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交通事故と心因性視力障害の因果関係を認めた地裁判決紹介5

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令和 1年 6月29日(土):初稿
○「交通事故と心因性視力障害の因果関係を認めた地裁判決紹介5」の続きで、42歳男子運転手が追突事故でバレー・ルー症候群から視力障害を発症した事案で、医師も心因性を肯定していることから、心因性で3割減額が適用され、後遺症逸失利益算定につき、事故時収入を基礎に、症状固定後10年間を14%の喪失率で認められた平成11年10月27日東京地裁判決(自動車保険ジャーナル・第1342号)関連部分を紹介します。

○42歳男子運転手の原告は、平成7年5月13日午前10時ころ、東京都新宿区内で乗用車を運転停車中、被告運転、被告会社所有のバン型小型貨物車に追突され、頸椎捻挫等で運転手を退職、視力障害、めまい等1年9か月治療を受け、後遺症を残したとして2500万3525円を求めて訴えを提起しました。

○判決は、視力障害等の1年9か月の治療と本件事故との因果関係を認め、心因性で30%減額を適用しました。原告の症状はバレー・ルー症候群として「本件事故と相当因果関係がある」と認めた原告の主訴は「自律神経系の障害…は、画像所見などで確認することはできないとおもわれるから…後遺障害を否定する理由にならない」と1年9か月の治療で12級12号を残し、10年間14%労働能力喪失と認定しました。しかし、原告の症状は治療を受け「緩解するどころかむしろ悪化し…通常の回復経過を辿っているとはいい難い」上に「医師も心因性を肯定している」ことで「心因的要因が寄与した割合は30%」と減額を適用しました。

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主   文
一 被告らは、原告に対し、連帯して金1165万6646円及び内金1055万6646円に対する平成7年5月13日から、被告Aにおいては内金110万円に対する平成9年8月8日から、被告株式会社Bにおいては内金110万円に対する平成9年8月2日から、支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、2分の1を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、原告勝訴の部分について、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求

 被告らは、原告に対し、各自金2500万3525円及び内金2203万3525円に対する平成7年5月13日から、被告Aにおいては内金297万円に対する平成9年8月8日から、被告株式会社Bにおいては内金297万円に対する平成9年8月2日から、支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
 本件は、普通貨物自動車が普通乗用自動車に追突した交通事故について、被害車両の運転者が、加害車両の所有者及び運転者に対し、損害賠償を求めた事案である。

一 前提となる事実(証拠を掲げた事実以外は争いがない。)


     (中略)


第三 争点に対する判断
一 本件事故と相当因果関係のある治療(争点1)
1 原告の負傷内容及び治療経過
 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 被害車両は、トヨタチェイサー・アバンテであり、本件事故により、左後部を中心に、修理費として44万6、196円を要する損傷を被った。加害車両は、トヨタのバンであり、本件事故により右前部を中心に、修理費として22万0543円を要する損傷を被った。


     (中略)



(六) 金医師は、原告に残存した症状に関し、概ね次のとおりの意見を有して いる。
 原告の主訴は、主に自律神経機能の異常に起因するもので、事故後の経過をも考慮すると、本件事故により発症したバレー・ルー症候群と考えられる。特に、事故後1年以上を経過しても、症状が残存していることからして、2次性のバレー・ルー症侯群であり、神経根症状や心因症状もあると思われる。バレー・ルー症候群の診断においては、整形外科のみならず、耳鼻科、眼科などの他科との総合判断が必要と思われるが、原告は、慈恵医大病院受診前に眼科での受診をしており、慈恵医大病院においても、耳鼻科の受診をしている。

(七) むちうち損傷のうち、バレー・ルー症状型は、後部頸交換神経症候群といい、後頭部や後頸部の痛み、めまい、耳鳴り、視力障害、眼精疲労、顔面・腕・咽頭部の知覚異常などの症状があり、胸部の圧迫感などの心臓の症状を訴えることもある。
 以上の事実が認められ、他に、これを左右するに足りる証拠はない。

