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婚姻破綻を認め有責配偶非該当として離婚を認めた家裁判決紹介2

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令和 2年 6月18日(木):初稿
○「婚姻破綻を認め有責配偶非該当として離婚を認めた家裁判決紹介」の続きです。離婚請求側の離婚事件を複数扱っており、いずれも婚姻破綻を争われ、婚姻破綻としても有責配偶者として離婚請求は許されないと争われており、参考判例を探しています。

○夫である原告が、妻である被告に対し、被告とは別居状態が約2年半継続しており、両名の婚姻関係は破綻しているとして、離婚を求めるとともに、長男の親権者を原告と定めることを求めました。

○この請求に対し、両名の婚姻関係は破綻しているとした上で、別居当時の被告の言動はうつ病の強い影響を受けていたものと考えられ、被告の責任とはいえないが、原告としては、それによってすっかり関係修復の意欲を失っており、そのこと自体はやむを得ないといえるところ、このような状態に至った原因としては、原告の母の言動と、被告への配慮に不足していた原告にあることは否定できないが、他方で、過剰に「良い嫁、かわいい嫁」を意識した被告にも相応の原因があるものと考えられるから、原告と被告との婚姻関係は既に破綻しており、婚姻関係を継続しがたい重大な事由があり、他方、原告に離婚請求が許されないほどの有責性があるともいえないとして、離婚を認め、長男の親権者を被告と定めた平成19年3月14日名古屋家裁岡崎支部判決(家庭裁判月報61巻2号251頁)を紹介します。

○残念ながらこの判決も、控訴審平成20年4月8日名古屋高裁で覆されています。別コンテンツで紹介しますが、一審で離婚が認められても控訴審で覆される例が結構あり、私も過去に経験があります。私は、破綻主義を原則とすべきと考えているのですが、一般に高裁は年配の裁判官が多いせいか、有責主義傾向が強くなります。

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主   文
1 原告と被告とを離婚する。
2 原告と被告との間の長男C(平成14年×月×日生)の親権者を被告と定める。
3 訴訟費用は,被告の負担とする。

事実及び理由
第1 原告の請求

1 主文1項と同旨
2 原告と被告との間の長男C(平成14年×月×日生)の親権者を原告と定める。

第2 事案の概要
1 前提となる事実関係
(実質的に争いがなく弁論の全趣旨により認める)
(1)原告(昭和52年生)と被告(昭和52年生)は,平成14年×月×日に婚姻の届出をした夫婦であり,長男C(平成14年×月×日生)がいる。
(2)原告と被告は,被告と原告の母との折り合いが悪いことなどのため,平成16年×月×日ころから別居しており,長男は被告が養育している。なお被告は,別居してすぐに,うつ病による抑うつ状態と診断されている。

2 原告の主張
 被告は,別居当時離婚すると述べており,それ以来別居を継続していて,婚姻関係は破綻しており,修復は困難である(民法770条1項5号)から,離婚を求める。原告には,長男を養育する意思と能力があり,親権者は原告とすることを求める。

3 被告の主張
 原告と被告の婚姻関係は破綻していない。現在別居中であるが,被告と原告の母との嫁,姑関係を見直し,原告と被告の双方が関係改善の努力をすれば,容易に関係は修復される。原告には夫として同居,協力の義務がある。仮に百歩譲って離婚原因があるとしても,責任は原告にある。被告は,原告の母から一方的で様々な過干渉を受け,精神的虐待ともいうべき嫁いびりを執拗に繰り返されたため,原告の助力,協力を求めたが,原告は理解を示さず,その結果,被告はうつ状況に陥った。原告は有責配偶者である。

第3 当裁判所の判断
1 証拠(甲4ないし6号証,乙1ないし3号証,原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおり認められる。
(1)原告と被告は,△△県内の大学の先輩,後輩として知りあい,原告が大学院1年,被告が大学3年となった平成12年秋ころから付き合うようになり,間もなく同棲した。被告は,平成13年×月ころに原告の子の妊娠が判明した。原告は,当時から被告との結婚を考えていたが,経済的に無理があると考えて堕胎を勧め,被告も従った。被告は,その際に原告が原告の母に申し訳が立たないなどと言ったことに傷つき,また,辛い思い出として残った。その後も原告と喧嘩すると,このことを思い出し,衝動的に家を飛び出すようなことがあった。

(2)平成13年の末ころに,再び被告が妊娠したことが判明したため,平成14年×月に入籍し,×月に出産した。被告は,頻繁に電話してくるなどの原告の母の言動に対して,強く干渉されているように感じ,原告に対しては,原告実家から離れた場所で,被告実家(□□県)にも近い関東で就職することを希望していた。しかし,原告の就職先は原告の地元に決まり,平成15年×月に,原告実家から徒歩15分ほどのアパート(被告現住所)に転居した。

