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6歳時から20年以上の強制わいせつ被害損害賠償請求を棄却した地裁判決紹介

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令和 7年10月24日(金):初稿
○原告(昭和60年生まれの女性、訴え提起時37歳)が、6歳の頃(平成4年)から20年以上にわたり原告の母と内縁関係にある被告(昭和18年生まれの男性、訴え提起時79歳)から陰部を触られるなどの強制わいせつ行為を繰り返しされて精神的苦痛を受けたなどとして、被告に対し不法行為に基づく損害賠償として慰謝料等1650万円の損害賠償請求をしました。

○これに対し、被告は強制わいせつ行為はしていないと否認し、原告が服用していた薬品副作用で悪夢や錯乱が生じ、薬の副作用や飲み忘れ、減薬により、原告が実際には経験しなかったことを経験したかのように考えてしまった可能性がある、原告主張の最後の不法行為は平成27年9月で、平成30年9月で消滅時効が完成した等の答弁をしました。

○この事案について、原告の供述の信用性については、これによって強制わいせつ行為の存在を認定できる程度に強度のものであるとはいい難く、他に強制わいせつ行為の存在を裏付ける証拠は提出されていないとして、原告の請求を棄却した令和6年4月22日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。

○この種の訴えは、相当数あり、請求が認められる例もあります。しかし、本件で原告は、被告による性的虐待につき、刑事告訴をし、被告は、取調べにおいて、原告に対する性的行為を否定し、原告の母Cや兄Dは、取調べにおいて、被告による原告に対する性的行為につき心当たりがない旨供述し、被告は、不起訴処分となりました。原告は、検察審査会に対し、審査の申立てに、検察審査会は、不起訴を相当とする議決をしていました。

○原告と被告は20数年間同居している間にその関係が相当悪化した故の訴え提起と思われますが、判決は、被告が原告に対して本件強制わいせつ行為を行ったことを認めるに足りる証拠は提出されておらず、本件強制わいせつ行為の存在を認定することはできないといわざるを得ないと結論づけています。控訴されたかどうかは不明です。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、1650万円及びこれに対する平成27年9月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 事案の概要

 本件は、原告が、6歳の頃から20年以上にわたり、原告の母と内縁関係にある被告から陰部を触られるなどの強制わいせつ行為を繰り返しされて精神的苦痛を受けたなどと主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として慰謝料等1650万円及びこれに対する最後の不法行為の日の後である平成27年9月30日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提事実
 当事者間に争いがないか、後掲の証拠(特に断らない限り枝番号を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実は以下のとおりである。
(1)当事者
ア 原告は、昭和60年生まれの女性であり、C(以下「C」という。)の子である。また、D(以下「D」という。)は、原告の実兄である。
イ 被告は、昭和18年生まれの男性で、Cと内縁関係にあり、E(以下「E」という。)は、被告とCとの間の子である。原告と被告との間に血縁関係はない。

(2)C、被告、D及び原告は、平成3年頃から同居を開始し、同年○月○○日にEが生まれた。自宅の間取りは2DKで、DK、和室及び洋室がある。玄関を入るとDKがあり、DKから和室と洋室にそれぞれつながっている。平成26年頃にDが自宅を出るまでの間は、C、被告及びEが和室を、D及び原告が洋室を使用していた。(乙3)
 Dは、平成26年頃、自宅を出て一人暮らしを始めた。その後は、C及び原告が洋室を、被告及びEが和室を使用するようになった。

(3)原告は、平成16年1月頃から平成21年9月頃までの間、a病院に通院してカウンセリングを受けた。また、同年10月24日からは、bクリニックに通院し、F医師(以下「F医師」という。)による診察を受けたほか、F医師の紹介で公認心理師と臨床心理士の資格を持つG(以下「G」という。)及びH(以下「H」という。)によるカウンセリングも受けた。さらに、令和元年10月5日からは、同クリニックにおいて、公認心理師と臨床心理士の資格を持つJ(以下「J」という。)によるカウンセリングを受け始めた。(甲6、7、9~11)

(4)原告は、平成27年9月17日頃、自宅を出て、グループホームの利用を開始した。(甲1)

(5)原告は、令和4年4月24日、本件訴訟を提起した。

3 争点及び争点に関する当事者の主張
(1)被告の原告に対する強制わいせつ行為の存否(争点〔1〕)
(原告の主張)
ア 被告は、平成4年から原告が実家を出る平成27年9月17日頃までの間に、原告に対し、以下の強制わいせつ行為を繰り返し行っており(以下「本件強制わいせつ行為」という。)、これは原告に対する不法行為に該当する。
(ア)被告は、平成4年、当時6歳の原告に対して、和室において、自らの布団に仰向きにさせ、原告の意思に反して、直接又は服の上から原告の陰部を触った。

