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実父養育費支払義務の消滅時期を調停申立月とした高裁決定紹介

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令和 3年 6月26日(土):初稿
○「実父養育費支払義務の消滅時期を養子縁組時とした家裁審判紹介」の続きで、その抗告審の令和2年3月4日東京高裁決定(判時2480号6頁)を紹介します。

○未成年者らの父である相手方が,母である抗告人に対し,離婚の際の合意により定められた未成年者らの養育費の支払義務の免除を求め、原審令和元年12月5日東京家裁は、毎月3人分合計18万円の養育費支払義務の消滅時期を養子縁組成立時の平成27年12月としていました。平成27年12月から毎月18万円の養育費支払義務が免除されると原審審判時の令和元年12月までの間に支払った約720万円が過払いとなり、実父は実母に対し返還請求できることになります。

○そこで実母は、長期間にわたり遡及して相手方の養育費支払義務を零とすることは、抗告人実母らに不測の損害を与えるとして抗告しました。相手方実父は、抗告人らは、日本における平均収入の何倍もの収入を得ており、未成年者らの監護について十分な資力があり、未成年者らと養子縁組をしたことは、相手方の養育費支払義務に関する新たな事情であるところ、抗告人実母は、相手方実父に対し未成年者らの養子縁組につき虚偽の報告をし、高額な生活費を維持するために相手方に養育費の負担を求めているにすぎないと反論しました。

○東京高裁決定は、相手方の養育費支払義務については,支払義務がないものと変更することが相当であるとし、ただし、既に支払われて費消された過去の養育費につきその法的根拠を失わせて多額の返還義務を生じさせることは,抗告人らに不測の損害を被らせるものであり、相手方は,養子縁組の成立時期等に重きを置いていたわけではなく,実際に本件調停を申し立てるまでは未成年者らの福祉の充実の観点から合意した養育費を支払い続けたものと評価できるとして,養育費の免除の始期については,本件調停申立月の令和元年5月とすることが相当であるとしました。

○養親は年収約3870万円もありますので、過払金720万円程度は大した金額ではないような気もしますが、亡父が設立した会社の4億円近い借金を連帯保証している上、前妻との子に対し月額35万円の養育費を負担しているとのことで、金持ちでも種々の事情があることを考慮したと思われます。

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主   文
1 原審判主文第1項を次のとおり変更する。
2 相手方の抗告人Yに対する未成年者らの養育費について、いずれも令和元年5月分以降は支払義務がないものと変更する。
3 手続費用は、第1・2審を通じ各自の負担とする。

理   由
第1 抗告の趣旨

1 原審判を取り消す。
2 相手方は、抗告人Yに対し、平成26年5月3日付離婚協議書第4条記載の養育費支払義務に基づき、未履行債務分を支払え。

第2 事案の概要
(以下において略称を用いるときは、別途定めるほか、原審判に同じ。)
1 本件は、未成年者らの父である相手方が、母である抗告人Yに対し、未成年者らの養育費の支払義務の免除を求めた事案である(なお、抗告人Yの現在の夫で、かつ未成年者らの養父である抗告人Zは、原審において利害関係参加人として手続に参加した。)。
 原審が、相手方の抗告人Yに対する未成年者らの養育費の支払義務を、平成27年12月15日以降、いずれも免除したところ、抗告人らがこれを不服として抗告した。

2 抗告の理由の要旨
 未成年者の実親と養親のそれぞれの養育費支払義務については、事案ごとの事情に応じた具体的な分担を衡平かつ柔軟に定めるべきである。相手方と抗告人Yの離婚の際の合意(以下「本件合意」という。)により定められた未成年者らの養育費は、月額18万円に加えて長女の学費、二女及び三女の学校教育費等も含む多額なものであり、これにつき相手方の負担を免れさせるべきではない(低額の養育費について養子縁組に伴い養親が負担すべきものとされる事例とは事情を異にする。)。

また、本件合意における養育費支払義務の内容が相手方によって提案されたものであること、高額の費用を要する長女のG留学が、抗告人Yの反対にも関わらず相手方においてその費用を負担する旨約束したことにより実現したものであること、相手方側には本件合意以降何ら事情の変更はないこと等に照らしても、相手方の養育費支払義務を免れさせることは妥当でない。

