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20数年ぶりに日照権被害の損害賠償請求相談を受けての復習

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平成28年 6月25日(土):初稿
○私が弁護士登録したのは昭和55年4月ですが、弁護士2年目の昭和56年から昭和60年代初めにかけて数回日照権被害の相談を受け、建築禁止の仮処分申請、損害賠償請求訴訟を担当したことがあります。しかし、平成の時代になってからは、日照権被害の相談を受けた記憶が殆どなく、日照権被害による損害賠償等の訴訟を担当したことはありませんでした。

○最近、20数年ぶりに日照権被害による損害賠償請求が可能かどうかの相談を受け、その理屈等殆ど失念しており、事務所内文献を探すと昭和年代のものしかありません。アマゾンで探すと最新のもので2000(平成2)年1月発行「日照権訴訟の実務」なるものが最も新しい文献のようですが「現在在庫品切れ」となっており、中古品として発売されているには、1970年、80年代の30年以上前のものばかりです。

○文献も殆ど発売されていないと言うことは、日照権被害が事件となる例も、ここ20年ほどは相当少なくなっていると思われます。私の持っている判例データベースで「日照権 損害賠償」にキーワード検索をすると平成20年代の判例が数件出てきましたが、全部請求棄却でした。

○昭和40年代から建物の中高層化によって、日照権被害による紛争が多発するようになったとのことで、居宅の日照や通風について、快適で健康な生活に必要な生活利益であることを初めて認め、これ以降、日照への侵害が差し止め・損害賠償請求の根拠になる考えが本格的に定着したとの昭和47年6月27日最高裁判決(判タ278号110頁、判時669号26頁)を紹介します。

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主  文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理  由
 上告代理人○○○○の上告理由第一ないし第七について。
 原判決は、上告人がした原判示の二階増築行為が、被上告人の住宅の日照、通風を違法に妨害したとして、不法行為の成立を認め、上告人に対し、これによつて生じた損害の賠償を命じている。

 思うに、居宅の日照、通風は、快適で健康な生活に必要な生活利益であり、それが他人の土地の上方空間を横切つてもたらされるものであつても、法的な保護の対象にならないものではなく、加害者が権利の濫用にわたる行為により日照、通風を妨害したような場合には、被害者のために、不法行為に基づく損害賠償の請求を認めるのが相当である。

 もとより、所論のように、日照、通風の妨害は、従来与えられていた日光や風を妨害者の土地利用の結果さえぎつたという消極的な性質のものであるから、騒音、煤煙、臭気等の放散、流入による積極的な生活妨害とはその性質を異にするものである。しかし、日照、通風の妨害も、土地の利用権者がその利用地に建物を建築してみずから日照、通風を享受する反面において、従来、隣人が享受していた日照、通風をさえぎるものであつて、土地利用権の行使が隣人に生活妨害を与えるという点においては、騒音の放散等と大差がなく、被害者の保護に差異を認める理由はないというべきである。

 本件において、原審は、挙示の証拠により、上告人の家屋の二階増築部分が被上告人居住の家屋および庭への日照をいちじるしくさえぎることになつたこと、その程度は、原判示のように、右家屋の居室内および庭面への日照が、季節により若干の変化はあるが、朝夕の一時期を除いては、おおむね遮断される至つたほか、右増築前に比較すると、右家屋への南方からの通風も悪くなつた旨認定したうえ、かように、日中ほとんど日光が居宅に射さなくなつたことは、被上告人の日常万般に種々影響を及ぼしたであろうことは容易に推認することができると判示している。

 ところで、南側家屋の建築が北側家屋の日照、通風を妨げた場合は、もとより、それだけでただちに不法行為が成立するものではない。しかし、すべて権利の行使は、その態様ないし結果において、社会観念上妥当と認められる範囲内でのみこれをなすことを要するのであつて、権利者の行為が社会的妥当性を欠き、これによつて生じた損害が、社会生活上一般的に被害者において忍容するを相当とする程度を越えたと認められるときは、その権利の行使は、社会観念上妥当な範囲を逸能したものというべく、いわゆる権利の濫用にわたるものであつて、違法性を帯び、不法行為の責任を生ぜしめるものといわなければならない。

 本件においては、原判決によれば、上告人のした本件二階増築行為は、その判示のように建築基準法に違反したのみならず、上告人は、東京都知事から工事施行停止命令や違反建築物の除却命令が発せられたにもかかわらず、これを無視して建築工事を強行し、その結果、少なくとも上告人の過失により、前述のように被上告人の居宅の日照、通風を妨害するに至つたのであり、一方、被上告人としては、上告人の増築が建築基準法の基準内であるかぎりにおいて、かつ、建築主事の確認手続を経ることにより、通常一定範囲の日照、通風を期待することができ、その範囲の日照、通風が被上告人に保障されるわけであつたにかかわらず、上告人の本件二階増築行為により、住宅地域にありながら、日照、通風を大巾に奪われて不快な生活を余儀なくされ、これを回避するため、ついに他に転居するのやむなきに至つたというのである。

 したがつて、上告人の本件建築基準法違反がただちに被上告人に対し違法なものとなるといえないが、上告人の前示行為は、社会観念上妥当な権利行使としての範囲を逸脱し、権利の濫用として違法性を帯びるに至つたものと解するのが相当である。

 かくて、上告人は、不法行為の責任を免れず、被上告人に対し、よつて生じた損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。上告人に右損害賠償の義務を認めた原判決は正当であり、論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(関根小郷 田中二郎 下村三郎 天野武一 坂本吉勝)
以上:2,477文字

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