2 裁判所の判断
(一)1の認定事実(事故直後の後頸部等の痛み、軽度の吐き気、事故後1か月ほどからの右中心性漿液性網脈絡膜症の発症、難聴の自覚、めまいや吐き気を原因とする救急車での搬送、残存するふらつき、めまい、左手足のしびれなどの原告の症状の経過、バレー・ルー症候群であるとの金医師の意見、バレー・ルー症候群の一般的内容)によれば、原告の症状は、主として、本件事故により発生したバレー・ルー症候群であると認めることができる(神経根症状についても、ある程度複合的に影響している可能性も否定できないが、少なくとも、それが主であるとは認められない。)。

 したがって、症状固定時までの東京女子医大病院、井上眼科病院、安藤整形外科、東京慈恵会医科大学病院での治療は本件事故と相当因果関係がある。

(二) 被告は、井上眼科病院で通院治療を受けた右中心性漿液性網脈絡膜症は、本件事故と因果関係がないと主張する。
 しかし、中心性漿液性網脈絡膜症は精神的ストレスが原因で起こることがあり、原告には、事故後まもなく、頭痛、吐き気などの自律神経系の障害をうかがわせる症状が生じていて精神的ストレスの原因となる事情は存在していたといえる。井上眼科病院の藤川医師は、本件事故による頸椎捻挫に起因して右症状を発症した可能性が十分あるとしているし、本件全証拠によっても、他に原因として考えられる事情は見あたらない。

 そうすると、右中心性漿液性網脈絡膜症の発症は、本件事故と相当因果関係があるというべきであるから、被告の主張は採用できない。

二 原告の後遺障害の有無及び程度(争点2)
1 原告の主張及び裁判所の判断
 原告は、残存したふらつき、めまい、左手足のしびれなどの症状は、自動車損害賠償保障法施行令2条別表の後遺障害等級第12級12号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当し、症状固定時から23年間にわたり14%の労働能力を喪失したと主張する。
 原告は、事故後の症状により自動車の運転は危険であると考え、運転手として稼働していた勤務先を退職しており、症状固定時には、本件事故に起因するバレー・ルー症候群によるふらつき、めまい、左手足のしびれが残存した上、症状固定後も、めまい等で救急車で搬送されたほどで、投薬でやや緩和された状態にあるとはいえ、その症状には頑固性を認めることができる。

 したがって、原告に残存した症状は、本件事故と相当因果関係があり、その程度は、自動車損害賠償保障法施行令2条別表の後遺障害等級第12級12号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当するというべきである。そして、これが自律神経系の障害であること、心因的な要因も関わっていることからすると、将来の緩解可能性も考えられないではないが、他方で、症状固定時から2年以上経過した時点においても、症状固定時と変化のない状態であることなどの事情を考慮すると、原告は、症状固定時(44歳)から10年間にわたり、労働能力を喪失したと認めるのが相当である。

2 被告の反論の検討
 被告は、原告の診察及び検査結果のうち、他覚所見である軽度の脊柱管の狭窄及び第7頸椎の血管腫の疑いは、前者が加齢変化であり、後者は本件事故との関連が極めて少ない。結局、原告の症状は自覚症状のみであるといえるから、残存した症 状は後遺障害とは認められないと主張する。
 1で認定した事実によれば、被告が指摘する軽度の脊柱管の狭窄及び第7頸椎の血管腫の疑いについては、右のとおり評価することはできる(ただし、軽度の脊柱管狭窄は、加齢変化の可能性があるにとどまる。)。しかし、これは、明確な神経根症状の存在を裏付けられないというにとどまるもので、自律神経系の症状と本件事故との因果関係を否定する理由にはならない。また、原告の主訴の内容は、自律神経系の障害を裏付けるものといえるし、そもそも、そのような障害は、画像所見などで確認することはできないと思われるから、そのような他覚所見がないことは、後遺障害を否定する理由にはならない。
 したがって、被告の主張は理由がない。

