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文化功労者年金法に基づく年金の仮差押決定を認可した地裁判決紹介

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令和 7年 5月14日(水):初稿
○一般に年金は差押禁止債権とされていますが、判例タイムズ令和7年6月号に文化功労者年金法に基づく年金の支給を受ける権利に対する強制執行の可否を判断した珍しい事案についての令和6年10月23日最高裁決定が掲載されていました。その事案の第一審令和5年3月30日京都地裁決定から紹介します。

○大学法人である債権者(京都大学)が、債権者の職員である債務者に対し、独立行政法人Gから債権者が交付を受けた補助金の交付条件等に債務者が違反したことで補助金の返還を余儀なくされ損害を被ったとして、不法行為に基づく損害賠償請求権3億6100万円4659円の内金である6500万円を被保全権利として、債務者が第三債務者国に対して有する文化功労者年金法に基づく年金の支給請求権を含む債務者の第三債務者らに対する債権の仮差押えを求めた基本事件について、原決定がこれを認容したため、債務者が、文化功労者年金法に基づく年金の支給請求権は差押禁止債権であるとして、本件保全異議の申立てをしました。

○これに対し、京都地裁は、債務者が、文化功労者年金の性格を踏まえると、文化功労者年金法には文化功労者年金の支給請求権について譲渡・差押えを禁止する規定がない以上、その権利の行使を債務者のみに委ねるべき事情があるということは困難であり、文化功労者年金の支給請求権は債務者の一身専属的権利ではないと言わざるを得ないところ、文化功労者年金の支給請求権が権利の性質上差押えができない債権であるとは認められないから、原決定は相当であるとして、本件仮差押決定を認可しました。

○その抗告審の大阪高裁は、文化功労者自身が現実に本件年金を受領しなければ本件年金の制度の目的は達せられないから、本件年金の支給を受ける権利は、その性質上、強制執行の対象にならないと解するのが相当であり、上記権利に対しては強制執行をすることができないというべきであると判断し、上記権利の仮差押えを求める本件申立ては理由がないとして、これを却下したようですが、現時点では、この却下決定は私が持っている判例データベースでは見つかりません。

○文化功労者年金法は以下の通りわずか3条の法律です。
第1条(この法律の目的)
 この法律は、文化の向上発達に関し特に功績顕著な者(以下「文化功労者」という。)に年金を支給し、これを顕彰することを目的とする。
第2条(文化功労者の決定)
 文化功労者は、文部科学大臣が決定する。
2 文部科学大臣は、前項の規定により文化功労者を決定しようとするときは、候補者の選考を文化審議会に諮問し、その選考した者のうちからこれを決定しなければならない。
第3条(年金)
 文化功労者には、終身、政令で定める額の年金を支給する。
2 前項の規定により年金の額を定めるに当たつては、文化の向上発達に関する功績に照らし、社会的経済的諸事情を勘案して、文化功労者を顕彰するのにふさわしいものとなるようにしなければならない。
3 第一項の規定による年金の支給方法については、政令で定める。

文化功労者年金法施行令第1条(年金の額)
 文化功労者年金法第3条第1項の規定による年金(以下「年金」という。)の額は、350万円とする。


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主   文
1 債権者と債務者との間の京都地方裁判所令和4年(ヨ)第237号債権仮差押命令申立事件について、当裁判所が令和4年11月8日にした仮差押決定を認可する。
2 異議申立費用は債務者の負担とする。

理   由
第1 申立ての趣旨

1 主文第1項の仮差押決定(以下「原決定」という。)の主文中の別紙仮差押債権目録記載の債権中、仮差押債権目録(4)(第三債務者国関係)の債権に係る仮差押決定を取り消す。
2 上記取り消した債権につき、債権者の上記仮差押命令の申立てを却下する。

第2 事案の概要等
1 基本事件は、債権者が債務者に対し、独立行政法人Gから債権者が交付を受けた補助金の交付条件等に債権者の職員であった債務者が違反したことで補助金の返還を余儀なくされ損害を被ったとして、別紙請求債権目録記載の不法行為に基づく損害賠償請求権3億6100万円4659円の内金である6500万円を被保全権利として、債務者が第三債務者国に対して有する文化功労者年金法に基づく年金の支給請求権を含む債務者の第三債務者らに対する別紙仮差押債権目録記載の債権の仮差押えを求めた事案である。
 当裁判所が、令和4年11月8日、これを認容する決定(原決定)をしたため、債務者がこれを不服として本件保全異議の申立てをした。

2 本件の争点は、債務者が第三債務者国に対して有する文化功労者年金法に基づく年金の支給請求権が差押禁止債権か否かである。これに関する債務者の主張は、仮差押異議申立書及び令和5年2月14日付け準備書面(1)のとおりであり、債権者の主張は、答弁書及び令和5年3月9日付け準備書面(1)のとおりであるからこれらを引用する。

第3 当裁判所の判断
1 文化功労者年金法及び同法施行令の定め

(1)目的
 文化功労者年金法(以下「本件法律」という)は、文化の向上発達に関し特に功績顕著な者(以下「文化功労者」という)に年金を支給し、これを顕彰することを目的とする。(文化功労者年金法1条)

(2)文化功労者の決定
 文化功労者は、文部科学大臣が決定する。(本件法律2条1項)

(3)年金の額
ア 文化功労者には、終身、政令で定める額の年金を支給する。(本件法律3条1項)
イ 年金の額を定めるに当たっては、文化の向上発達に関する功績に照らし、社会的経済的諸事情を勘案して、文化功労者を顕彰するのにふさわしいものとなるようにしなければならない。(本件法律3条2項)
ウ 年金の額は、350万円とする。(文化功労者年金法施行令(以下「本件施行令」という)1条)

