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交通事故でのペットへの傷害に対する慰謝料等の請求を認めた地裁判決紹介

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令和 2年 2月 3日(月):初稿
○世の中ペットブームですが、ペットが交通事故で傷害を受けた場合、その損害賠償がどこまで認められるかは大変難しい問題です。購入代金10万円のペットの治療費等が1000万円もかかっても、全額を損害として賠償請求が認められることはあり得ませんが、その賠償範囲は大変難しい問題になります。

○被告Aの運転する大型貨物自動車が原告Bの運転する普通乗用自動車に追突したことから、同自動車に乗っていた犬が傷害を負い、この犬を共有する原告C及び原告Bが損害を被ったとして、被告Aに対しては民法709条に基づき、被告Aの使用者である被告会社に対しては民法715条に基づき、約990万円の損害賠償等を請求しました。この犬の購入代金は6万5000円でした。

○この犬に対する診療等に関し、被告らの賠償すべき損害の範囲は、この犬が本件事故によって第二腰椎圧迫骨折の傷害を負ったことから、本件事故現場の最寄りに所在するM動物病院に入院し、その退院後も、原告らが本件犬を同院に連れて行き、本件事故発生から約4か月後まで、本件犬に診療を受けさせたことによる損害については、本件事故との間に相当因果関係があるとし、また、原告ら固有の慰謝料も認め、約990万円の請求に対し、約82万円を損害として認めた平成20年4月25日名古屋地方裁判所(交通事故民事裁判例集41巻5号1192頁)を紹介します。

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主   文
一 被告らは、原告乙山一郎に対し、連帯して82万0162円及びこれに対する平成17年9月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告乙山春子に対し、連帯して104万0162円及びこれに対する平成17年9月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、これを5分し、その2を被告らの負担とし、その余は原告らの負担とする。
五 この判決は、第1、2、4項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求

 被告らは、原告ら各自に対し、連帯して990万5706円及びこれに対する平成17年2月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

     (中略)

第三 当裁判所の判断
一 ラブに関する治療経過等について

 前提事実に加え、証拠(甲13、14の1ないし甲16の3、14、甲17の1ないし3、甲20ないし22、25の1ないし4、甲27ないし31、34、35の1ないし11、甲39ないし41の27、甲43、原告一郎本人、原告春子本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1)ラブは、夫婦である原告らがそれぞれ2分の1の持分で共有するラブラドールレトリーバー種(雄)の大型犬(本件事故当時の体重は26キログラム程度)である。
 ラブの生年月日は平成9年2月1日であり、原告らは同年7月27日にラブを代金6万5000円で販売店より購入した(甲12)。原告らは、子がおらず、ラブに対しては原告らの子のように思い、愛情を注いで、原告らの自宅建物内で飼育をしてきた。

(2)平成17年9月25日の本件事故発生当時、ラブは、原告車両の後部座席に乗っていたことから受傷し、消防隊員によって最寄りの前田動物病院(岐阜県中津川市所在)に搬送されたところ、後肢麻痺の症状があったことから、同病院に入院することとなった。
 前田動物病院の獣医師は、ラブの受傷内容につき、検査の結果、第二腰椎圧迫骨折に伴う後肢麻痺と診断した。ラブは、前田動物病院において、X線検査、血液検査、尿検査等の各種検査、投薬治療、光線治療等を受けた。(甲13、14の1、甲30等)

(3)平成17年12月11日、ラブは、後肢麻痺、排尿障害の症状を残したまま、前田動物病院を退院することとなり、原告らは、ラブを名古屋市内の自宅に連れ帰った。
 その後、原告らは、同月16日、28日、平成18年1月27日に、ラブを前田動物病院に連れて行き、診療を受けさせた(甲30等)。
 前田動物病院における上記入通院による診療の費用(車いす製作料を含む。振込手数料を除く。)は、合計76万2930円であった(甲14の1ないし8、弁論の全趣旨)。

