旧TOP : ホーム > 男女問題 > 男女付合・婚約・内縁 > | ![]() ![]() |
令和 7年 8月19日(火):初稿 |
○交際開始当時39歳の原告女性が、被告男性は既に離婚して独身であると偽って原告と3年間も交際し、これにより原告は自己決定権を侵害され、また被告に金銭を貸し付けたと主張し、被告に対し、不法行為に基づき慰謝料100万円の損害賠償と貸金約194万円の合計約305万円の返還を求める訴えを提起しました。 ○これに対し、被告が交際開始後も自身が既に離婚しており原告と真摯に交際していると原告に信じさせるような言動を原告にしており、その結果原告と被告の交際が上記の期間に及んだこと等、本件に現れた一切の事情を考慮すると、被告の不法行為によって原告に生じた精神的苦痛に対する慰謝料の額は80万円が相当とした令和6年3月6日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。 ○「貞操権侵害を理由に慰謝料50万円の支払を認めた地裁判決紹介」の事案では、独身を装って2ヵ月の間に6回性関係を持った男性に対し50万円の慰謝料支払を命じており、この事案からすれば、本件は3年も交際しており、慰謝料100万円をそのまま認めても良いような気がします。この種事案では、裁判官によって判断は相当分かれます。 ********************************************** 主 文 1 被告は、原告に対し、282万7961円及びこれに対する令和5年1月12日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを10分し、その1を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、304万7961円及びこれに対する令和5年1月12日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は、原告が、〔1〕被告は既に離婚して独身であると偽って原告と交際し、これにより原告は自己決定権を侵害された、〔2〕被告に対して金銭を貸し付けたと主張して、被告に対し、以下の各請求をする事案である。 (1)(前記〔1〕について)不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料100万円と弁護士費用10万円の合計損害金110万円及びこれに対する不法行為の後である令和5年1月12日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払請求(以下「請求〔1〕」という。) (2)(前記〔2〕について)金銭消費貸借契約による貸金返還請求権に基づき、貸金のうち194万7961円及びこれに対する弁済期の経過後である令和5年1月12日から前記(1)と同じ割合による遅延損害金の支払請求(以下「請求〔2〕」という。) 2 前提事実(当事者間に争いのない事実、後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)当事者 ア 原告は、昭和54年生まれの女性である。 イ 被告は、昭和49年生まれの男性である。被告は、平成12年1月から令和4年9月まで婚姻しており、被告と配偶者との間には、平成12年に長女が、平成18年に二女が出生した。(甲1、乙1) (2)原告と被告の交際 ア 原告と被告は、平成30年頃に知り合い、平成31年頃から肉体関係を伴う交際を開始した。被告は、原告に対し、配偶者のことを「元嫁」と表現していた。 イ 原告と被告は、令和3年頃から会う頻度が減り、令和4年3月19日に会った後は会うことがなくなった。 3 争点及び当事者の主張 (中略) 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(被告が独身であると偽って原告と交際したか)について (1)証拠(甲2の9、13、原告本人(3頁))及び弁論の全趣旨によれば、被告が、原告との交際を開始するまでに、原告に対し、実際には配偶者と離婚していないにもかかわらず既に配偶者と離婚しているなどと伝えたこと、原告は被告の説明を信じ、被告が離婚していると誤信して被告と肉体関係を伴う交際を開始したことが認められる。原告が令和3年8月11日に被告に対して離婚成立時期を質問し、これに対し、被告が、離婚を否定することなく、まだ10年は経過していない旨の離婚が成立したことを前提とする回答をしていること(甲2の9)からすれば、被告が原告に対して既に離婚していると説明していたことを推認することができる。 