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婚姻破綻していないとして離婚請求を棄却した高裁決定紹介2

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令和 2年 6月19日(金):初稿
○「婚姻破綻を認め有責配偶非該当として離婚を認めた家裁判決紹介2」の続きで、その控訴審である平成20年4月8日名古屋高裁判決(家庭裁判月報61巻2号240頁)を紹介します。

○夫である被控訴人が、妻である控訴人に対し、控訴人とは別居状態が約3年3か月継続しており、両名の婚姻関係は破綻しているとして、離婚を求めるとともに、長男の親権者と定めることを求めたところ、原審は離婚が認めました。

○これに対し、控訴人の妻が、控訴しましたが、控訴審判決は、控訴人と被控訴人の婚姻関係は破綻に瀕しているとはいえるが、控訴人は、現在も婚姻関係を修復したいという真摯でそれなりの理由のある気持ちを有していること、控訴人と被控訴人は別居に至るまでの3年余りの期間同居しており、同居期間中少なくとも被控訴人は、控訴人に対し大きな不満を抱くこともなく円満に婚姻生活を営んでいたのであるから、今後控訴人のうつ病が治癒し、あるいは控訴人の病状についての被控訴人の理解が深まれば、控訴人と被控訴人の婚姻関係が改善することも期待できるなどの諸事情を考慮すれば、控訴人と被控訴人との婚姻関係は、現時点ではいまだ破綻しているとまではいえないとして離婚請求を棄却しました。

○控訴審判決は、「控訴人のうつ病が治癒すれば,控訴人と被控訴人の関係や控訴人と被控訴人の親族との関係も改善し,婚姻関係は円満に修復する可能性もなおあるのではないかと考えられる。」「控訴人の治癒を待ち,控訴人の病気の影響を取り除いた状態で,被控訴人に,控訴人及び長男Cとの今後の家族関係,婚姻関係に向き合う機会を持たせることが相当」としていますが、一度離れた気持は、元に戻ることは先ずありません。

○被控訴人の夫は、納得できず上告受理申立をしていますが、不受理となっています、数年後に再度離婚請求訴訟が出されて、最終的には離婚が認められると思われます。離婚後の扶養等お金の問題として、離婚自体は破綻主義で解決する方が合理的と思うのですが。

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主   文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の本訴請求を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審(当審における反訴について生じた部分を含む。)とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判

1 控訴人
(控訴の趣旨)
 主文同旨
(反訴事件の請求の趣旨)
 離婚請求が認容されたときに予備的に次の附帯処分を求める。
 被控訴人は,控訴人に対し,財産分与として相当額の金銭を支払う。

2 被控訴人
(1)本件控訴を棄却する。
(2)控訴費用は控訴人の負担とする。

第2 事案の概要
1 本件は,平成14年×月×日に婚姻届出をした夫婦の夫である被控訴人が,妻である控訴人に対し,平成16年×月×日以降別居状態が継続していて,婚姻関係が破綻していると主張して,民法770条1項5号に基づき離婚を求めるとともに,長男C(平成14年×月×日生)の親権者を被控訴人と定めることを求めた事案である。

 控訴人は,婚姻関係は破綻しておらず,婚姻を継続し難い重大な事由はない旨,仮に婚姻関係が破綻していたとしても,被控訴人の母からの様々な干渉と執拗な嫁いびりにより精神的な虐待を受け,被控訴人に助力,協力を求めても被控訴人がこれに理解を示さず,その結果,控訴人は抑うつ状態に陥って婚姻関係が悪化したものであって,婚姻関係破綻の責任は被控訴人にあり,有責配偶者である被控訴人からの離婚請求は許されない旨を主張して,これを争った。

 原審は,控訴人と被控訴人との婚姻関係は既に破綻しており,婚姻を継続し難い重大な事由があると認めた上,別居当時の控訴人の言動はうつ病の強い影響を受けていたところ,控訴人がうつ病となった原因に,被控訴人の母の言動や被控訴人の控訴人に対する配慮不足があることは否定できないが,過剰に「良い嫁,かわいい嫁」を意識した控訴人にも相応の原因があり,婚姻関係の破綻につき,被控訴人に離婚請求が許されないほどの有責性があるとはいえないとして,被控訴人の離婚請求を認容し,長男の親権者を控訴人と定めたところ,控訴人が離婚請求が認容されたことを不服として控訴をした。
 なお,控訴人は,当審において,離婚が認められたときは予備的に附帯処分として財産分与を求める旨の反訴請求をした。

