令和 7年 5月13日(火):初稿 |
○原告が、夫である被告Cと被告Bの間に平成25年から現在まで継続して不貞行為があったとして、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、連帯して、慰謝料500万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めました。 ○これに対し、被告らは、肉体関係を伴う親密な交際を始めたのは令和2年以降でその当時原告夫婦の婚姻関係は破綻していたと答弁し、被告Cが既婚者であることを被告Bが知ったのは令和3年以降であるとして争い、且つ、被告Bは原告の発現で名誉を毀損されたとして、慰謝料500万円支払を求める反訴を提起しました。 ○この争いについて、本件不貞行為は、原告ら夫婦の婚姻後1年余りの時期から、その後の中断の有無等は明らかでないものの、別居開始までの7年間以上にわたっている上、殊に令和2年頃以降は、継続的かつ濃密なものであり、相当に悪質であり、被告Bの不法行為責任は、本件不貞行為のうち令和3年10月19日以降の部分に限られるとして、被告らの不貞行為による原告に対する慰謝料総額は200万円と認定し、夫の被告Cに200万円、不貞行為相手方BにCと連帯して100万円の支払義務をみとめた令和5年11月15日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を照会します。 なお、被告B主張の事実摘示が公然と行われ、被告Bの名誉が毀損されたとは認められないとして被告Bの反訴請求は棄却されましたがその部分は省略します。 ********************************************* 主 文 1 被告Bは、原告に対し、被告Cと連帯して、100万円及びこれに対する令和4年7月18日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 被告Cは、原告に対し、200万円及びこれに対する令和4年7月16日から支払済みまで年3分の割合による金員(ただし、100万円及びこれに対する同月18日から支払済みまで年3分の割合による金員の限度で被告Bと連帯して)を支払え。 3 原告のその余の本訴請求をいずれも棄却する。 4 被告Bの反訴請求を棄却する。 5 訴訟費用は、本訴反訴を通じ、これを5分し、その1を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。 6 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 本訴 被告らは、原告に対し、連帯して、500万円及びこれに対する訴状送達日の翌日(被告Bにつき令和4年7月18日、被告Cにつき同月16日)から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 反訴 原告は、被告Bに対し、500万円及びこれに対する令和4年2月25日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、原告が、夫である被告Cと被告Bの間に不貞行為があったとして、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、連帯して、慰謝料500万円及びこれに対する不法行為の後である各訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求め(本訴)、これに対し、被告Bが、原告による発言で名誉を毀損されたとして、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料500万円及びこれに対する不法行為日である令和4年2月25日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める(反訴)事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)原告は、昭和50年○月生まれの女性であり、平成25年9月8日に被告C(昭和49年○月生)と婚姻した。原告と被告C(以下「原告ら夫婦」という。)の間には長男(平成26年○月生)及び二男(平成27年○月生)がいる。(甲1) (2)被告Bは、税理士資格を有する女性であり(なお、現在は税理士登録を抹消している。)、遅くとも平成25年頃までに、当時勤務していた税理士法人での業務を通じて被告Cと知合い、その後、被告Cと肉体関係を伴う交際関係となった。 (3)原告ら夫婦は、令和4年2月25日、原告が子らを連れて自宅を出る形で別居した。 (4)原告は、上記(3)の別居後、被告Cを相手方として、東京家庭裁判所に離婚調停を申し立てた。 