     (中略)

(被告の主張)
ア 被告は、原告に対して本件強制わいせつ行為をしていない。
イ 仮に被告が本件強制わいせつ行為をしていたのであれば、同居していた他の家族が気付くはずであるが、CやDは心当たりがないと述べている。

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前記前提事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。
(1)C、被告、D、原告及びEは、平成3年頃から同居を開始した。原告と被告が出会ったのは原告が幼稚園児の時であったが、遅くとも原告が中学生の頃以降は、両者の関係は良好とはいえなかった。
 被告は、会社員として働いていたが、現在は退職している。被告が会社員として働いていた頃は、平日の朝8時頃に家を出て、夜9時過ぎ頃に帰宅していた。また、Cはパートとして働いていたが、被告よりも前に帰宅していた。
 原告は、高校卒業後に就職したものの、体調不良により仕事ができなくなった時期があった。
(以上につき、乙4、5、原告本人、被告本人)

(2)原告は、うつ状態になったと感じたことから、Cの勧めで、平成16年1月頃から平成21年9月頃までの間、a病院に通院し、KとLによるカウンセリングをそれぞれ受けた。原告は、そのカウンセリングにて、義父のことで悩んでいるとは話したものの、被告から性的虐待を受けていたことは話さなかった。
(原告本人)

(3)原告は、うつ状態の改善のために、平成21年10月24日からbクリニックへの通院を開始した。同クリニックでは、F医師による診察を受けたほか、同年11月頃から平成22年12月頃まではGによるカウンセリングを、平成26年7月頃から平成27年9月頃まではHによるカウンセリングを受けたが、ここでも被告から性的虐待を受けていたことは話さなかった。(甲11、12、原告本人)

(4)原告は、現在の勤務先への就職や住む場所が決まったため、平成27年9月17日頃、実家を出て、グループホームの利用を開始した。それまでは2週間に1回程度の頻度でHのカウンセリングを受けていたが、就職に伴って日中忙しくなり、受けなくなった。(甲1、原告本人)

(5)原告は、平成29年頃、Cに対し、被告から性的被害を受けていた旨を伝えた。(乙5、原告本人)

(6)
ア 原告は、令和元年10月5日から、bクリニックにおいて、Jによるカウンセリングを受け始めた。原告は、初回のカウンセリングにおいて、Jに対し、幼少期から被告による性的虐待を受けており、そのトラウマを克服したいと伝えた。原告は、その後、1回50分ほどのカウンセリングを月に1、2回程度、合計約100回にわたって受けた。
 Jは、カウンセリングの結果、原告がPTSDを発症しており、その原因は義父である被告から受けた長期に及ぶ日常的な性的虐待であると判断した。また、F医師は、原告について、令和2年6月20日に不安障害、うつ状態と、令和5年2月4日にうつ病とそれぞれ診断した。
(以上につき、甲2~4、6、7、11、12、証人J、原告本人)

イ 原告は、少なくとも平成27年10月10日から平成29年8月16日までの間はパキシルCR錠及びゾルピデム酒石酸塩錠を、同月30日以降はパキシルCR錠を処方され、服用していた。パキシルCR錠はうつ病・うつ状態について、ゾルピデム酒石酸塩錠は不眠症についてそれぞれ効果のある薬であり、いずれも、一般的に、せん妄、幻覚、錯乱、めまい、悪夢を含む睡眠障害などといった副作用が生ずることがある。(以上につき、甲6、12、乙1、2、原告本人)

(7)原告は、Jによるカウンセリングを受けて、被告による性的虐待につき、刑事告訴をした。被告は、取調べにおいて、原告に対する性的行為を否定した。また、CやDは、取調べにおいて、被告による原告に対する性的行為につき心当たりがない旨供述した。
 後日、被告は、不起訴処分となった。原告は、検察審査会に対し、当該処分につき審査の申立てをしたが、検察審査会は、不起訴を相当とする議決をした。

(以上につき、乙5、原告本人、被告本人)

2 争点〔1〕について
(1)原告は、前記第2、3(1)(原告の主張)、ア記載の事実関係(被告による本件強制わいせつ行為)を供述する一方で、被告は、これらの事実関係はなく、心当たりがない旨供述する。そこで、以下、原告の上記供述の信用性につき検討する。
ア 原告は、前記のとおり、被告からの性的虐待について、その時期や行為の態様について具体的に主張し、これに沿う供述をしている。
 しかし、本件強制わいせつ行為が行われていたとされるのは自宅の和室又は洋室であるところ、当時は原告と被告を含めて5名(平成26年以降はDを除く4名)の家族で暮らしており、和室と洋室のいずれも家族が複数人で使用していた。それにもかかわらず、和室又は洋室で20年以上にわたって繰り返し行われていた義父による性的虐待という異常な出来事を目撃することはおろか心当たりのある家族さえいないというのは不自然といわざるを得ない。