(4)ラブが上記のとおり退院した後、主に原告春子がラブの世話を担った。原告春子は、ラブに対し、食事や水分補給等の世話をするほか、ラブに排尿障害があることから2~3時間おきに手で圧迫することによる排尿をさせたり、ラブに褥創ができていたことから体位の変換をしたり、おむつの交換をしたり、刺激を与えて排便をさせたりするなど、種々の介護を行った。

(5)原告らは、平成18年4月8日、ラブをコパン(名古屋市所在)に連れて行った。コパンは、犬専用のプールを有しており、麻痺のある犬についてプールを利用することによるリハビリテーションを行っている。原告らは、同日以後、平成19年9月29日まで、合計127回、ラブをコパンに連れて行き、ラブの後肢につきプールを利用することによるリハビリテーションを受けさせた。これにより、ラブの後肢の機能は改善をみたが、上記リハビリテーションはラブの身体に負担も与えることから、原告らは上記リハビリテーションを中止することとした。(甲16の14、甲28、41の1ないし27、甲43等)

(6)原告らは、平成18年4月9日、ラブを引佐動物病院に連れて行き、受診させたところ、獣医師により、膀胱炎と診断され、薬剤を処方された。引佐動物病院は、静岡県浜松市所在であるが、原告らが、本件事故発生以前、同市に居住していたころから、ラブを受診させていた動物病院であった。

 原告らは、同日以後、平成19年12月18日まで、合計28回、ラブを引佐動物病院に連れて行き、診療を受けさせた。その診療内容は、膀胱炎に関する診療、耳に関する処置、皮膚炎に関する診療、睾丸腫瘍に関する診療(手術を含む。)等であり、また、平成18年9月からは、後肢麻痺に対する鍼療法が行われ、同療法はラブの後肢の機能につき改善効果があった。原告らは、今後も引佐動物病院においてラブの診療を受けさせる予定である。(甲15の18、甲27等)

(7)原告らは、平成18年12月17日、ラブをコパンに併設された名古屋動物整形外科病院に連れて行き、後肢につき検査を受けさせた。(甲17の1ないし3、甲29)

二 ラブの診療、リハビリテーション等に関して被告らが賠償すべき損害の範囲について
(1)不法行為制度における損害の公平な分担という趣旨に鑑みると、不法行為が成立する場合に加害者が賠償すべき損害は,故意・過失による行為との間に事実的因果関係を有するすべての損害ではなく、社会通念に照らし、故意・過失による行為から通常生じるものと評価される損害、すなわち相当因果関係を有する損害に限られると解すべきである。

 そこで、上記一の認定事実を前提に、ラブに対する診療、リハビリテーション等(以下「診療等」という。)に関し、被告らの賠償すべき損害の範囲を検討するに、原告らの愛玩動物たるラブが、本件事故によって第二腰椎圧迫骨折の傷害を負ったことから、本件事故現場の最寄りに所在する前田動物病院に入院し、その退院後も、原告らがラブを前田動物病院に連れて行き、本件事故発生から約4か月後である平成18年1月27日までの間、ラブに診療を受けさせたことによる損害については、社会通念に照らしても、本件事故から通常生じるものと評価することができ、本件事故との間に相当因果関係を有する損害と解することができる。

 しかしながら、その後、原告らが、同年4月8日以降、ラブを、コパン、引佐動物病院、名古屋動物整形外科病院(以下「コパン等」という。)に連れて行き、診療等を受けさせたことによる損害については、上記診療等によるラブの障害の改善効果があったとはいえ、
〔1〕ラブは原告らが代金6万5000円で購入した家庭用愛玩動物であること、
〔2〕本件事故発生から前田動物病院における最終受診日までの期間は既に約4か月間に及んでいること、
〔3〕前田動物病院における診療の費用(車いす製作料を含む。振込手数料を除く。)は、合計76万2930円に達していること、
〔4〕前田動物病院における診療が終了してから、原告らがラブをコパン等に連れて行くまでの間には、時間的間隔があいていること、
〔5〕現在のわが国において、家庭用愛玩動物の受傷による障害につき、プールを利用することによるリハビリテーションを行うことや、鍼療法を行うことが、一般的な事態であるとは解されないこと、
〔6〕引佐動物病院における診療には、睾丸腫瘍等、本件事故との事実的因果関係を認めるに足りない症状についての診療も含まれていること
等を総合して考慮するならば、社会通念に照らし、本件事故から通常生じるものとは評価することができず、本件事故との間に相当因果関係を有する損害と解することはできない。