(3)原告の母は,被告に対し,転居当初から,転居先や引越作業のこと,転居先のカーテンや家具,その置き方など,鳥を飼うこと,食材のこと,服装や化粧のこと,双方の実家との行き来のこと,などについて,いろいろな意見や注意を与えることがあった。このうちカーテンの問題は,転居先のカーテンを選ぶ際に,原告の母は,遮光カーテンが良いと勧めたが,被告としては,遮光カーテンの良さは理解しているが,値段が高く,原告が就職したばかりで経済的に厳しいため,原告とも相談して普通のカーテンにした,しかし原告の母は納得せずにその後も話題にした,というものである。

(4)原告の母は,思ったことを言ってしまい,しかも同じことを繰り返して話す傾向がある。被告は,原告の母の言動を,悪意の嫁いびりと感じるようになり,何度も原告に相談した。被告としては,原告は,話を聞いてくれ,1人で実家に話し合いに行ってくれたりするが,単にわずらわしいからしているだけで,愛情がないように感じ,また,原告の母に丸め込まれ,言いなりになっているようにも感じ,転居して原告がすっかり変わってしまったようにも感じた。また被告は,慣れない土地で周囲に古くからの友人もおらず,話せばかえって評判を落とし原告の母の耳にも入るかも知れない,などと考えて,原告以外に相談することもなかった。

(5)原告としては,母の言動は悪意からのものではなく,話を繰り返すのは老人にありがちのことである,例えば化粧などについては,被告は何かに熱中してしまうことがあり,子供が幼いうちは注意が必要であることを伝えようとしているのに,被告が真意を理解せずに悪意でけなされているように受け止めている,と感じていた。原告は,原告の母にも注意したが、被告に対して受け止め方の問題でもあるなどと話すと,被告はかえって感情的になってしまった。

(6)被告は,次第に精神状態が不安定となり,衝動的な言動が目立つようになって,喧嘩の際に自殺をほのめかしたりなどするようになった。原告は,被告の状態を心配して,ゆっくり話合いの機会を持ちたいと考えており,被告にはカウンセリングなどにも行くことも勧めたが,実現しなかった。 

(7)原告と被告は,平成16年×月に,長男を連れて被告の実家にお盆の帰省をした。被告の実家では,被告の様子が変わっており,原告の母との関係を心配して,両親が言い合いになったりした。同月×日ころ,原告は1人で自宅に帰ったが,車が故障したためで,別居などは考えていなかった。しかしその後の電話で,被告が,感情的になって,離婚になる,原告と原告の母に慰謝料を請求することになる,などと話すようになり,被告が離婚を考えており,原告を脅している,などと感じた。

(8)被告は,心配した周囲に促されて精神科を受診し,うつ病による抑うつ状態と診断され,原因は原告の母や原告との関係にあるとの説明を受けた。原告に対しては,原告が事態を深刻に受け止めていないように感じ,このままでは離婚になってしまうかも知れない,との思いを伝えたが,離婚するつもりはなかった。

(9)原告は,同年×月ころまでは,関係を修復しようと話し合いをした。しかし,原告の実家と距離をおくために社宅に転居するとの提案は拒否され,逆に被告からは,原告が会社を退職して関東方面に転居するという原告にとって非現実的な提案がなされたため,次第に,被告が感情的,一方的に非難する,原告の努力や思いを全く理解してくれない,などと感じるようになり,被告を信じる気持ちがなくなってしまった。最近では,双方を行き来する長男が不憫であるとの思いから,長男とも会っておらず,被告とはほとんど交流もない。

(10)被告は,次第に病状も安定して回復に向かっており,平成17年×月からは長男を連れて自宅に戻った(逆に原告が実家に戻った)。現在では,長男を幼稚園に預けて働いている。

2 以上のとおりであって,現在では,原告と被告の別居期間は既に約2年半を超え,ほとんど交流もない。被告には,原告との関係修復への強い思いがあるものの,その陳述書(乙1ないし3号証)や本人尋問においては,その多くが原告の母との確執について触れるもので,また原告の無理解を指摘してもおり,結局のところ,今後の原告との関係改善については,原告の変化を期待するに過ぎないものである。

ところで,別居当時の被告の言動はうつ病の強い影響を受けていたものと考えられ,被告の責任とはいえないが,原告としては,それによってすっかり関係修復の意欲を失っており,そのこと自体はやむを得ないといえる。このような状態に至った原因としては,原告の母の言動と,被告への配慮に不足していた原告にあることは否定できないが,他方で,過剰に「良い嫁,かわいい嫁」(被告本人)を意識した被告にも相応の原因があるものと考えられる。

原告の対応が遅れたうらみはあるものの,被告がうつ病となったことについては,原告にのみ責任があるというべき証拠はない。したがって,原告と被告との婚姻関係は既に破綻しており,婚姻関係を継続しがたい重大な事由(民法770条1項5号)があり,他方,原告に離婚請求が許されないほどの有責性があるともいえないから,原告の離婚請求は認められる。


3 長男は,同居中も主に被告が養育に当たっており,別居後は被告が養育しており,現在の被告の養育状況について特段の問題がある形跡はない(被告本人)から,長男の親権者は被告と定めるのが相当である。

4 よって,主文のとおり判決する。
(裁判官 井上秀雄)
以上:4,291文字

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