2 争点及びこれに対する当事者の主張 (中略) 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 後掲証拠(特に記載がない限り、証拠番号に枝番のあるものは枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 (1)原告と被告Cは、平成23年ないし平成24年頃に出会い、遅くとも平成24年6月頃には同居を開始し、原告が長男(平成26年○月生)を妊娠したことを契機に、平成25年9月8日に婚姻した(甲13、乙7)。 (2)被告らは、平成25年6月頃には、個人的な付き合いのある関係となっており、被告Cの誕生日である同年○月○○日を2人で過ごし、被告Bが被告Cに対し、誕生日を一緒に過ごせて嬉しいといった内容のメールを送るような親密な関係となっていた。なお、原告は、平成25年頃、上記メールを発見し、被告Cに「B」という女性との関係について尋ねたことがあった。(甲13、乙7、原告本人、被告C本人、被告B本人) (3)被告らの間のEメールのやりとりとして、次のものが存在する。 (中略) 2 不貞行為の開始時期及び内容 (1)前記各認定事実によれば、被告らは、平成26年12月頃には、日常的なものとみられるやりとりの中で、次に会う時に性的な行為を行うことを想定しているようなメッセージを互いに送信し、その後平成29年1月にも、両名の間に性的関係が存在したことが窺われるメールのやりとりをしていることが認められ、両名のやりとりの体裁、内容等に照らし、これらが架空の関係について述べた創作等であるとは考え難く、上記各時期において、被告らの間に既に肉体関係があったことが推認される。 そして、被告らが遅くとも令和2年頃以降には性行為を伴う親密な交際関係となっていること、被告ら自身も、それ以前に肉体関係があったことを積極的に否定しておらず、肉体関係を持つに至った時期や経緯について両名とも不自然で曖昧な供述に終始していること等を併せ考慮すれば、被告らは、少なくとも平成26年12月頃には不貞行為に及んでおり、中断期間の存否や期間等は判然としないものの、平成29年1月頃を含む期間、継続的又は断続的に不貞関係にあり、遅くとも令和2年頃以降は継続的な不貞関係となり、少なくとも原告ら夫婦が別居した令和4年2月25日頃まで継続したと認めるのが相当である(以下「本件不貞行為」という。)。また、本件不貞行為の内容も、令和4年1月19日から同年2月2日には、2週間程度の間に6回にわたりホテルに滞在して不貞行為に及ぶなど、少なくとも直近においてはかなり濃密なものであった。被告らは、親密な交際関係は令和2年以降である旨を供述するが、前記のとおり、容易く信用し難いものであり、上記認定に反する部分については採用しない。 (2)原告は、被告らが平成25年頃から不貞関係にあった旨を主張し、認定事実(2)のとおり、被告らは平成25年6月頃から被告Cの誕生日に二人で会うなど相応に親密であったことも窺われる。 しかし、被告らが本件不貞行為以前にも性行為に及んでいた可能性は否定し難いものの、その事実を具体的に示す証拠はなく、その他、前記(1)の時期以前に被告らが不貞関係にあったことを認めるに足りる的確な証拠はない。また、仮に平成25年6月当時に被告らが性行為に及んだとしても、婚姻前の出来事であり、原告との関係で不法行為を構成しない。 3 原告ら夫婦の婚姻関係が不貞行為前に破綻していたか否か (1)被告らは、原告ら夫婦の二男誕生の頃の関係悪化や、原告による被告Cの浮気を疑った行動、平成27年夏頃の原告からの離婚の要望があったこと等を根拠に、原告ら夫婦の婚姻関係が破綻していた旨を主張する。 しかし、被告ら主張の上記各事実は、そもそもこれを認めるに足りる的確な証拠がないか、事実自体があったとしても、別居や離婚に至らない様々な夫婦間の葛藤や、その中での離婚への言及など、一般的に破綻にまでは至っていない夫婦間の事情としても理解できるものであり、直ちに婚姻関係が破綻していたと評価されるような事情とはいえない。かえって、証拠(甲11~13)及び弁論の全趣旨によれば、原告ら夫婦は、平成26年頃から令和2年8月頃までにかけて、子らや被告Cの母親とともに外出や旅行をしたり、日常的に家族で過ごす写真を撮ったりするなどして、子らとともに同居して同一家計での生活を営んでいたことが認められ、少なくとも令和4年2月25日に原告が自宅を出て別居するまでの間、客観的にみて婚姻関係が既に破綻していたとは認め難い。 (2)なお、被告らは、原告は被告らの不貞関係を把握しつつ、被告Cの父親が経営する会社からの役員報酬の受領等の経済的な理由で婚姻を形式的に継続していたに過ぎないとも主張するが、夫婦の一方が配偶者の不貞を疑い得る事情を把握した上で婚姻や同居を継続していたとしても、そのことをもって、当該夫婦において不貞が容認されていたとか、婚姻関係が実質的に破綻していたと認めるに足りるものではなく、このことは、上記役員報酬の打ち切りが原告による被告Cの行動調査や別居のきっかけになった側面があったとしても変わらない。被告らの上記主張は前記認定を左右しない。 (3)以上によれば、原告ら夫婦の婚姻関係が、不貞行為前に実質的に破綻していたものとは認められない。 