(4)年金の支給方法
ア 年金の支給方法については、政令で定める。(本件法律3条3項)
イ 文部科学大臣は、文化功労者を決定したときは、その者に文化功労者年金証書(以下「年金証書」という)を交付する。(本件施行令2条1項)
ウ 年金は、毎会計年度分を毎年4月1日から6月30日までの間において支払う。ただし、文化功労者を決定した日の属する会計年度分については、その決定があった日から3月以内に支払うものとする。(本件施行令2条2項)
エ 年金の支給は、文化功労者を決定した日の属する会計年度分から開始し、その者が死亡した日の属する会計年度分をもって終わるものとする。(本件施行令2条3項)

2 認定事実
 債務者は、平成25年11月3日頃、文部科学大臣によって文化功労者と決定され、文部科学大臣から同日付けの年金証書を受領し、平成25年度分から文化功労者年金法に基づく年金(以下「文化功労者年金」という)の支給を受けている(乙11、12)。

3 判断
(1)文化功労者年金は本件法律3条1項により支給されるものであるが、本件法律には文化功労者年金の支給請求権について譲渡・差押えを禁止する規定がない。そのため、文化功労者年金の支給請求権が権利の性質上差押えができない債権と認められるか否かが次に問題となる。

 前提として、文化功労者年金の支給請求権は、文化功労者が国から支給を受ける継続的給付に係る債権であるといえるところ、継続的給付に係る債権については、民事保全法50条5項が準用する民事執行法152条1項1号で差押禁止債権となる場合が規定されている。同条は債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権について、その支払期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分の差押えを禁止している一方で、国及び地方公共団体から支給を受ける継続的給付に係る債権については、民事執行法上の差押禁止債権としていない。これは、国及び地方公共団体から支給を受ける継続的給付に係る債権については、法律で差押禁止とされることが多く、法律で差押禁止とされていないときには差押えを許容している趣旨と解されることによる。したがって、国及び地方公共団体から支給を受ける継続的給付に係る債権について、解釈によって、権利の性質上差押えができない債権を認めることには慎重であるべきである。

 以上を踏まえて、文化功労者年金の支給請求権について具体的に検討する。確かに、文化功労者年金は文化功労者の終身にわたって支給され、文化功労者年金の支給請求権は、文化功労者の死亡によって消滅するから、文化功労者年金の支給を受ける地位は相続し得ない権利といえる。しかし、そのこと自体から直ちに当該権利の譲渡・差押えが禁止されると解することはできない。文化功労者年金は、その年金の額が350万円とされ(本件施行令1条)、文部科学大臣による文化功労者の決定によって、その決定した日の属する会計年度分から支給が開始されるから(本件施行令2条3項)、本件仮差押時点で、その存続期間の終期を除けば、本件施行令が改正されない限り、毎会計年度分に支給される具体的な金額は客観的に確定しており、後は単に第三債務者国の現実の履行を残すだけである。

 また、文化功労者年金法は、文化功労者を顕彰する手段として、文化功労者に年金を支給することによって、文化功労者を物質的に優遇するものである(本件法律1条参照)。起草者においても、年金が支給されると文化功労者の生活が向上する実際上の効果があることは認めながらも、文化功労者年金の根本的な性格は賞金の制度であることを明言している(乙1ないし6)。したがって、文化功労者の生活を安定させることが文化功労者年金の主要な性格であるということはできず、文化功労者年金の支給請求権を権利の性質上差押えができない債権と認めて債権者の犠牲において文化功労者の生活を保護すべき必要性は高くない。

 以上の文化功労者年金の性格を踏まえると、本件法律には文化功労者年金の支給請求権について譲渡・差押えを禁止する規定がない以上、その権利の行使を債務者のみに委ねるべき事情があるということは困難である。そうすると、文化功労者年金の支給請求権は債務者の一身専属的権利ではないと言わざるを得ない。

 以上の次第で、文化功労者年金の支給請求権が権利の性質上差押えができない債権であるとは認められない。


(2)債務者は、文化功労者年金の支給請求権が譲渡禁止債権であるから差押禁止債権であると主張する。しかし、前記のとおり文化功労者年金の支給請求権は債務者の一身専属的権利ではなく、当該権利の譲渡及び差押えが禁止されていると解することはできないから、債務者の主張は採用できない。

 なお、譲渡禁止債権であっても、他人が代わって行使できる趣旨のものは執行換価が可能であり、差押えもできると解し得る。前記のとおり文化功労者年金の支給請求権は他人が代わって行使できるから、文化功労者年金の支給請求権が仮に譲渡禁止債権であっても、差押禁止債権ではないというべきである。この点からも債務者の上記主張は採用できない。

(3)債務者は、文化功労者年金が非課税であることから、文化功労者年金の支給請求権は差押禁止債権であると主張する。しかし,課税関係を根拠に文化功労者年金の支給請求権が差押禁止債権か否かを判断することはできず、債務者主張の事情は、上記結論を左右しない。

(4)なお、債務者は、債権者が文化功労者年金の支給請求権を強制執行することができなくなるおそれはなく、保全の必要性がないとも主張する。しかし、文化功労者年金の支給請求権は金銭の給付をその内容とする以上、文化功労者年金が一旦支給されると債務者の支出等によって債務者の責任財産が減少するおそれがあり、仮差押がされなければ、仮差押時点から本執行可能時点までの間に支給される文化功労者年金については執行することができなくなるおそれがあるから、保全の必要性について疎明があったといえる。 

第4 結論
 よって、原決定は相当であるからこれを認可することとし、主文のとおり決定する。

令和5年3月30日 京都地方裁判所第5民事部 裁判官 酒本雄一
以上:4,985文字

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