| 令和 7年12月23日(火):初稿 |
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○民法第255条で「共有者の1人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。」と規定されています。この規定に基づきA・B各持分2分の1の共有土地持分権者Aが持分を放棄した場合、その持分についてAからBに移転登記をする手続は、Bを権利者、Aを義務者とする共同申請登記手続になります。 ○この場合、権利者Bが登記手続に協力しない場合、AはBに対し登記引取請求訴訟を提起し、その判決に基づき単独で登記することになります。その判決例を探していたところ令和6年12月23日東京地裁判決(LEX/DB)が見つかりましたので紹介します。 ********************************************* 主 文 1 被告eは、原告に対し、別紙物件目録1記載の各土地の各共有持分24分の1について、令和6年4月8日共有持分放棄を原因とする原告から被告eへの持分移転登記手続をせよ。 (中略) 14 被告bは、原告に対し、別紙物件目録4記載の土地の共有持分2分の1について、令和6年4月8日共有持分放棄を原因とする原告から被告bへの持分移転登記手続をせよ。 (中略) 47 被告hは、原告に対し、別紙物件目録11記載の各建物の各共有持分12分の1について、令和6年4月8日共有持分放棄を原因とする原告から被告hへの持分移転登記手続をせよ。 48 訴訟費用は、被告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 1 本件は、別紙物件目録1ないし11記載の不動産について共有持分を有していた原告が、その持分を放棄したことにより民法255条に基づき当該持分は他の共有者に帰属した旨を主張し、他の共有者である被告らに対し、登記引取請求権に基づき、原告から被告らへの上記の各不動産に係る持分全部移転登記手続を求める事案である。 2 当事者の主張 (中略) 第3 当裁判所の判断 1 被告g及び被告h関係について 被告g及び被告hは、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。したがって、被告g及び被告hにおいては、同被告らに関係する請求原因事実を争うことを明らかにしないものとして、これを自白したものとみなす。 2 被告f関係 被告fは、答弁書を提出したものの、同被告に関係する請求原因事実を争うことを明らかにしないから、これを自白したものとみなす。 3 被告e関係 被告eに関係する請求原因事実については、当事者間に争いがない。 4 被告d関係 被告dに関係する請求原因事実のうち別紙訴状(写し)「第2 請求の原因」(ただし、6項及び9項を除く。)欄記載のものは、当事者間に争いがない。 被告dに関係する請求原因事実のうち別紙訴え変更申立書(写し)「第2 請求の原因の変更」欄記載のもの(別紙訴状(写し)「第2 請求の原因」の6項及び9項に係る部分を変更したもの)は、同被告において争うことを明らかにしないから、これを自白したものとみなす。 5 被告b関係 (1)被告bに関係する請求原因事実(別紙訴状(写し)「第2 請求の原因」の4項ないし7項、9項及び10項に係る部分)のうち、被告bにおいて自認する部分は当事者間に争いがなく、証拠(甲2、5、6)及び弁論の全趣旨によれば、その余の部分に係る事実が認められる。 この点、被告bは、原告が令和6年4月8日になした本件各不動産の共有持分の放棄の意思表示について、意思表示の受領能力はなかった旨を主張するが、民法255条所定の共有者の一人が行うその持分の放棄は、相手方を必要としない単独行為であると解されるから、他の共有者の意思能力(意思表示の受領能力)の有無のいかんによらず、放棄の意思表示がされた時点で効力を生ずるものといえる。したがって、被告bの上記主張は、本件各不動産に関し、原告が被告bとの関係でもその共有持分を放棄した旨の前示の認定を左右するに足りるものとは認められず、採用することができない。 (2)被告bは、要旨、原告が本件各不動産に係る共有持分を放棄したとして他の共有者に持分全部移転登記手続を求めることは、共有者間の公平を害するから、権利濫用ないし信義則に反するものとして許されない旨を主張する。 そこで検討するに、原告が本件各不動産(被告bが共有者となっているもの。以下同じ。)の共有持分を放棄したことにより、実体法上、被告bを含む他の共有者は原告が放棄した共有持分を原始取得したことになるものと解されるところ、本件各不動産の不動産登記記録には、原告が持分を有している旨が公示されており、現在の実体的権利関係に符合していないのであるから、原告は、被告bを含む他の共有者に対し、不動産登記記録に公示された権利関係を現在の実体的権利関係に符合させるべく持分の全部移転登記手続を求める登記請求権を有するものと解するのが相当である。 しかして、民法255条は、所有者のない不動産を国庫に帰属させる原則(民法239条2項)を修正して、共有物については、他の共有者に所有者のない持分を帰属させる旨を規定したものであるから、被告bが主張する事情をもって直ちに原告がなした共有物の持分の放棄及びこれを原因とする持分権の移転登記手続の請求が、その権利を濫用し、あるいは信義則に反するとは断じ得ない。 また、証拠(甲7ないし9)及び弁論の全趣旨によれば、本件各不動産については、高額の固定資産税が課税される見込みである一方で、不動産の活用により相応の金額の収益が得られていることが認められ、また、原告は、被告bが共有者となっている不動産につき、その種別や収益性の多寡によらず、全て一律に持分を放棄していることが認められることからすれば(弁論の全趣旨)、実質的にみても、原告による本件各不動産の持分の放棄が、被告bとの関係で権利の濫用に当たり、あるいは信義則に反するものと認めることは困難といわざるを得ない。したがって、被告bの上記主張は採用することができない。 第4 結論 よって、原告の請求は、いずれも理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第25部 裁判官 片野正樹 以上:2,566文字
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