(2)これに対し、原告らは、都道府県等が所有者の判明しない負傷した犬を引き取った場合でも必要に応じて治療を行うこととされている点を挙げ、コパン等における診療等の費用についても被告らが賠償すべき根拠として主張する。

 しかし、実際上、都道府県等が所有者の判明しない負傷した犬を引き取った場合において、コパン等でラブが受けたような非常に手厚い診療等が行われるものとは解しがたいのであって、上記の点は、原告らがコパン等で受けさせた診療等と本件事故との間に相当因果関係があるとする根拠になるものとは解されない。

 また、原告らは、原告らがラブに治療を受けさせ、付添看護をしたことは、動物愛護法に適合する行為であり、この治療を受けさせなかったり、付添看護をしなかったりすれば、動物虐待として同法による刑事罰に処せられる可能性があったとして、上記治療及び付添看護の費用は本件事故と相当因果関係のある損害に含まれる旨主張する。

 しかしながら、原告らがラブに上記のような非常に手厚い診療等を受けさせ、付添看護をしたことは、確かに動物愛護法によく適合する行為というべきものであるが、そのことと、その診療等及び付添看護に係る費用を本件事故による損害として被告らに賠償させるべきか否かとは別個の問題であって、動物愛護法に適合する診療等及び付添看護がなされたからといって、必ずしもその費用がすべて本件事故から通常生ずべき損害と評価されることにはならないというべきである。

 また、原告らがコパン等で受けさせた診療等につき、原告らが仮にこれらをラブに受けさせていなかったとしても、そのこと自体から原告らが動物愛護法の動物虐待の罪によって刑事罰を科せられる可能性があったものとは到底解することができない。したがって、動物愛護法を考慮に入れても、原告らがコパン等で受けさせた診療等と本件事故との間に相当因果関係があるものとは解することができない。なお、原告らのラブに対する付添看護の費用に関しては、さらに後述する(後記三(7))。

三 原告らの損害額について
 以下、上記二で説示したところを前提に、原告の主張する損害につき、それぞれ検討する。
(1)治療費 76万3560円
 原告らが支出した前田動物病院における診療の費用については本件事故との間に相当因果関係が認められるところ、その額(車いす製作料及び振込手数料を含む。)は、合計76万3560円である(甲14の1ないし8、弁論の全趣旨)。
 しかし、原告らが支出したコパン等における診療等の費用については、本件事故との間に相当因果関係を認めることができない。

(2)将来の引佐動物病院での治療費 0円
 将来の引佐動物病院での治療費については、本件事故との間に相当因果関係を認めることができない。

(3)入院雑費、介護用具代、雑費 10万9925円
 甲18の2ないし9、甲24、によれば、原告らは、前田動物病院にラブが入通院していた期間、ラブのために、ペットシート、毛布、ペットポーター、クッションマット等を購入し、合計10万9925円を支出したことが認められ、これについては本件事故との間に相当因果関係が認められる。
 しかし、原告らが主張するその余の入院雑費、介護用具代、その他の雑費については、同主張に沿う甲18の1、10ないし36、甲24、37の1ないし15、原告春子本人の供述等を考慮しても、本件事故との間に相当因果関係を認めることができない。

(4)将来の雑費 0円
 将来の雑費については、本件事故との間に相当因果関係を認めることができない。

(5)交通費 6840円
 上記一の認定事実に加え、弁論の全趣旨によれば、原告らは、前田動物病院にラブを連れて行くための交通費として、次の計算式によるガソリン代相当額6840円を支出したことが認められ、これについては本件事故との間に相当因果関係が認められる。

 15円(1キロメートルを走行するのに要するガソリン代)×76キロメートル(片道の距離)×2×3回
 しかし、引佐動物病院及びコパンにラブを連れて行った際の交通費については、本件事故との間に相当因果関係を認めることができない。