三 寄与度減額の適否(争点3)
(一) 被告の主張
 被告は、後遺障害が認められるとしても、それには、原告の不安緊張状態等の心因症状が寄与しているから、それを寄与度として損害額の算定において、減額考慮されるべきであると主張する(この主張は、後遺障害のみならず、治療経過全体に対する主張と理解することができる。)。

(二) 裁判所の判断
 原告は、頭痛や吐き気などの症状が緩解してくると、眼科の症状が発症し、それが緩解してくると、再び、頸部痛などの症状が悪化してくるなど、その症状は、一進一退を繰り返しながら全体として緩解するどころかむしろ悪化してきたといえるほどであり、外傷における通常の回復経過を辿っているとは言い難い。また、治療期間は、症状固定時まででも約1年9か月に及んでおり、被害車両と加害車両の破損状況や、事故直後の診断からすると、治療が遷延化していることは否定できない。

 これらの事情に加えて、原告が、精神神経科において、不安緊張状態である旨の診断を受けたこと、金医師も心因症状を肯定していることを併せて考えると、原告の症状は、バレー・ルー症候群による本来の症状に加え、原告の心因的要因が重なって、より深刻な状態になったと認められ、心因的要因が寄与した割合は30%とするのが相当である。

 したがって、民法722条2項を類推適用し、原告の損害額を、右の寄与割合に従って減殺するのが相当であるから、被告の主張はその限度で理由がある。


(三) 原告の反論の検討
 原告は、不安緊張状態も頸椎捻挫によるもので、後遺症のひとつであるから、これも、すべて本件事故に基づくものであるとして、寄与度減額を否定すべきであると主張する。
 右(2)の判断は、もとより、原告の不安緊張状態と本件事故との相当因果関係を否定するものではないが、こうした負傷をした者がすべてこのような状態に陥るとはいえないから、損害の公平な分担の見地からは、それによる症状のすべてを加害者が負担するのは相当とはいえない。
 したがって、原告の主張は理由がない。

四 原告の損害額(争点4)
1 治療費(請求額44万2585円) 27万7915円


     (中略)



3 休業損害(請求額640万円) 607万5616円
 原告は、本件事故当時、有限会社丸榮堂において、少なくとも、月額40万円(年間480万円)を下らない収入を得ていたところ、平成7年8月から平成9年2月までの19か月間のうち、16か月間(失業手当を受けた平成7年12月から平成8年2月までを除く)の収入を得ることができなかったと主張する。

 証拠(略)によれば、原告は、本件事故当時、有限会社丸榮堂において、少なくとも、月額40万円(年間480万円)を下らない収入を得ていたことが認められる。また、21で認定した事実によれば、原告は、平成7年8月1日以降、症状固定日である平成9年2月4日までの553日間は、働くことは困難な状態にあったといえいるから、原告が主張する16か月間のうち462日間(右の554日間から、平成7年12月1日から平成8年2月末日までの91日間を差し引いた日数)は100%労働能力の制限を受けたということができる。
 したがって、これを前提に原告の休業損害を算定すると、607万5616円(1円未満切り捨て)となる。
 480万円×462/365=607万5616円

4 逸失利益(請求額1011万0240円) 518万8982円
 すでに検討したとおり、原告は、症状固定時から10年間にわたり、14%の労働能力を喪失したということができるから、原告が本件事故当時に得ていた年間480万円の収入を基礎として、ライプニッツ方式(係数7・7217)により年5分の割合による中間利息を控除して、原告の逸失利益を算定すると、518万8982円(1円未満切り捨て)となる。
 480万円×0・14×7・7217=518万8982円

5 慰謝料(請求額500万円) 350万円
 本件事故の態様、原告の通院の経過、後遺障害の内容及び程度など一切の事情を総合すれば、慰謝料としては350万円を相当と認める。

6 寄与度減額(30%)
 原告の心因的要因が損害に寄与した割合は、30%であるから、1ないし5の損害合計額である1508万0923円から、この寄与割合に相当する金額を控除すると、1055万6646円(1円未満切り捨て)となる。
以上:5,338文字

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