 また、原審判は、抗告人Zの平成30年度の収入が約3870万円であることのみを重視して、未成年者らの養育費の負担を全て抗告人Zに押し付けているところ、抗告人Zは、亡父が設立した会社の4億円近い借金を連帯保証している上、前妻との子に対し月額35万円の養育費を負担している等の状況にあり、このような事情を考慮しないことは不当である。

 さらに、原審判は、相手方の養育費支払義務を零とする始期を、縁組時である平成27年12月15日としている。しかし、抗告人Yは、養子縁組により相手方から養育費の支払を受けられなくなる事態など全く想定していなかったし、相手方に対し虚偽の報告をしたことはない。相手方は、ラインで長女とやりとりをしており、縁組の有無を確認することは相手方にとって容易であった上、長女のフェイスブックの登録名が変わったこと等から、縁組があったことを相手方が推測することも十分可能であった。さらに、未成年者らと抗告人Zの養子縁組後に相手方が既に支払った養育費は720万円程度に上っており、このような場合に、長期間にわたり遡及して相手方の養育費支払義務を零とすることは、抗告人らに不測の損害を与えるものであって不当である。

3 相手方の反論の要旨
 実母の再婚相手と未成熟子が養子縁組をした場合、養父となった者は、当該未成熟子の扶養を含めて、その養育を全て引受けたものであるから、実母と養父が、第一次的には未成熟子に対する生活保持義務を負うこととなり、実父の未成熟子に対する養育費支払義務はいったん消滅するというべきである。

抗告人らは、日本における平均収入の何倍もの収入を得ており、未成年者らの監護について十分な資力があるというべきであるし,抗告人Zが未成年者らと養子縁組をしたことは、相手方の養育費支払義務に関する新たな事情である。抗告人Yは、相手方に対し未成年者らの養子縁組につき虚偽の報告をし、さらに、協議自体を拒否したものであり、抗告人らの高額な生活費を維持するために相手方に養育費の負担を求めているにすぎない。

第3 当裁判所の判断
1 本件に関する事実関係について

 この点に関する当裁判所の認定は、以下のとおり補正するほかは、原審判「理由」第2の1に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)2頁9行目の「婚姻中である」を「平成10年4月23日に婚姻し、」と改め、同15行目の「支払うこと、」の次に以下のとおり加える。
 「長女の学費は大学卒業まで相手方が負担すること、二女及び三女の学校教育費も各々の大学卒業まで相手方が負担すること、」

(2)同頁16行目の「合意した。」を「合意し、平成26年6月17日に離婚した。」と改め、同17行目の「申立人と離婚した」を削り、同22行目から23行目の「平成30年に約3870万円の給与所得を得た」を「その平成30年の確定申告における課税所得は約3870万円である」と改める。

(3)3頁1行目末尾に行を改めて以下のとおり加える。
 「(6)相手方は、前記(5)の調停申立ての前月である平成31年4月まで、前記(2)の合意に基づき未成年者らの養育費を支払っており、前記(3)の未成年者らと抗告人Zの養子縁組の翌月である平成28年1月から上記平成31年4月までの40か月について支払済みの毎月の養育費(未成年者1人当たり6万円)は、合計720万円(6万円×40か月×3人)である。その他、相手方は、平成30年に長女のG留学に伴う授業料も支払っている。

(7)相手方は、平成27年11月24日に、抗告人Yから、再婚した旨と、未成年者らと抗告人Zが養子縁組を行うつもりであるとの報告を受けた。なお、前記(3)のとおり未成年者らと抗告人Zの養子縁組がされたのは同年12月15日であるところ、相手方は、同月18日に抗告人Yから未だ同養子縁組がされていないとの虚偽の報告を受けた旨主張している。」

2 相手方の養育費支払義務について
(1)両親の離婚後、親権者である一方の親が再婚したことに伴い、その親権に服する子が親権者の再婚相手と養子縁組をした場合、当該子の扶養義務は、第1次的には親権者及び養親となった再婚相手が負うべきものであり、親権者及び養親がその資力の点で十分に扶養義務を履行できないときに限り、第2次的に実親が負担すべきことになると解される。