原告は被告が離婚していると誤信して被告と肉体関係を伴う交際を開始しているところ、原告は被告が離婚していないと認識していたならば被告と肉体関係を伴う交際を開始していなかったと認めるのが相当である。そうすると、既に離婚していると交際開始前に原告に伝えて原告と肉体関係を伴う交際を開始した被告の行為は、原告の性的関係に関する自己決定権を侵害するものとして違法性を有すると認められる。 (2)被告は、被告が令和元年6月に原告に対して被告の健康保険証を配偶者が所持しているかのような内容のメッセージを送信していること(甲2の1)を指摘し、当該メッセージからすれば当時被告が離婚していないことを原告が認識し得たという趣旨の主張をしている。 しかし、そもそも交際開始後に被告が離婚していない事実を原告が認識し又は認識し得たからといって、既に離婚していると虚偽の説明をして原告との交際を開始した被告の行為の違法性が否定されるわけではない上、被告から既に離婚していると原告が伝えられていたことからすれば、当該メッセージのみから被告がまだ離婚していないことを原告は認識すべきであったとはいえず、被告の前記主張は採用することができない。 また、被告は、原告が被告に対して戸籍謄本を見せるよう求めたことを指摘し、原告はこの頃には被告が離婚していないことを認識していたか又は認識し得たと主張する。しかし、前記のとおり交際開始後に被告が離婚していない事実を原告が認識し又は認識し得たからといって被告の行為の違法性が否定されるわけではない上、被告の離婚に疑いを持って原告が被告に戸籍謄本を見せるよう求めたからといって、被告が離婚していないことを原告が認識し又は認識し得たと直ちに推認できるわけではない。 なお、証拠(原告本人(16、19頁))によれば、令和4年2月ないし同年3月頃に戸籍謄本を見せるよう原告から求められた後も被告が原告に戸籍謄本を見せなかったことから被告は離婚していないと原告が推測したことが認められるけれども、前記のとおり交際開始後に被告が離婚していない事実を原告が推測できたからといって被告の行為の違法性は否定されないし、原告と被告が最後に会ったのは同年3月19日であるから(前提事実(2)イ)、被告が離婚していないと原告が推測した時期は交際期間の末期と評価できるのであって、この点からも被告の行為の違法性は否定されない。 さらに、被告は、被告が離婚していないことを原告の知人も知っていたと指摘するけれども、当該知人が原告に対して被告が離婚していない事実を伝えたことを認めるに足りる証拠はなく、被告の当該指摘は被告の行為が違法性を有するとする前記判断を左右するものではない。 2 争点(2)(損害の有無及び額)について 前記1のとおり、既に離婚していると交際開始前に原告に伝えて原告と肉体関係を伴う交際を開始した被告の行為は、原告の自己決定権を違法に侵害するものとして原告に対する不法行為に当たる。 そして、交際開始時に原告が39歳であったこと(弁論の全趣旨)、交際期間は原告が39歳であった平成31年から令和4年3月頃までの約3年間に及ぶこと、交際開始後も配偶者との離婚が成立してから10年は経過していない旨のメッセージを送信したり(甲2の9)、今後一緒に生活する旨の話を原告としたり(原告本人(5頁))、双方の実家に挨拶に行くことを考えているかのようなメッセージを原告に送信したりする(甲2の8)など、被告が交際開始後も自身が既に離婚しており原告と真摯に交際していると原告に信じさせるような言動を原告にしており、その結果原告と被告の交際が上記の期間に及んだこと等、本件に現れた一切の事情を考慮すると、被告の不法行為によって原告に生じた精神的苦痛に対する慰謝料の額は80万円が相当である。 また、弁護士費用8万円を被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認める。 したがって、被告は、原告に対し、不法行為による損害賠償として、88万円及びこれに対する不法行為の後である令和5年1月12日(訴状送達の日の翌日。顕著な事実)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払義務を負う。 3 争点(3)(原告が被告に対して金銭を貸し付けたか)について (中略) 4 結論 以上のとおり、被告は、原告に対し、不法行為による損害賠償(請求〔1〕)として88万円、金銭消費貸借契約に基づく貸金返還(請求〔2〕)として194万7961円、合計282万7961円及びこれに対する令和5年1月12日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払義務を負う。 よって、原告の請求は主文の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第1部 裁判官 栢分宏和 以上:3,821文字
|