令和 7年 9月 6日(土):初稿 |
○事情があってアメリカの共同親権・監護に関するデータを探しています。関西学院大学法学部教授山口亮子氏の「家族法制部会第5回会議 アメリカ合衆国の共同監護について」と題する論文が見つかりましたので、紹介します。 ○2020年のアメリカ人口約3億3300万人は、日本の人口約1億2427万人の2.7倍です。未婚で子が出生する割合は40%との割合は、日本の場合は多くは「できちゃった婚」として入籍しますが、アメリカでは、妊娠しても結婚にこだわりが強くないことを示しています。婚姻数に対する離婚数は約50%は、アメリカでは結婚しても半分は離婚すると昔から言われているとおりです。 ○18歳未満の子が両親と同居している割合は70.4%、母子家庭21%、父子家庭4.5%、親戚その他4.1%とのことですが、日本との比較データは不明です。1960(昭和35)年に離婚法改革で、有責主義から破綻主義に移行して離婚数が上昇したとのことですが、令和7年からは65年前のことです。日本は未だに有責主義にこだわり、その一環として有責配偶者の離婚請求は認められませんが、制度としていずれが合理的かは明白で、世界標準は破綻主義です。日本では、有責主義故に離婚が認められない形式的・形骸的婚姻が多数溢れています。 ********************************************* 家族法制部会第5回会議 アメリカ合衆国の共同監護について 2021/7/27 関西学院大学 山口亮子 0. アメリカ合衆国の子をめぐる概要 アメリカ国勢調査によると、2020年の推計人口は約3億3300万人、 未成年者数は約7300万人。未婚で子が出生する割合は40%。婚姻数に対する離婚数は約50%、 毎年約100 万人以上の子が親の離婚を経験している。 再婚率は約70%。18歳未満の子が両親と同居している割合は70.4%、 母子家庭は21%、父子家庭は4.5%、親戚その他は4.1%。 婚姻の有無に拘わらず、血縁上の親には原則として親の権利(parental rights)があり、子に対する扶養義務がある。親は子の養育に関して監護権(custody)をもつ。 1. 離婚後の親権・監護権制度に関して、現行制度の導入背景や変遷 ①共同監護法成立の背景 ・ 離婚法の改革(1960~): 有責主義から破綻主義へ移行して離婚数が上昇。 ・ 婚姻・同居中の共同養育(1970~): 父親の子育て、母親の仕事継続による家族観・ジェンダー観の変化。 ・ 離婚後の父親の権利思潮(1970~): 母親優先の原則への反発。 ・ 単独監護制度の限界(1970~): 勝敗を作らない監護形態へ。子に対する責任の共有。離婚後の親の新生活。 ・ 社会科学調査(1970~): 離婚後の親子の交流と子の利益の調査。 ・ 共同監護法の成立(1979~): カリフォルニア州共同監護法(joint legal custody/joint physical custody)を皮切りに、ほぼ全州で立法化。 ・ 共同監護から養育計画(parenting plan)へ(1990~): 両親が別居・離婚時に協議で個別具体的に子に関する養育計画書を作成して裁判所へ提出し、それが裁判所命令となる。 ②共同監護法の種類(裁判規範) ・ 州の政策: 頻繁かつ継続した親子の交流を促進することを州の方針とする。 ・ 推定則規定: 親の合意があれば共同監護は子の最善の利益に適うと推定する。 ・ 強行的規定: 共同監護が子に有害でない限り共同監護を付与する。 ・ 選択的規定: 子の最善の利益判断に従って監護形態を決定する。 2. 共同監護の現状 ①共同監護(joint legal custody/joint physical custody)の状況 1989 年カリフォルニア州: 共同法的監護75.6%、共同身上監護20.2% 1998 年ウィスコンシン州: 1:1~1:3の共同身上監護8% 2002 年ノースカロライナ州: 共同法的監護69.7%、共同身上監護16.7% 2002 年アリゾナ州: 1:3~1:4の共同身上監護27%、1:1~1:2の共同身上監護15% 2007 年ネブラスカ州ダグラス郡: 共同法的監護53%、共同身上監護17% 2007 年ウィスコンシン州: 1:1の共同身上監護27%、1:3の共同身上監護18% 2008 年ワシントン州: 1:2以上の共同身上監護50% ②共同監護の評価2 ・ 子への調査: 共同身上監護を経験している子たちの方が単独監護の子たちより、精神的、行動的、心理的、身体的健康が優れている。父母の高葛藤に拘わらず、別居父宅への宿泊日数が長いほど、子は父と良い関係を保っている。2つの家は面倒だが両親と親密な関係を維持するための価値はあると答えている。 ・ 母への調査: 共同監護と単独監護において、子の心身の健康状態に変わりはない。母の精神的不安、父母の高葛藤と子の精神状態には関連性がある。 ・ 裁判官への調査: インディアナ州での1998年と2011年の調査では、あらゆる年代の子に共同監護がふさわしいと考える割合が増加した。87%の裁判官は、両親が合意していなくとも共同法的監護を付与したいと答えている。 ・ 総合: 多くの子は別居親と頻繁に会いたいと思っており、交流の頻度と親の紛争状態が、子の幸福感と関連している。高葛藤両親のカウンセリング後に、共同身上監護の子たちは単独監護の子たちよりストレス、不安、問題行動が少なくなっている。乳幼児期でも共同身上監護は悪い結果は出ていない。あらゆる年代で共同身上監護は子にとって良い結果を得ている。ただし、父の暴力があると、子と良い関係性は築けていない。 ③共同監護の実現を支えているもの ・ 州の方針: 婚姻外でも子は両親と頻繁かつ継続して交流すること、両親から養育を受けることが子の最善の利益であると推定する州法の存在☞行為規範となり、親は共同監護を前提として婚姻外の養育計画を立てる。共同監護を達成するために社会資源が整えられていく。 ・ 養育計画書: 一律的な共同監護ではなく、養育計画書の作成により、両親は個別具体的に子に関する法的決定権の所在と子と過ごす時間を計画する。意見の対立、不履行が生じた場合の解決方法もあらかじめ取り決めておく。 ・ 子の親との関係性の重視: 裁判所は、親の合意がない場合も、子と両親それぞれとの関係維持を尊重して共同監護を命じる場合がある☞親の合意形成へ。 ・ 無断転居の制限: 別居親による子の監護および面会交流を阻害しないために、同居親は転居前に別居親へ通知し、同意を得るか養育計画を作成し直す。 ・ 情報発信の充実: 各州、各自治体、各裁判所はウェブサイトを通して、養育計画書の案内・見本・作成援助、ファシリテーターによる家族問題に関する法手続案内、親教育の受講義務、メディエーション案内、コンピューターによる養育費計算、DV等各種裁判手続の案内、不履行時の手続、州法等を発信している。 ・ 民間支援の充実: 専門職である離婚カウンセラー、臨床心理士、精神保健医、エヴァリュエーター、親教育者、養育コーディネーター、メディエーター、弁護士、面会交流機関等が支援する。コンピューターによる養育計画書作成支援、両親間の情報交換ツールが発達している。 ・ 研究の充実: 法学研究、社会科学研究、心理学・行動科学・精神医学等による研究・調査、脳科学の研究・調査、裁判の指針、各種団体・学界による指針が発表されている。 以上:3,141文字
|