2 前提となる事実関係

         (中略)


第3 当裁判所の判断
 当裁判所は,原判決と異なり,控訴人と被控訴人の婚姻関係はいまだ破綻しておらず,婚姻を継続し難い重大な事由があるとは認められないから,被控訴人の控訴人に対する本訴離婚請求は理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおり認められる。
(中略)


(1)以上認定の事実によれば,被控訴人が平成16年×月×日に離婚調停の申立てをして以来約3年3か月間(当審における口頭弁論終結日まで),控訴人と被控訴人は,別居状態にあり,調停や訴訟の機会を除くとほとんど話し合いの場を持つことができないこと,被控訴人が,婚姻関係を修復する意欲を相当程度失っており,離婚の意思を強くしていることが認められる。

(2)しかし,それにもかかわらず,控訴人は,婚姻関係の修復に強い意欲を有していることは前記認定のとおりである。
 控訴人は,△△県△△市での当事者夫婦だけを中心とし,被控訴人の母との接触が少なかったころの婚姻生活が円満なものであったことから,今一度,環境を整え,夫婦,親子三人で同じような生活をしたいという強い希望を有していることが窺える。控訴人は,△△市居住当時と現在の生活の違いをもたらしているのは,主に被控訴人の母の存在であるとの思いを抱き,同人の影響を受けない環境を確保できれば,控訴人及び被控訴人は,かつてのような円満な婚姻関係を取り戻すことができるはずであるとの気持ちが強い。

また,控訴人は,被控訴人の職場の所在地が被控訴人の実家に近いことから上記のような環境整備をすることが現実には困難であることも踏まえ,被控訴人の実家近くで生活するとしても,控訴人自身が気持ちを強く持ち,これまでは被控訴人の母から言われることは無理難題であっても従ってきたが,これからは被控訴人の母に憎まれることを恐れず,被控訴人の母にも言いたいことを言うなどしてストレスを貯めないようにしたい旨の意向を示している(乙2,3,原審の被控訴人本人)。

 そして,控訴人は,△△県△△市に居住していたころの婚姻生活や控訴人の良き理解者であった被控訴人の態度を顧みれば,被控訴人の母の存在が被控訴人の態度や判断に影響を与えており,それを直すことができれば婚姻関係を修復することができるとの考えを抱いている(乙2,3)。
 控訴人のこの思いの強さは,被控訴人が離婚調停を申し立てた後の平成17年×月に控訴人自身の実家からあえて○○市の居宅へ戻り,控訴人と婚姻関係修復の方向での話し合いの機会を持とうとしたことからも窺える。

(3)以上のような控訴人の認識については,前記認定のうつ病の影響もあって客観的な事実認識に支障が生じ,被控訴人の母の言動に過剰な反応をしている面があり,客観性を欠くものではないかが懸念される。
 ただし,控訴人は,現在もうつ病の治療のために通院をし投薬治療やカウンセリングを受けており,控訴人のうつ病は,今後改善,治癒する可能性がある。また,被控訴人は,医師からうつ病を根本的に治すために夫婦カウンセリングを受けることを勧められており,夫である被控訴人も夫婦関係や嫁姑関係等について医師のカウンセリングを受け,控訴人のうつ病についての認識理解を深めることで,控訴人に対する治療効果の増進も期待できるのみならず,これにより,控訴人及び被控訴人双方の嫁姑関係,夫婦関係,親子関係に対する認識の齟齬がかなりの程度解消する可能性もある。

 そもそも,被控訴人と控訴人は,婚姻前の平成12年秋ころから同居し,円満な同棲関係から長男Cの出生を機に婚姻したものであって,相当期間円満な同居生活・婚姻生活を送ってきた夫婦であり,被控訴人は,平成16年×月に控訴人から○○市の居宅へ帰りたくない旨を言われるまでは,控訴人との別居や離婚を考えたことはなく,控訴人の言動に離婚や別居を考えるほどの大きな不満は感じてはいなかったものであることを想起する必要がある

