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別居妻から子らを監護中夫への子の引渡等申立を認めた家裁審判紹介

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令和 2年10月 3日(土):初稿
○「別居妻から子らを監護中夫への子の引渡等申立を却下した高裁決定紹介」の続きで、その原審平成31年2月22日福岡家庭裁判所大牟田支部審判(判時2450・2451号合併号15頁)を紹介します。
○別居中の妻である申立人が、夫である相手方に対し、本件子らは、母親による監護が必要な年齢であり、申立人による監護がされるべきであり、本件子らにつき、申立人を監護者と指定し、本件子らが申立人に引き渡されるべきと主張して審判を申し立てました。

○これに対し、福岡家裁大牟田支部審判は、当事者双方の監護能力、監護環境等については、いずれが特に優位にあるとまではいえないとしながら、従前の監護については主として申立人により行われた時期も比較的長期間あるほか、本件子らの心情を踏まえ、母親による監護が実施されることが、本件子らの福祉により適うとし、未成年者Cは、理解力も高く、一定程度の意思能力を有しているといえるが、子の福祉の見地から、本件子ら両名につき、同一の直接強制手続が執行されるのが相当であるとして、本件子らの監護者をいずれも申立人母と定め、相手方父は、申立人に対し、本件子らを引き渡せと命じました。

○「別居妻から子らを監護中夫への子の引渡等申立を却下した高裁決定紹介」記載の通り、原審審判は福岡高裁で覆されています。原審は、幼い子供は母親が育てるのが原則との一般論を形式的に当てはめて判断したのに対し、高裁決定は、現在の養育状況を優先して、具体的妥当性のある柔軟な判断のように思えます。

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主   文
1 本件子らの監護者をいずれも申立人と定める。
2 相手方は、申立人に対し、本件子らを引き渡せ。
3 手続費用は、各自の負担とする。

理   由
第1 申立ての趣旨及び当事者の主張
1 申立ての趣旨
 主文同旨

2 当事者の主張
(1)申立人の主張
ア 当事者双方は、平成30年4月6日以降、別居している。
 当事者双方の同居中は、本件子らの育児は、申立人がしており、相手方は、無職のときも育児をしなかった。

         (中略)

第2 当裁判所の判断
1 認定事実

 一件記録によれば、次の事実が認められる。
(1)申立人(昭和56年×月×日生)と相手方(昭和60年×月×日生)は、平成21年×月×日婚姻し、申立人と相手方の間に、平成22年×月×日長女・未成年者C、平成24年×月×日二女・未成年者Dが出生した。

(2)当事者双方は、婚姻当時F内に居住しており、平成23年9月頃、相手方の実家があるH内のアパートに転居した。当事者双方及び本件子らは、平成30年4月6日頃まで同居していた。

(3)
ア 平成30年3月頃、相手方は、申立人が出会い系サイトを利用しており、それにより知り合った男性とLINE(SNS)でやり取りをしたり、L付近まで男性に会いにいったりするなどしたことが判明した。
 当事者双方は、平成30年3月17日頃、申立人の両親も同席のもと、話合い、申立人は、相手方に対し、今後出会い系サイトで知り合った男性に連絡をしないことや、その連絡先のデータを消去することを約束した。

イ しかし、申立人は、平成30年4月2日、他の男性と共にラブホテルに行った。相手方は、申立人使用車両にGPSを取り付けていたことから、このことを知った。

ウ 相手方は、上記のような行動をした申立人を許せず、申立人に対し、別居を申し出た。これに対し、申立人は、相手方に対し、本来であれば自分が自宅のアパートを出て行くのが筋であるが、転居先のあてがない旨を答えるなどした。かかるやり取りの後、相手方は、本件子らを連れて相手方の実家に戻ることとした。申立人も、不本意ながらこれを拒まなかった。このようにして、平成30年4月6日頃以降、申立人と相手方及び本件子らは別居した。

         (中略)

2 検討
(1)認定事実のほか、家庭裁判所調査官による調査結果を含む一件記録によれば、相手方による本件子らの監護状況についてみると、相手方宅(実家)では、衛生面の問題もなく、監護補助も適切にされており、本件子らの成育状況に特段の問題もないものといえる。

 他方で、当事者双方の別居前の本件子らに対する監護状況についてみると、平成29年後半頃以降は、相手方が監護をする部分も多くなっていたといえるが、それ以前は、主として申立人による監護が継続されていたといえる。そうすると、上記別居前の時期に、相手方による監護が多くなっていたとはいえ、現在の相手方による監護は、平成30年4月の別居後のものであり、直ちにこの監護の継続を特に重視すべき状況にあるとまではいい難い。

(2)そこで、当事者双方の監護能力、監護環境等についてみると、当事者双方のいずれかが、監護能力、監護環境等につき特に優れているとまでは断じ難く、いずれについても、基本的には、経済面の問題も少なく、監護補助の態勢も整っており、本件子らを適切に監護するに足りる監護能力、監護環境等を備えているということができる。

