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未成年者不法行為について監督義務者責任免除を認めた最高裁判決紹介

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令和 3年10月 2日(土):初稿
○令和3年10月1日(金)午後2時から5時まで日弁連交通事故相談センター相談員等Zoom研修会があり、Zoomで参加しました。一部会場参加者もいるのかと思ったら、参加者全員がZoomで講師2名は東京弁護士会所属弁護士で、おそらく東京からの講演で、聴講する参加者は仙台弁護士会会員で仙台のそれぞれの事務所からの参加で、100人以上が参加していました。

○私の場合、会場で直接講演を聞いても、難聴が進行したため、補聴器をつけても話しの中身を聞き取ることが出来なくなっており、ここ数年仙台弁護士会や東北弁連主催の会場での講演会には参加しなくなっていました。講演会場では音は聞こえても反響音等で音の輪郭が明瞭でなくなるため、補聴器をつけての聞き取りでは、言語が不明確にしか聞こえず、結局、話の意味を理解できないからです。

日弁連交通事故相談センター相談員等Zoom研修会は、自転車事故がテーマの一つだったことから、必要性を感じて、今回初めて参加しました。直接会場参加の場合聞き取れなくても、Zoomの場合、自分のPCの音量を最大限にすると難聴の私でも補聴器経由で何とか話しを聞き取ることが出来ることがハッキリしました。今後、興味あるテーマのZoom研修会はできるだけ参加するつもりです。

○第1部川原奈緒子弁護士による自転車加害事故の話しでしたが、話し声は明確でハッキリ聞き取れ、且つ、シッカリ練られた講演で、話の内容も判りやすく有益なモノでした。その中で民法不法行為について最高裁重要判例に触れられ、当HPで紹介し忘れていたことを思い出しました。未成年者不法行為の監督義務責任者についての重要判例です。関係条文は以下の通りです。

第712条(責任能力)
 未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。
第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
 前2条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。


○民法第712条の未成年者は、小学生くらいまでと言われており、小学生が自転車事故で他人に損害を与えても、民法第712条で原則として賠償責任を負いません。その代わり第714条で、原則として監督義務責任者の親が賠償責任を負いますが、但し書きで、監督義務者の親が監督義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生じたときは親も賠償責任を負わないとされています。この但し書きが適用になることは殆どないと思われていました。

○しかし、この但し書きを適用して小学生の子供による不法行為責任を免除した有名な最高裁判例が、平成27年4月9日最高裁判決(判時2261号145頁、判タ1415号69頁)で、以下、全文紹介します。

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主   文
1 原判決中,上告人らの敗訴部分をいずれも破棄する。
2 第1審判決中,上告人らの敗訴部分をいずれも取り消す。
3 前項の取消部分に関する被上告人らの請求をいずれも棄却する。
4 第1項の破棄部分に関する承継前被上告人Aの請求に係る被上告人X2及び同X3の附帯控訴を棄却する。
5 訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。

理   由
 上告代理人○○○,同○○○○,同○○○○の上告受理申立て理由第3の3について
1 本件は,自動二輪車を運転して小学校の校庭横の道路を進行していたA(当時85歳)が,その校庭から転がり出てきたサッカーボールを避けようとして転倒して負傷し,その後死亡したことにつき,同人の権利義務を承継した被上告人らが,上記サッカーボールを蹴ったB(当時11歳)の父母である上告人らに対し,民法709条又は714条1項に基づく損害賠償を請求する事案である。上告人らがBに対する監督義務を怠らなかったかどうかが争われている。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)B(平成4年3月生まれ)は,平成16年2月当時,愛媛県越智郡D町立(現在は今治市立)E小学校(以下「本件小学校」という。)に通学していた児童である。

(2)本件小学校は,放課後,児童らに対して校庭(以下「本件校庭」という。)を開放していた。本件校庭の南端近くには,ゴールネットが張られたサッカーゴール(以下「本件ゴール」という。)が設置されていた。本件ゴールの後方約10mの場所には門扉の高さ約1.3mの門(以下「南門」という。)があり,その左右には本件校庭の南端に沿って高さ約1.2mのネットフェンスが設置されていた。また,本件校庭の南側には幅約1.8mの側溝を隔てて道路(以下「本件道路」という。)があり,南門と本件道路との間には橋が架けられていた。本件小学校の周辺には田畑も存在し,本件道路の交通量は少なかった。