 被控訴人が控訴人との離婚を考えるようになったのは,平成16年×月に控訴人が帰省先の控訴人の実家から○○市の居宅に帰りたくない旨を言い出した後,同年×月に被控訴人が帰宅するよう控訴人を説得するために控訴人の実家に赴き,控訴人と話し合いをしたころであり,被控訴人は,これらの話し合いの中での控訴人の言動に嫌気がさしたり不信感を感じるようになって離婚を決意するに至ったものであるが,上記の時期は,控訴人がうつ病に罹患しながら,いまだ治療を受けていないか,あるいは治療が開始したばかりのころであって,上記の時期における控訴人の被控訴人に対する感情的,攻撃的な言動は,うつ病の影響を受けたものでもあったと考えられる。

また,控訴人は,治療により平成16年当時よりは症状が軽快しているとはいえ,現在もうつ病の治療中であり,現時点の被控訴人の母との関係等についての事実認識や言動も,うつ病の影響を受けている可能性が少なからず窺える。そうすると,控訴人のうつ病が治癒すれば,控訴人と被控訴人の関係や控訴人と被控訴人の親族との関係も改善し,婚姻関係は円満に修復する可能性もなおあるのではないかと考えられる。

(4)(3)のように修復可能性に期待するには,もちろん被控訴人に無理を強いる面があることは否定し難い。前記のような感情的で反発的な控訴人の態度に,被控訴人が疲れ果て嫌気がさし,控訴人とこの先認識の食い違いを抱えたまま一緒に生活していくことは困難であると考えることは,その心情としては理解できないところではない。ただ,これをそのまま是認するのは,いささか躊躇を覚えるのである。

というのも,被控訴人は,控訴人からうつ病に罹患している旨を聞かされていながらこの治療に協力したりその治癒を待つことなく,平成16年×月に事実上の別居状態が開始してから4か月程しか経たない同年×月に早くも離婚調停を申し立て,平成17年×月に□□県の控訴人の実家から○○市の居宅に戻ってきた控訴人と正面から向き合わずに,同居や婚姻関係の修復を拒絶して,被控訴人の実家で生活をするようになり,同所から歩いてわずか15分の距離にある○○市の居宅に居住する長男に会いに行くこともせず,現在まで控訴人らとの交流は避けているのであり,これはいささか感情に流された行動のように思われる。

 そして,被控訴人が離婚を考える原因となった控訴人の言動は,うつ病の影響を受けたものである可能性があるのであるから,控訴人の治癒を待ち,控訴人の病気の影響を取り除いた状態で,被控訴人に,控訴人及び長男Cとの今後の家族関係,婚姻関係に向き合う機会を持たせることが相当であると考えられる。

(5)上記の(1)から(4)を総合すると,次のとおりにいうことができる。すなわち,控訴人と被控訴人の交流は平成17年×月ころからほとんどない状態となり,控訴人は,平成19年×月には,長男と共に控訴人の実家近くのマンションに転居するなど,控訴人と被控訴人の婚姻関係は破綻に瀕しているとはいえるが,控訴人は,現在も婚姻関係を修復したいという真摯でそれなりの理由のある気持ちを有していること,控訴人と被控訴人は平成12年秋ごろから平成16年×月までの3年余りの期間同居しており,同居期間中少なくとも被控訴人は,控訴人に対し大きな不満を抱くこともなく円満に婚姻生活を営んでいたのであるから,今後控訴人のうつ病が治癒し,あるいは控訴人の病状についての被控訴人の理解が深まれば,控訴人と被控訴人の婚姻関係が改善することも期待できるところである。以上の諸事情を考慮すれば,控訴人と被控訴人との婚姻関係は,現時点ではいまだ破綻しているとまではいえない。

3 したがって,控訴人と被控訴人との間には,婚姻関係を継続し難い重大な事由があるとは認められず,被控訴人の本訴請求には理由がない。
 なお,上記のとおり,本訴の離婚請求は理由がなく,これを認容することはできないから,離婚請求が認容された場合の附帯処分として財産分与の申立てをする控訴人の予備的反訴請求については,判断を要しない。

第4 結論
 よって,被控訴人の控訴人に対する本訴請求は,理由がないから,これと結論を異にする原判決を取消し,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 林道春 山下美和子)
以上:5,239文字

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