 前記1によれば、相手方と抗告人Yは、未成年者らの親権者を抗告人Yと定めて離婚したところ、未成年者らは、抗告人Yの再婚に伴い、再婚相手である抗告人Zと平成27年12月15日に養子縁組をしたのであるから、同縁組により、未成年者らの扶養義務は、第1次的に抗告人らにおいて負うべきこととなったというべきである。そして、抗告人Zの平成30年の確定申告における課税所得が約3870万円であること(前記1における引用に係る原審判「理由」第2の1(4)(補正後のもの))に照らすと、抗告人らが、その資力の点で未成年者らに対し十分に扶養義務を履行できない状況にあるとはいい難い。したがって、本件合意に基づく相手方の養育費支払義務についてはこれを見直して、支払義務がないものと変更することが相当である。

(2)抗告人らは、前記第2の2のとおり、抗告人Zにおいて、亡父が設立した会社の4億円近い債務を連帯保証していること、前妻との子に対し養育費を負担していること、本件合意により定められた未成年者らの養育費が多額であること等の事情を挙げて、相手方の養育費支払義務を免除すべきでない旨主張するが、たとえ上記事情が存在するとしても、そのことから直ちに、抗告人らが未成年者の扶養義務を十分に履行できないと認めることはできないし、十分な扶養義務の履行ができないことを裏付けるに足りる資料は見当たらない。

3 養育費の免除の始期について
 一度合意された養育費を変更する場合に、その始期をいつとすべきかは、家事審判事件における裁判所の合理的な裁量に委ねられていると解されるところ、本件の具体的事情に応じて、以下この点につき検討する。
 前記1によれば、相手方は、本件調停申立ての前月である平成31年4月まで、本件合意に基づき未成年者らの養育費を支払っており、未成年者らと抗告人Zの養子縁組の翌月(平成28年1月)以降の相手方による支払済みの毎月の養育費は合計720万円に上る上、相手方は、長女のG留学に伴う授業料も支払っている。このような状況の下で、既に支払われて費消された過去の養育費につきその法的根拠を失わせて多額の返還義務を生じさせることは、抗告人らに不測の損害を被らせるものであるといわざるを得ない。

 また、相手方は、抗告人Yから、平成27年11月22日の再婚後間もなくの同月24日に、再婚した旨と、未成年者らと抗告人Zが養子縁組を行うつもりであるとの報告を受けている(前記1における引用に係る原審判「理由」第2の1(7)(補正後のもの))。したがって、これにより相手方は、以後未成年者らにつき養子縁組がされる可能性があることを認識できたといえ、自ら調査することにより同養子縁組の有無を確認することが可能な状況にあったというべきである

(この点につき相手方は、同年12月15日にされた未成年者らの養子縁組につき、同月18日に抗告人Yから未だこれがされていないとの虚偽の報告を受けた旨主張するものの、この点を裏付ける客観的資料は提出されていない上、仮に、同日時点で抗告人Yがそのような報告をしたとしても、その後も未成年者らにつき養子縁組が行われる可能性はずっと継続していたのであるから、相手方において同縁組の有無を知ろうとする意思があれば、自らの調査により同縁組の事実を確認することが可能であったことは何ら否定されない。)。

したがって、相手方は、抗告人Yの再婚や未成年者らの養子縁組の可能性を認識しながら、養子縁組につき調査、確認をし、より早期に養育費支払義務の免除を求める調停や審判の申立てを行うことなく、3年以上にもわたって720万円にも上る養育費を支払い続けたわけであるから、本件においては、むしろ相手方は、養子縁組の成立時期等について重きを置いていたわけではなく、実際に本件調停を申し立てるまでは、未成年者らの福祉の充実の観点から合意した養育費を支払い続けたものと評価することも可能といえる。

 以上の事情を総合的に考慮すれば、相手方の養育費支払義務がないものと変更する始期については、本件調停申立月である令和元年5月とすることが相当である(なお、抗告人らは、前記第1の2のとおり、未履行債務分の支払を求めるが、家事審判の抗告審においてこのような申立てを許容することは相当でないし、上記結論に照らせば、そもそも未履行債務分は存在しないことになる。)。

4 結論
 よって、相手方の抗告人Yに対する未成年者らの養育費については、令和元年5月分以降は支払義務がないものと変更することが相当であるところ、これと異なる原審判は相当でないから、上記のとおり変更することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 菅野雅之 裁判官 甲良充一郎 大澤知子)
以上:5,547文字

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