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胎児認知無効確認請求を権利濫用として棄却した家裁判決紹介

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令和 7年 6月12日(木):初稿
○ベトナム国籍の女性であるAが出産した被告を胎児認知していた原告が、被告に対し、被告は原告とは別の男性Bの嫡出子であることが明らかになった旨を主張して、その胎児認知が無効であることの確認を求めました。

○これに対し、以下の理由により、本件胎児認知が無効であることの確認を求める原告の請求を許すことには、正義公平の観点から見て看過することのできない疑問があり、原告の請求は、権利の濫用に当たり、許されないものであるというのが相当であるとして、原告の請求を棄却した令和5年3月23日東京家裁判決(判時2620号48頁、判タ1529号251頁)関連部分を紹介します。

・被告を出産した当時、AはBと婚姻関係であったところ、ベトナム婚姻家族法63条1項前段は、婚姻期間中に妻によって分娩又は懐胎された子は、夫婦の共通の子とする旨を定めているから、被告はBの嫡出子であるというべき
・現在までに、ベトナムに帰国したBが被告の父として取り扱われたことがあったことをうかがわせる証拠ないし事情は見当たらず、Bが被告の父として取り扱われる可能性は今後とも乏しい
・被告は、生後3か月頃から生後1年半頃までの間にベトナムに滞在していたほかは、出生してから16歳になった現在に至るまで、一貫して日本において日本人として生活してきた
・仮に本件胎児認知が無効であるとされた場合には、日本の国籍を喪失して、日常を一変させられることにもなりかねず、それまで予想だにしてこなかった不利益を被るなどの極めて過酷な状況に置かれることが想像されること

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 原告のp長に対する平成18年*月*日届出による被告に対する胎児認知が無効であることを確認する。

第2 事案の概要
 本件は,被告を胎児認知していた原告が,被告に対し,被告は原告とは別の男性の嫡出子であることが明らかになった旨を主張して,その胎児認知が無効であることの確認を求めた事案である。
1 前提事実
 証拠(各認定事実の後に掲げる。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
(1)ベトナム国の国籍を有する女性であるA(1983年*月*日生まれ。以下「A」という。)は,平成14年4月4日から日本に滞在していたところ,2003年(平成15年)2月11日,qにおいて,ベトナム国の国籍を有する男性であるB(以下「B」という。)と婚姻の登録をした(乙4,被告法定代理人,弁論の全趣旨)。
(2)Aは,平成17年10月頃までに,日本の国籍を有する男性である原告(昭和43年*月*日生まれ)との交際を開始し,同年12月頃までに,rの住居において,原告との同居を開始した(乙3,被告法定代理人,弁論の全趣旨)。

(3)Aは,平成18年*月頃,被告を懐胎している旨の診断を受けた(被告法定代理人)。
(4)A及びBは,2006年(平成18年)7月20日,q人民裁判所において,合意による離婚の承認(以下「本件離婚承認」という。)を受けた(乙4)。
(5)原告は,平成18年*月*日,p長に対し,被告に係る胎児認知(以下「本件胎児認知」という。)の届出をして,受理された(乙14,弁論の全趣旨)。

(6)Aは,平成18年*月*日,被告を出産した(弁論の全趣旨)。被告は,戸籍上,原告とAとの間の長女とされ,日本の国籍を有するものとされている(弁論の全趣旨)。
(7)原告は,令和3年5月20日,被告を相手方とする認知無効確認調停を東京家庭裁判所に申し立てて(東京家庭裁判所令和*年(家イ)第****号事件),本件胎児認知が無効であることの確認を求めたが,同事件は,同年7月7日,調停が成立しないものとして,終了した(弁論の全趣旨)。
(8)原告は,令和3年7月28日,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。

2 法の適用

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 前記第2の1(前提事実),証拠(各認定事実の後に掲げる。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
(1)原告は,平成5年11月11日にCと婚姻の届出をし,その後,同女との間に,平成7年*月*日には長女のDを,平成9年*月*日には長男のEをそれぞれもうけたが,平成15年4月頃,Cとの別居を開始した(乙3,弁論の全趣旨)。
(2)Aは,平成14年4月4日から留学生として日本に滞在していたところ,2003年(平成15年)2月11日,qにおいて,かねてから交際していたBと婚姻の登録をした(前記第2の1(1),被告法定代理人)。
(3)その後,2,3か月が経過して,Bも日本に滞在するようになったことから,Aは,sの住居において,Bとの同居を開始した(被告法定代理人)。
(4)Aは,平成17年6月頃,sの住居からtの住居に転出して,Bとの別居を開始した(被告法定代理人,弁論の全趣旨)。
(5)Aは,平成17年10月頃までに,原告との交際を開始し,同年12月頃までに,rの住居において,原告との同居を開始した(前記第2の1(2))。
 また,その頃,Aは,Bから,人づてで,tの住居に住まわせてほしい旨の依頼を受けたことから,同住居の賃借人をAからBに変更することに協力した(被告法定代理人)。
(6)Aは,平成18年*月頃,被告を懐胎している旨の診断を受けた(前記第2の1(3))。
(7)Aは,平成18年4月,日本において就職をした(被告法定代理人)。
(8)A及びBは,2006年(平成18年)7月20日,q人民裁判所において,本件離婚承認を受けた(前記第2の1(4))。
 本件離婚承認に係る決定書(乙4)には,AとBとの合意による離婚を承認する,AとBとの間には子がいないなどの主文の記載がある。
 なお,Bは,この数年後,日本から出国した(被告法定代理人,弁論の全趣旨)。
(9)原告は,平成18年*月*日,p長に対し,本件胎児認知の届出をして,受理された(前記第2の1(5))。