4 被告Bの故意過失の有無 (1)原告は、被告Bが、税理士として被告Cと知り合って交際したことや、被告Cが被告Bと過ごせる時間帯等が限られていたことなどから、被告Bにおいて、被告Cに妻子があることを認識した筈であると主張する。 しかし、被告Bが被告C個人の税務処理等の相談を受けるなどしてその個人情報に触れていた事実を認めるに足りる証拠はなく、被告Bが被告Cの婚姻関係を把握していなかったとしても直ちに不自然とはいえず、その他、被告Bにおいて、当時、被告Cに妻子があることを現に認識し、又は認識すべき注意を怠ったと認めるべき具体的な事情は認められない。 かえって、被告らは、被告Cが自身に妻子がいることを被告Bに初めて告げたのは令和3年10月19日である旨を主張し、これに沿う供述をするところ、前記認定のとおり、被告Bは、同日、友人らに交際相手である被告Cに妻子があることを驚きをもって伝える旨のメッセージを送信しており、これが虚偽や創作であることを示す事情も特に見当たらない。また、被告らが原告らの婚姻前である平成25年6月頃から親しい男女関係にあったことが窺われることからすれば、被告Cにおいて、被告Bとの関係を継続、進展させるため、婚姻の事実を秘匿したとしてもあながち不自然とはいえない。 したがって、被告Bにおいて、令和3年10月19日以前に、本件不貞行為につき故意過失があったとは認められず、その他、これを認めるに足りる的確な証拠はない。 (2)他方、被告Bは、前記のとおり、被告Cの婚姻の事実を知った後も、被告Cとの不貞関係を継続しており、その当時、原告らの婚姻関係が既に破綻していたとは認められない。 被告Bは、被告Cから聞いた話等から婚姻関係の破綻を信じた旨を主張し、これに沿う供述をするが、そもそも、被告Bが被告Cから聞いたとする出来事等も、婚姻関係が実質的に破綻しているとまでは直ちに評価できないものである上、原告との婚姻を秘匿したまま不貞行為に及んでいた被告Cの一方的な言い分を、特段の客観的な裏付けなく軽信したとしても、原告ら夫婦の婚姻関係の破綻を過失なく信じたものとは到底いえず、被告Bの上記主張、供述は採用することができない。 (3)したがって、被告Bは、本件不貞行為のうち、令和3年10月19日以降に係る部分に限り、被告Cと連帯して、原告に対する共同不法行為責任を負う。 5 被告らの不貞行為による損害額 (1)本件不貞行為による損害額(全体) 200万円 前記認定のとおり、本件不貞行為は、原告ら夫婦の婚姻後1年余りの時期から、その後の中断の有無等は明らかでないものの、別居開始までの7年間以上にわたっている上、殊に令和2年頃以降は、継続的かつ濃密なものであり、相当に悪質である。原告ら夫婦は、被告Cの言動等から不貞が疑われることもあったが、離婚や婚姻関係の破綻に至ることなく、夫婦として子らとともに生活を営んでいたが、本件不貞行為の発覚後、原告において別居を決意し、その後離婚調停が申し立てられるに至っており、今後の関係修復の可能性も想定し難い状態となっている。 本件不貞行為の悪質さや上記事実経過に照らせば、被告Cの供述する夫婦間の葛藤等が存在したとしても、本件不貞行為を主な原因として原告ら夫婦の婚姻関係が破綻に至ったものと認めるのが相当であり、以上のほか、原告ら夫婦の婚姻期間等、本件に顕れた一切の事情を併せ考慮すると、本件不貞行為による原告の精神的苦痛を慰謝するには200万円が相当と認められる。 (2)被告Bの責任の範囲について 前記のとおり、被告Bの不法行為責任は、本件不貞行為のうち令和3年10月19日以降の部分に限られるところ,前記(1)の各事情のほか、同日以降の不貞関係だけを見ても数か月にわたる相応に継続的かつ頻繁なものであり、それだけでも婚姻関係に重大な影響を与えかねないものであること、他方で、前記のとおり、本件不貞行為は婚姻後間もない頃から長期間にわたる悪質なものであり、婚姻関係破綻の原因はその悪質さによる部分も大きいと考えられることなども勘案すれば、前記(1)の損害のうち、令和3年10月19日以降の不貞行為に起因する精神的損害に相当する部分は100万円と認めるのが相当である。 6 原告による名誉毀損の有無及び損害額(反訴関係) (中略) 第4 結論 以上によれば、原告の本訴請求は、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償として、被告Cにつき200万円、被告Bにつき100万円及びこれらに対する不法行為後である各訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による金員(ただし、被告Bに対する認容額の限度で連帯して)の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容し、原告のその余の本訴請求及び被告Bの反訴請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第7部 裁判官 伊藤吾朗 以上:5,976文字
|