(3)Bは,平成16年2月25日の放課後,本件校庭において,友人らと共にサッカーボールを用いてフリーキックの練習をしていた。Bが,同日午後5時16分頃,本件ゴールに向かってボールを蹴ったところ,そのボールは,本件校庭から南門の門扉の上を越えて橋の上を転がり、本件道路上に出た。折から自動二輪車を運転して本件道路を西方向に進行してきたA(大正7年3月生まれ)は,そのボールを避けようとして転倒した(以下,この事故を「本件事故」という。)。

(4)Aは,本件事故により左脛骨及び左腓骨骨折等の傷害を負い,入院中の平成17年7月10日,誤嚥性肺炎により死亡した。 

(5)Bは,本件事故当時,満11歳11箇月の男子児童であり,責任を弁識する能力がなかった。上告人らは,Bの親権者であり,危険な行為に及ばないよう日頃からBに通常のしつけを施してきた。

3 原審は,上記事実関係の下において,本件ゴールに向けてサッカーボールを蹴ることはその後方にある本件道路に向けて蹴ることになり,蹴り方次第ではボールが本件道路に飛び出す危険性があるから,上告人らにはこのような場所では周囲に危険が及ぶような行為をしないよう指導する義務,すなわちそもそも本件ゴールに向けてサッカーボールを蹴らないよう指導する監督義務があり,上告人らはこれを怠ったなどとして,被上告人らの民法714条1項に基づく損害賠償請求を一部認容した。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 前記事実関係によれば,満11歳の男子児童であるBが本件ゴールに向けてサッカーボールを蹴ったことは,ボールが本件道路に転がり出る可能性があり,本件道路を通行する第三者との関係では危険性を有する行為であったということができるものではあるが,Bは,友人らと共に,放課後,児童らのために開放されていた本件校庭において,使用可能な状態で設置されていた本件ゴールに向けてフリーキックの練習をしていたのであり,このようなBの行為自体は,本件ゴールの後方に本件道路があることを考慮に入れても,本件校庭の日常的な使用方法として通常の行為である。

また,本件ゴールにはゴールネットが張られ,その後方約10mの場所には本件校庭の南端に沿って南門及びネットフェンスが設置され,これらと本件道路との間には幅約1.8mの側溝があったのであり,本件ゴールに向けてボールを蹴ったとしても,ボールが本件道路上に出ることが常態であったものとはみられない。

本件事故は,Bが本件ゴールに向けてサッカーボールを蹴ったところ,ボールが南門の門扉の上を越えて南門の前に架けられた橋の上を転がり,本件道路上に出たことにより,折から同所を進行していたAがこれを避けようとして生じたものであって,Bが,殊更に本件道路に向けてボールを蹴ったなどの事情もうかがわれない。

 責任能力のない未成年者の親権者は,その直接的な監視下にない子の行動について,人身に危険が及ばないよう注意して行動するよう日頃から指導監督する義務があると解されるが,本件ゴールに向けたフリーキックの練習は,上記各事実に照らすと,通常は人身に危険が及ぶような行為であるとはいえない。

また,親権者の直接的な監視下にない子の行動についての日頃の指導監督は,ある程度一般的なものとならざるを得ないから,通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は,当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り,子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。

 Bの父母である上告人らは,危険な行為に及ばないよう日頃からBに通常のしつけをしていたというのであり,Bの本件における行為について具体的に予見可能であったなどの特別の事情があったこともうかがわれない。そうすると,本件の事実関係に照らせば,上告人らは,民法714条1項の監督義務者としての義務を怠らなかったというべきである


5 以上によれば,原審の判断中,上告人らの敗訴部分には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,この点に関する論旨は理由がある。そして,以上説示したところによれば,被上告人らの民法714条1項に基づく損害賠償請求は理由がなく,被上告人らの民法709条に基づく損害賠償請求も理由がないこととなるから,原判決中上告人らの敗訴部分をいずれも破棄し,第1審判決中上告人らの敗訴部分をいずれも取消した上,上記取消部分に関する被上告人らの請求をいずれも棄却し,かつ,上記破棄部分に関する承継前被上告人Aの請求に係る被上告人X2及び同X3の附帯控訴を棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山浦善樹 裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志 裁判官 池上政幸)
以上:4,154文字

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