     (中略)

3 その上で,ひとまず本件胎児認知の当時及び被告の出生の当時における原告の本国法である日本法により本件胎児認知が無効であるとされるかについて検討すると,日本の民法下では,認知は,その性格上,現に父がある子を対象としてはすることができないと解されているから、被告がBの子であるとされる限りは,本件胎児認知を有効なものと認めることはできないというべきである。
 被告は,仮に本件において本件胎児認知が無効であることの確認がされたとしても,被告が別に原告に対して認知を求める訴えを提起すれば,その請求は認容されるはずであるから,本件訴えは,訴えの利益を欠く不適法なものとして,却下されるべきである旨を主張するが,以上に判示したところからすれば,日本の民法下では,被告がBの子であるとされる限りは,被告は原告に対して認知を求めることは困難であるといわざるを得ない。 

 もっとも,日本の民法下で認知は現に父がある子を対象としてはすることができないと解されているのは,親子関係の公的な秩序として父が重複することは許されるべきではないとする趣旨から出たものであると解される。これを本件について見ると,もとより現在までにBが被告の父として取り扱われたことがあったことをうかがわせる証拠ないし事情は見当たらないところ,日本の戸籍には被告がBの嫡出子であることをうかがわせる記載は見当たらず,また,ベトナムにおいて被告の出生の登録がされたことをうかがわせる証拠ないし事情も見当たらないことからすれば,実際問題として,Bが被告の父として取り扱われる可能性は,今後とも乏しいというべきであって,本件胎児認知を有効なものとしたとしても,被告の父の重複が顕在化する事態が現実に生ずるとは直ちには想像し難いというべきである。

 このことに加えて,
〔1〕原告が,原告はAが被告を懐胎したと考えられる平成18年*月下旬から同年*月下旬までの期間には海外に出張していて日本にいなかった旨を主張するものの,これを裏付ける証拠を提出せず,原告が被告の生物学上の父であることを争うことを明らかにしているとはいい難いこと,
〔2〕前記1(9)で認定したところからすれば,原告は,被告をAがBとの婚姻期間中に懐胎した子であると認識しながら,本件胎児認知の届出をしたと推認されること,
〔3〕前記1(9)のとおり本件胎児認知の届出が受理されたことについて,被告自身には何の落ち度もないこと,
〔4〕原告自身が,被告に対し,その父として接してきていたこと(乙9の1から10まで),

〔5〕前記1(11)及び(12)で認定したとおり,被告は,生後3か月頃から生後1年半頃までの間にベトナムに滞在していたほかは,出生してから16歳になった現在に至るまで,一貫して日本において日本人として生活してきたものであるところ,仮に本件胎児認知が無効であるとされた場合には,日本の国籍を喪失して(国籍法3条参照),日常を一変させられることにもなりかねず,相応の精神的苦痛を受けるであろうことはもとより,社会生活の様々な場面においてそれまで予想だにしてこなかった不利益を被るなどの極めて過酷な状況に置かれることが想像されること,

〔6〕前記1(12)及び(16)に認定したところからすれば,原告が被告に対して本件胎児認知が無効であることの確認を求めるに至った動機は,Aが原告以外の男性との交際に及んだことに対する意趣返しにあったとも疑われること
などの事情を踏まえると,本件の事実関係の下においては,本件胎児認知が無効であることの確認を求める原告の請求を許すことには,正義公平の観点から見て看過することのできない疑問が残るといわざるを得ない。

 そうであれば,本件胎児認知が無効であることの確認を求める原告の請求は,権利の濫用に当たり,許されないものであるというのが相当である。

4 前記第2の2(1)に判示したとおり,本件胎児認知については,本件胎児認知の当時及び被告の出生の当時における原告の本国法である日本法並びに本件胎児認知の当時におけるAの本国法であるベトナム法のいずれによっても無効であるとされるときに限り,無効となるものと解されるところ,以上によれば,本件胎児認知は,本件胎児認知の当時及び被告の出生の当時における原告の本国法である日本法によっては無効であるとすることはできないのであるから,本件胎児認知の当時におけるAの本国法であるベトナム法による検討をするまでもなく,本件胎児認知が無効であることの確認を求める原告の請求は,理由がない。
 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 川嶋知正)
以上:4,438文字

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