(6)将来の交通費 0円
 将来の交通費については、本件事故との間に相当因果関係を認めることができない。

(7)通院・自宅付添看護費 0円
 上記一のとおり、ラブは、本件事故により、後肢麻痺の障害が残り、また、排尿障害があり、褥創もできていたことなどから、主に原告春子がラブの世話をし、種々の介護を行ってきたこと、原告らは、ラブに診療等を受けさせるため、ラブを前田動物病院やコパン等に連れて行ったことが認められるが、家庭用愛玩動物については、本来、飼い主によって種々の世話がなされることが予定されていることに加え、上記二での検討も考慮に入れると、上記の世話や介護等から、本件事故による損害として、原告らの主張する看護費用が発生したものとは解することができない。

 なお、原告らは、上記二(2)のとおり、原告らがラブの付添看護をしなかったならば動物虐待として動物愛護法による刑事罰に処せられる可能性があったとして、付添看護の費用が本件事故と相当因果関係のある損害に含まれる旨主張している。しかし、傷害を負った動物の世話が動物愛護法によって義務付けられているということと、その動物の世話や介護等をした場合にその傷害を負わせた加害者に対して看護費用を損害として請求しうるかということとは別個の問題であって、上記主張は採用できない。
 ラブに対する上記の世話や介護等については、後記のとおり、慰謝料を算定する上で考慮すべきものと解される。

(8)将来の通院・自宅付添看護費 0円
 上記(7)と同様、将来の通院・自宅付添看護費についても、本件事故による損害として発生するものとは解することができない。

(9)以上の各損害額の合計は88万0325円となるが、原告らのラブに対する共有持分が各二分の一であることから、原告らはそれぞれ、上記額の二分の一である44万0162円の損害を被ったことになる。

(10)慰謝料
原告一郎につき30万円
原告春子につき50万円
 甲9の3、甲20ないし22、34、39、40、原告一郎本人、原告春子本人によれば、原告一郎(本件事故当時39歳)及び原告春子(同40歳)は、ラブを両人の子ども同然に思って、愛情を注ぎ、育ててきたものであるが、本件事故によって、ラブが受傷し、さらに後肢麻痺等の重度の障害が残ったために、多大な精神的ショックを受けたこと、被告甲野は、原告らに対し、ラブに傷害を負わせたことにつき、きちんと謝罪しておらず、この点で、原告らは、著しく感情を害していること、また、とりわけ原告春子は、本件事故による自らの傷害について左項部痛、頚部痛、左恥骨部痛等があり、平成18年9月29日まで通院していたが、平成17年12月11日にラブが前田動物病院を退院した後は、原告春子が主にラブの世話や介護を担い、ラブのために、夜間も2~3時間おきに排尿の介助をしたり、褥創管理のために体位の変換をしたり、おむつの交換をしたり、排泄物で汚れた物を洗ったりと、人間に対する介護にも劣らない手厚い介護を行ってきたものであることが認められる。

 以上の事実のほか、本件に顕れた一切の事情を考慮すると、原告らにおいては、本件事故によるラブの受傷によって慰謝料請求権が発生しているものと解すべきであり、その額は、原告一郎について30万円、原告春子について50万円とするのが相当である。


 そこで、上記慰謝料額を上記(9)の損害額に加算すると,原告らの損害額は次のとおりとなる。
原告一郎 74万0162円
原告春子 94万0162円

(11)弁護士費用原告一郎 8万円
原告春子 10万円
 本件審理経過、認容額等に鑑み、被告らに負担させるべき原告らの弁護士費用は上記額とするのが相当である。
 そこで、これを上記(10)の損害額に加算すると、原告らの損害額は次のとおりとなる。
原告一郎 82万0162円
原告春子 104万0162円

四 結論
 以上によれば、〔1〕原告一郎の請求は、被告らに対し、82万0162円及びこれに対する本件事故発生日である平成17年9月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がなく、〔2〕原告春子の請求は、被告らに対し、104万0162円及びこれに対する上記同様の遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 尾崎康)


以上:7,241文字

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