 もとより、他の家族も、いわば家長の立場にある被告による行為でもあることから、ある程度心当たりがあっても、目をつむり、見て見ぬふりをしていたという可能性はないではないものの、原告からの具体的な被害申告を受け、捜査機関による取調べを受けてもなお、CもDも心当たりすらないと述べている。

イ この点につき、原告は、被告からの性的虐待はC、D及びEが家にいない時に行われていたと主張し、これに沿う供述をする。
 しかし、そもそも原告と被告が自宅に2人きりになる機会がどれ程存在したのかは不明である。かえって、前記認定事実(1)によれば、被告が日中稼働していて自宅にいる時間が限られていた時期がある上に、その時間は原告以外の他の家族も自宅にいることが多かったことが認められる。また、原告においても、本件強制わいせつ行為が行われていたとされる平成4年から平成27年までの間のうち、学校や仕事で日中は外出していた期間が多くあったと認められる。

以上からすると、本件強制わいせつ行為が行われたとされる時期において、原告と被告が自宅に2人きりになる機会は少なかったことがうかがわれる。なお、原告は、平成27年9月当時の家族の稼働状況を主張するが、本件強制わいせつ行為は長年にわたって行われていたというのであるから、平成27年9月時点の稼働状況を主張するのみでは足りないといわざるを得ない。原告は、とりわけ平成18年、平成22年、平成27年に受けた行為については、時期も特定して具体的に述べているのであるが、これらの各行為に限って見ても、被告と2人きりになった機会がどのように生じたのか、明らかでないところである。

ウ 以上のとおり、原告の上記供述は、当時の家族の生活状況や自宅の構造等に照らすと、その核心部分につき不自然といわざるを得ない点がみられる。
 他方で、原告の供述を裏付ける客観的な証拠にも乏しいことからすると、具体的な供述であるからといって、たやすく信用することはできない。


(2)
ア 原告は、Jの意見に基づき、原告の上記供述が信用性を有する旨主張する。
 確かに、Jは、前記認定事実(6)アのとおり、原告がPTSDを発症しており、その原因が幼少期からの被告による性的虐待であると判断している。しかし、これは、医師による診断ではない。他方で、F医師は、不安障害、うつ状態ないしうつ病と診断している。そして、F医師作成のカルテ(甲6)には、原告が以前の職場における出来事についてフラッシュバックを訴えたことをうかがわせる記載があり、原告自身も、仕事や生活がうまくいかなかったことがうつ症状の原因の一つではあることを認めているから、医師が診断している原告の症状から原告が性的虐待を受けていたことを直ちに推認することはできない。

 また、Jは、原告に詐病の疑いがないことの根拠として、話の整合性のほか、表情や身振り手振り、声のトーンなどといった非言語的なものを考慮したと供述する。しかし、話の中に矛盾がないことをもって供述が信用できると即断することはできないし、Jが挙げる非言語的な要素についても、具体的に原告のどのような所作をもってどのような根拠で信用性を判断したのかが判然としない。

 以上からすると、Jの意見は、原告の供述の信用性を十分に裏付けるには足りないというべきである。

イ 原告は、F医師によるカルテの記載内容が本件強制わいせつ行為と一致するとも主張する。確かに、F医師作成のカルテ(甲6)には、原告が義父である被告に対して強い嫌悪感を抱いている様子が読み取れるが、被告から何らかの性的な被害を受けたことに関する記載は見当たらない。また、これらのカルテはいずれも平成27年10月10日以降のものであり、本件強制わいせつ行為が行われていた期間におけるカルテは残されていない。したがって、F医師によるカルテの記載内容は、原告の供述の信用性を十分に裏付けるものとはいえない。

ウ したがって、原告の上記主張はいずれも採用することができない。

(3)他方、被告は、原告に対して性的行為をしたことはない旨供述するところ、その供述内容に特段不合理な点は見当たらない。よって、被告の上記供述を信用できないものとして排斥することはできない。

(4)以上からすると、原告の上記供述の信用性については、これによって本件強制わいせつ行為の存在を認定できる程度に強度のものであるとはいい難い。そして、他に本件強制わいせつ行為の存在を裏付ける証拠は提出されていない。
 そうすると、本件において、被告が原告に対して本件強制わいせつ行為を行ったことを認めるに足りる証拠は提出されておらず、本件強制わいせつ行為の存在を認定することはできないといわざるを得ない。

第4 結論
 以上によれば、原告の請求は、争点〔2〕~〔4〕について判断するまでもなく、理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第16部 裁判長裁判官 池原桃子 裁判官 池田幸司 裁判官 北澤陸
以上:6,356文字

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