令和 7年 6月 7日(土):初稿 |
○原告が、被告は、原告の夫である補助参加人がネイルサロンの客として通ったネイルサロン従業員の被告との交際及び不貞行為に及んだと主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、肉体的・精神的苦痛に対する慰謝料600万円及び遅延損害金の支払を請求しました。 ○これに対し、仮に、被告が、補助参加人と不貞行為に至らない程度の交際をしていたことが、原告と補助参加人との夫婦共同生活の平穏を害する違法な行為であったとしても、被告には、補助参加人が既婚者であることについて故意・過失がなかったのであるから、被告には、原告に対する不法行為が成立しないため、原告の請求は理由がないとして棄却した令和6年3月26日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。 ○令和4年8月頃~同年10月6日までの期間について、被告と補助参加人は、不貞行為には至らない程度の交際をしていたことが認められるとしながら、被告は、この補助参加人との交際当時、補助参加人が既婚者であることを知っていたか、これを知らなかったことについて過失があったとはいえないというべきであるとしていますが、裁判官によっては過失を認める微妙な事案です。 ○しかし、ネイルサロンとは女性が利用するとばかり思っていましたが、男性も利用していたのには驚きました。 ******************************************** 主 文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、600万円及びこれに対する令和4年11月1日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、原告が、被告は、令和4年7月頃~同年10月6日、原告の夫である補助参加人との交際及び不貞行為に及んだと主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、肉体的・精神的苦痛に対する慰謝料600万円及びこれに対する不法行為の後の日である同年11月1日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 第3 前提事実 当事者間に争いがないか、文中掲記の証拠(主なものを掲記しており、認定の根拠は掲記した証拠に限られない。以下同じ。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が容易に認められる。 1 当事者等 (1)原告(昭和50年生)と補助参加人(昭和48年生)は、平成12年3月26日に婚姻した夫婦である。原告と補助参加人との間には、長男(平成14年生)、長女(平成15年生)及び二女(平成20年生)がいる。(甲1) 原告と補助参加人との婚姻関係は、遅くとも令和4年10月6日には破綻し(同日以前から破綻していたかについては、後記のとおり争いがある。)、補助参加人は、同月17日、自宅を出て原告との別居を開始した(原告本人10~11頁)。 (2)被告(平成3年生)は、東京都内のネイルサロン(以下「本件ネイルサロン」という。)においてネイリストとして勤務する者である(乙1)。 2 経過 (中略) 第5 当裁判所の判断 1 認定事実 前提事実、文中掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 (1)被告と補助参加人は、令和2年7月頃、補助参加人が顧客として本件ネイルサロンを利用し始めたことにより知り合った。補助参加人は、同月に被告から初めて施術を受けた際、被告に対し、自身が婚姻しており、子らがいることを話した(証人補助参加人12~13頁、被告本人2頁)。 (2)補助参加人は、その後も、本件ネイルサロンに通っていた。補助参加人は、令和2年11月頃、又は、令和3年の終わり頃~令和4年初め頃、被告から施術を受けている際、被告に対し、離婚したと虚偽の事実を述べた。(証人補助参加人1~2、28頁、被告本人2~3頁) (3)補助参加人は、令和4年4月頃、被告を誘い、被告及び本件店舗の別の従業員1名と食事をした(被告と補助参加人が本件店舗の外で会うのはこれが初めてであった。)