告の主張を全て認めるが,被告会社は,第1賃貸借契約が架空の契約であることを理由に,上記債務不履行の事実を否認する。

 そこで検討すると,原告は,第1賃貸借契約の賃料を月額12万6000円と主張しているところ,認定事実(2)イのとおり,原告はDからの「居住部分」(本件建物部分1と考えられる。)の賃料収入として,毎年151万2000円を計上しているところ,同金額は,原告が主張する第1賃貸借契約の1年分の賃料の額と一致する上,認定事実(2)アの賃料未収入金も,その算定根拠が不明であること等からすれば,第1賃貸借契約について賃料不払があったかについては疑問を差し挟まざるを得ない。

 もっとも,原告と被告Bの間で,第1賃貸借契約及び第2賃貸借契約に係る被告Bの未払賃料の額並びに第1賃貸借契約が解除されたことは争いがないから,原告の被告Bに対する請求を棄却すべき理由はない。
 したがって,原告の被告Bに対する第1賃貸借契約及び第2賃貸借契約の平成28年6月末日時点の未払賃料1564万2000円の請求並びに本件建物部分1の明渡請求は,いずれも理由があるものと認められる。

3 争点2(原告の被告会社に対する明渡請求の可否)について
(1) 被告会社は,原告の被告会社に対する本件建物部分2の明渡請求は,被告会社の占有の排除を目的として,第1賃貸借契約の債務不履行解除という虚偽の法律構成に仮託してされたものであり,信義則に違反し又は権利濫用に該当する旨主張する。また,第1賃貸借契約の解除は,原告と被告Bによる合意解除であるから,原告は被告会社に対し本件建物部分2の明渡しを請求することができない旨主張する。

(2) そこで検討すると,上記2(2)で述べたとおり,第1賃貸借契約についてD及び被告Bによる賃料不払があったことについては疑問を差し挟まざるを得ない。また,仮に賃料不払があったとしても,認定事実(2)イのとおり,原告は,平成20年4月以降,D,G及びHに対する多額の賃料未収入金が累積していたにもかかわらず,その回収をほとんどしていない上,原告が,賃借人であるG,D及びHを株主とする同族企業であったことをも併せて考慮すると,原告は,G,D及びHに対して賃料の支払を猶予していたことが優に推察される。

この点,被告Aは,Dに対し第1賃貸借契約に係る賃料を支払うよう催告していたが,Dに支払を拒否されたために賃料未収入金が累積した旨供述する(被告A本人)が,認定事実(2)イのとおり,原告が,G及びHに対しても,Dと同じ割合で賃料未収入金を累積させていたことからすれば,原告は,G,D及びHに対して,一律に賃料の支払を猶予していたとみるのが相当であり,被告Aの上記供述を信用することはできない。

 以上のとおり,第1賃貸借契約の賃借人である被告Bには,原告による第1賃貸借契約の債務不履行解除の効力を争うべき理由が大いにあったと認められるにもかかわらず,被告Bは,原告から第1賃貸借契約の債務不履行解除を主張された当初から,原告の主張を争っていない(弁論の全趣旨,当裁判所に顕著な事実)。

しかも,認定事実(3)のとおり,被告Bは,原告が第1賃貸借契約の債務不履行解除の意思表示をした日(平成28年7月1日)の1年5か月前である平成27年2月12日に,原告代表者である被告Aに対し,第1賃貸借契約及び第3賃貸借契約の解除の件を全て委任し,被告Aを代理人として被告会社に対して第3賃貸借契約の解約を申し入れでいた上,被告Aは,この頃,第1賃貸借契約に賃料の滞納がある旨を被告会社に述べていなかったところ,このことは,原告が,当初は,第1賃貸借契約及び第3賃貸借契約の合意解約を希望しており,被告Bもそうした原告の意向に同調していたことを示すものといえる。以上の経緯を考慮すると,原告による第1賃貸借契約の解除は,債務不履行解除の形式がとられているものの,転借人である被告会社との関係では,原告と被告Bの合意による解除と評価すべきものというべきである。

(3) ところで,賃借人が賃借家屋を第三者に転貸し,賃貸人がこれを承諾した場合には,転借人に不信な行為があるなどして賃貸人と賃借人との間で賃貸借を合意解除することが信義,誠実の原則に反しないような特段の事由がある場合のほか賃貸人と賃借人とが賃貸借解除の合意をしてもそのため転借人の権利は消滅しないものと解するのが相当である(最高裁昭和34年(オ)第979号同37年2月1日第一小法廷判決・裁判集民事58号441号参照)。

 本件においては,認定事実(1)のとおり,第1賃貸借契約の締結に当たって,原告とDとの間で,Dが目的物件である本件建物部分1を転貸することが予定されていた上,原告は,その後Dによる転貸について何ら異議を述べていなかった(弁論の全趣旨)ことからすれば,原告は,転貸借である第3賃貸借契約を承諾していたと認めるのが相当である。そして,本件において,転借人である被告会社に不信な行為があるなど上記特段の事由を認めるべき証拠は見当たらない。
 したがって,第1賃貸借契約の解除によっても,被告会社の第3賃貸借契約に係る賃借権は消滅しないものと認められ,原告の被告会社に対する本件建物部分2の明渡請求には理由がない。


(4) 上記(3)のとおり,第1賃貸借契約の解除により被告会社の第3賃貸借契約に係る賃借権が消滅しない結果,原告は,第3賃貸借契約の賃貸人の地位を承継すると解するのが相当である。
 したがって,被告会社は,原告に対し,第3賃貸借契約に係る賃借権を有することが認められる。

4 争点3(被告A及び被告Bの被告会社に対する本件訴訟提起等に係る共同不法行為)について

         (中略)


第4 結論
 よって,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第33部
 (裁判官 砂古剛)


以上:6,058文字

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