 申立人については、抑うつ神経症にり患しているが、これは、一件記録によると、申立人が、従前相手方の仕事が安定せず、その反面、自己に経済的負担が重くかかっていると感じていた等の経済的事情や、相手方が本件子らの監護に必ずしも十分に関わっていないと感じていたことから、それらについての不満等を背景の1つとして発症したことが窺われる。しかし、現在申立人は、相手方との共同生活が解消され、実家に戻り、特段経済的に困難な状況にあるとはいえず、両親等の支援のもと、就労状況・精神症状のいずれも安定していることが認められる。

 相手方は、申立人の浪費、ギャンブルを指摘するが、相手方につき、特段家計の基礎を脅かすような浪費の事実を認めることまではできない。また、申立人のギャンブルについては、一件記録によると、上記のとおりの精神症状も関係していたことが窺われるが、現在その精神症状は快方に向かっているといえ、ギャンブルを続けているとも認められず、このようなギャンブル等に係る事情が申立人の監護者としての適性を直ちに否定することには繋がらない。

 申立人は、喫煙を続けていることが認められるが、現在の喫煙状況をみると、実家の衛生面への悪影響も認められず、本件子らの福祉を害する状況にあるとまではいえない。

 相手方は、申立人が頻回にわたり転職等を繰り返していたこと等を指摘する。しかし、一件記録によっても、かかる転職等の全てにつき申立人に帰責性があったとまでは断じ難い。また、従前の申立人の精神状況や経済的に苦しい状況にあったことを背景とする転職等もあったとみられるところ、申立人の精神症状も落ち着きをみせ、実家での両親等の支援を受けながらの安定した生活を送っていることからすると、現在も転職の可能性が高いなどと断じることはできず、その収入状況や待遇面からみても、現在の就業が継続される見通しが比較的高いと思われる。

 認定事実及び一件記録を踏まえると、申立人は、別居前の時期に、出会い系サイトを利用するなどして、他の男性と連絡を取り、男女関係を持つなどしたことが窺われるが、現在、かかる状況が続いているとは認められず、上記のとおり、申立人の精神症状、生活・就業状況が安定している中で、申立人が再度かかる行動に出る可能性が高いとまではいえない。

 他方で、相手方においては、認定事実のとおり、別居後、申立人と本件子らとの面会交流につき、従前は宿泊付きのものが実施されていたところ、申立人の了承を得ることなく、一方的に日帰りでの面会の方式に変更している。これについては,本件子らが面会交流に消極的態度を表明していたような事情も認め難く、かかる変更の理由が十分に申立人に説明されていたともいえず、相手方及び本件子らの各種の予定等により宿泊期間を制限するなどの必要があったとしても、従前実施されていた宿泊付き面会交流自体を取り止める必要性があったとまでは断じ難く、母子間の交流を必要以上に制限するものとして、子の福祉の観点からみて、適切な対応であったとはいえない。ただし、その後、宿泊付きの面会交流が再開されており、子の福祉の観点からみて、望ましい対応に戻っているといえる。

 なお、申立人は、相手方と他の女性との関係を指摘するが、一件記録によっても、相手方が、他の女性といわゆる男女関係を伴うような交際関係を有しているなどとまでは認め難い。 

(3)本件子らの心情等についてみるに、認定事実(6)オ及び一件記録によると、未成年者Cは、年齢相応の成長をしており、理解力が比較的高いといえるところ、その心情として、母である申立人により強い好意を示し、申立人及び未成年者Dと共にE内に居住することを明確に希望している。未成年者Cは、相手方やその母の監護、監護補助に特段の不満を有しているとはいえないものの、申立人が母親として、より適切に自己の意向・心情等を把握して対応してくれるなど、より強い精神的結びつきを感じ、母親からの愛情を得ることを欲していることが窺われ、相手方の母等の監護補助のみでは、そのような母性的関りが十分に代替されているとまではいえないものとみられる。

 未成年者Dについても、母親である申立人により好意を持っている旨の心情を明確に示しているといえる。また、本件子らの関係は、良好とみられ、本件子らを分離して監護すべきでない。
 一件記録によると、未成年者Cは、家庭裁判所調査官による心情等の調査後の平成30年10月に小学校の女子フットベースボール部に入部し、その活動に励んでいること等が認められるが、これを含めた上記調査後の事情を踏まえても、本件子らの上記心情等につき特段の変化があったとまでは認め難い。

(4)以上を総合すると、当事者双方の監護能力、監護環境等については、いずれが特に優位にあるとまではいえないものの、従前の監護については主として申立人により行われた時期も比較的長期間あるほか、本件子らの心情を踏まえ、母親による監護が実施されることが、本件子らの福祉によりかなうものと思料する。

 したがって、本件子らの監護者を申立人と指定するのが相当であり、相手方から申立人に対し、本件子らの引渡しがされるべきといえる。なお、未成年者Cは、理解力も高く、一定程度の意思能力を有しているといえるが、子の福祉の見地から、本件子ら両名につき、同一の直接強制手続が執行されるのが相当である。


3 結語
 以上の次第で、本件申立てはいずれも理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり審判する。
(裁判官 秋本昌彦)
以上:4,378文字

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