(被告本人3~4頁)。 (4)補助参加人は、令和4年7月、被告に対し、交際を申し込んだ。被告は、補助参加人とは本件店舗の客として接していて恋愛対象としてみることができなかったため、直ちにこれを受入れられなかったが、同年8月下旬から、補助参加人との交際を開始した。(証人補助参加人30頁、被告本人4~5頁) (5)被告と補助参加人は、交際開始後、週に3回程度会っていた。補助参加人は、被告との交際開始から令和4年10月6日までの間、被告を勤務先から自宅近くまで車で送迎したり、被告と以下のようなことをしたりしていた(いずれも日帰りであった。)。 ア 同年9月2日 宝飾品販売店(b)で指輪を購入した。 イ 同月6日 dに行った。 ウ 同月20日 aに行った。 エ 同年10月5日 補助参加人が、被告の首筋にキスをした。 (以上につき、甲6、7、証人補助参加人30~32頁、被告本人7、14~15頁) (6)原告は、令和4年10月6日、補助参加人のスマートフォンを見たところ、補助参加人と被告とのLINEのやり取り(前記(5)ア~エの際に撮影された写真等のやり取り)を発見し、補助参加人と被告が不貞行為に及んでいるのではないかと考えた。原告は、これにより補助参加人との離婚を決意し、遅くとも同日、原告と補助参加人との婚姻関係は破綻した。また、原告が、同日、補助参加人に対し、被告との交際や不貞行為の有無について問い質したところ、補助参加人は、同年8月下旬頃から被告と交際しているが、不貞行為には及んでいないと答えた。(甲8、原告本人6、7、9~11頁) (7)被告と補助参加人は、令和4年10月8日~同月9日、ホテルに宿泊し、肉体関係を持った(被告本人15~16頁)。 (8)補助参加人は、令和4年10月17日、被告に対し、実は補助参加人が離婚していないことを打ち明けた。被告は、婚姻中で家族のいる者とこれ以上一緒にいることはできないと考え、同日、補助参加人に別れを告げ、補助参加人との交際を終了した。(乙1、被告本人6頁) (9)補助参加人は、令和4年10月17日、自宅を出て原告との別居を開始した。被告は、その数日後、補助参加人から自宅を出た旨を聞いたところ、原告と補助参加人との婚姻関係は既に破綻しているから、補助参加人と交際することは問題がないと考え、補助参加人との交際を再開した。(原告本人8頁、被告本人16~18頁) 2 争点1(令和4年7月頃~同年10月6日、被告と補助参加人との間に不貞行為があったか)について (1)原告は、被告と補助参加人が、〔1〕令和4年8月29日、aに行ったこと、〔2〕同年9月2日、宝飾品販売店に行ったこと、〔3〕同月6日及び同月10日、dに行ったこと、〔4〕同月20日、aに行ったことなどから、同年7月頃~同年10月6日、被告と補助参加人との間に不貞行為があったと主張する。 (2)そこで検討すると、認定事実(5)のとおり、原告の主張する前記(1)〔1〕~〔4〕のうち、被告と補助参加人が、いずれも日帰りで、〔2〕令和4年9月2日、宝飾品販売店(b)で指輪を購入したこと、〔3〕同月6日、dに行ったこと、〔4〕同月20日、aに行ったことが認められる。 しかしながら、これらは、被告と補助参加人が日帰りで出掛けたという事実にすぎず、被告と補助参加人が不貞行為に及んだことを直ちに推認させるものとはいえない。 また、上記事実に加え、認定事実(5)の他の認定事実を考慮しても、被告と補助参加人は、同年8月下旬~同年10月6日、不貞行為には至らない程度の交際をしていたことが認められるにとどまるものというべきである。 したがって、同年7月頃~同年10月6日、被告と補助参加人との間に不貞行為があったとは認められない。 (3)なお、原告は、前記(1)〔1〕の事実を立証する証拠として、写真(甲6の〔12〕)を提出する。しかし、この写真には被告しか写っておらず、被告が、令和4年8月29日、両親とaに行った際に撮影されたものと考えられるから(被告本人5~6頁)、原告が主張する事実は認められない。 また、原告は、前記(1)〔3〕のうち、同年9月10日、dに行ったことを立証する証拠として、写真(甲6の〔15〕)を提出する。しかし、この写真に写っている被告と補助参加人の服装が、同月6日に撮影された別の写真(甲6の〔14〕)に写っている被告と補助参加人の服装と共通点があることからすると(被告本人14頁),同日に撮影された可能性が否定できず、原告が主張する事実は認められない。 (なお、仮に、上記各事実が認められたとしても、被告と補助参加人が、同年8月下旬~同年10月6日、不貞行為には至らない程度の交際をしていたことが認められるにとどまるという前記(2)の認定判断は左右されない。) 3 争点2(令和4年7月頃~同年10月6日当時、原告と補助参加人との婚姻関係が破綻していたか)について 被告は、令和4年7月頃~同年10月6日当時、原告と補助参加人との婚姻関係は破綻していたと主張する。 しかし、認定事実(9)及び証拠(甲6、8)によれば、原告と補助参加人は、同年10月17日まで同居しており、同年だけをみても、同年3月26日に結婚記念日を祝ったこと、同年○月○○日に長男の誕生日を祝ったこと、同年5月4日~同月5日に旅行に行ったこと、同年○月○○日に原告の誕生日を祝ったこと、同年○月○○日に補助参加人の誕生日を祝ったこと、同年8月13日~同月15日に旅行に行ったこと、同月20日にレストランで食事をするなどしたことが認められ、これらの事実を総合考慮すれば、同年7月頃~同年10月6日当時、原告と補助参加人との婚姻関係は破綻していたとは認められない。 4 争点3(被告の故意・過失)について (1)原告は、被告が、補助参加人と交際していた当時(令和4年8月下旬~同年10月6日)、補助参加人が既婚者であることを知っていたか、これを知らなかったことについて過失があったと主張する。 (2)しかし、 〔1〕被告は、補助参加人との交際を開始する前、本件店舗の客であった補助参加人から、離婚したと聞かされていたこと(認定事実(2))、 〔2〕被告と補助参加人との上記交際期間は、2か月にも満たない短期間のものであったこと、 〔3〕本件全証拠をみても、その交際中、被告において補助参加人が婚姻していることをうかがわせるような事情があったとは認められないこと、 〔4〕被告が、令和4年10月17日、補助参加人から実は離婚していないことを打ち明けられたところ、婚姻中で家族のいる者とこれ以上一緒にいることはできないと考え、補助参加人に別れを告げ、補助参加人との交際を終了したこと(認定事実(8)) からすると、被告は、上記の補助参加人との交際当時、補助参加人が既婚者であることを知っていたか、これを知らなかったことについて過失があったとはいえないというべきである。 (3)これに対し、原告は、〔ア〕被告が補助参加人に対して婚姻の有無等を聞かなかったこと、〔イ〕補助参加人が原告と同居していた自宅に帰っていたにもかかわらず、そのことを尋ねなかったことからすると、被告には、補助参加人が既婚者であることを知らなかったことについて過失があったと主張する。 しかしながら、上記〔ア〕についてみると、前記(2)〔1〕のとおり、被告は、補助参加人との交際を開始する前に、補助参加人から離婚した旨を聞かされていたのであるから、交際を開始した後に改めてその点を確認しなかったからといって、被告に過失があったとはいえない。 また、上記〔イ〕の主張は趣旨が判然としないが、補助参加人が、被告との交際を開始した後、必ず自宅に帰っていたからといって、それ自体不自然ではないから(少なくとも、交際開始から2か月も経たない時期においては何ら不自然ではない。)、自宅に帰る理由を尋ねなかったからといって、被告に過失があったとはいえない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 5 小括 以上によれば、仮に、被告が、令和4年8月下旬~同年10月6日、補助参加人と不貞行為に至らない程度の交際をしていたことが、原告と補助参加人との夫婦共同生活の平穏を害する違法な行為であったとしても、被告には、補助参加人が既婚者であることについて故意・過失がなかったのであるから、被告には、原告に対する不法行為が成立しない。 6 まとめ よって、その余の争点について検討するまでもなく、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第15部 裁判官 三田健太郎 以上:5,225文字
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