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会社従業員死傷交通事故企業損害を全て否認した高裁判決紹介2

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令和 2年 8月22日(土):初稿
○「会社従業員死傷交通事故企業損害を一部認めた地裁判決紹介2」の続きで、その控訴審の昭和54年4月17日東京高裁判決(判時929号77頁)全文を紹介します。

○残念ながら、高裁判決は、企業損害(間接損害)について、全て否認しました。その理由の一つ目は、事業はその従業員が余人をもつて代え難い者であればあるほど、その者の事故に伴ない停滞し困難となる危険が大きいが、その危険の除去は、その危険があるのに継続的に事業をしようとする経営者の責任であり、「企業の従業員としての代替性がないこと」をもつて相当因果関係の存在の一つの判断基準とするのは相当でないこととしました。

○さらに二つ目の理由として、従業員が交通事故により従事できなくなつて生じた損害に対する加害者の予見可能性 経営者が予め対応策を講ずることを怠り、従業員が交通事故で従事できなくなり事業上の損害を生じたとしても、そのような損害は交通事故の加害者において一般に通常予見可能であつたということのできる損害とは認め難いことを上げています。

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主   文
原判決を取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。

事   実
控訴人訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴人訴訟代理人は「本件控訴を棄却する。」旨の判決を求めた。
当事者双方の事実に関する主張及び証拠関係は次に附加するほか原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。但し、「原告」とあるのを「被控訴人」と、「被告」とあるのを「控訴人」と読み替えるものとする。

一 被控訴人の主張
 本件事故と被控訴人の営業上の損害との間には相当因果関係がある。すなわち、
1 本件のような間接被害者の場合の相当因果関係は「被害者に企業の従業員としての代替性がなく、被害者と雇主とが経済的に一体をなす関係があること」がその判断基準とされるべきであり、本件において、被控訴人の営業上の損害と従業員であるAの受けた本件事故との間には相当因果関係がある。もし、これが否定されれば被控訴人のような特殊な事業形態を営む零細業者の損害は全く救済されない結果となり、公平に反する。ところで、被控訴人がAを雇用したのは昭和25年でそれ以来淡路島担当地区の配置販売に従事していたので、その業務に高度に熟練しており、余人をもつて代え難い従業員であつた。

2 そうではないとしても、最高裁昭和43年11月15日判決(【註】本類(214)499の1883頁に掲載)の示した相当因果関係の判断基準に従つても、本件では右判断基準を充足し相当因果関係が存在する。

3 被控訴人は、Aの後任として昭和51年2月5日から臨時にBを雇用し配置販売に従事させたが、同人には、それまで同種の経験が全くなく、Aが2か月でできたであろう業務を5か月も要して漸くすることができた程であり、また、昭和52年1月25日からはあらためて従業員CをAの旧担当地区に配置換したが同人も不馴れなため同年7月8日になつてようやくAと同程度の業務ができるようになつたにすぎないのである。

二 控訴人の主張
 本件事故と被控訴人主張の営業上の損害との間には相当因果関係がない。すなわち、
1 相当因果関係の判断基準として「余人をもつて代え難い従業員であること」を挙げると、有名な歌手を交通事故で負傷させ出演不能とした場合不法行為者が歌手の損害ばかりでなく、歌手とすでに出演契約した劇場経営者に対して、その出演により得られた筈の営業利益についてまで事故と相当因果関係にある損害であるとしてその賠償を命ずることともなり、かくしては加害者にその予測をはるかに越えた莫大な金額の賠償を強いることになり加害者に苛酷な結果となり、著しく法における常識に反するから、右判断基準は相当ではない。

 仮に右判断基準を肯定したとしても、Aは昭和49年から初めて淡路島地区を担当したものであつて配置販売員としてその業務に熟達していたものとはいえず、したがつて、Aは余人をもつて代え難い従業員ではなかつたものである。

2 最高裁昭和43年11月15日判決は間接被害者からの損害賠償の一場合につきこれを肯定したが、その判断基準として、(1)機関としての代替性がないこと、(2)経済的に一体をなしていることを判示しているが、本件ではそのいずれの点においてもこれに該当する事実はない。まず、(1)被控訴人は個人企業として医薬品の配置販売業を営み、Aは同人との雇傭契約に基づき雇用された従業員であつて、代表者と会社というような同一方向への包摂的関係ではなく雇傭関係上の反対方向への対立的関係にあり、二個の人格が形式的にも実質的にも独立して存在しており、機関としての代替性がないものではなく、また、(2)経済的にもそれぞれ別異であつて決して一体ではない。したがつて、右判例に従つても、本件事故と被控訴人の営業上の損害とは相当因果関係がない。

3 被控訴人主張3の事実は争う。
《証拠関係略》

理   由
一 被控訴人の請求原因1、2(本件事故の発生、控訴人の賠償責任原因)の事実は当事者間に争いがない。

二 被控訴人は、従業員Aが本件事故により、同人の淡路島担当地区における医薬品配置販売業務が約200日間できなかつたため、その間の売上利益金57万9084円に及ぶ営業上の利益を逸失したが、右損害は本件事故と相当因果関係にある旨主張する。

 そこでまず、相当因果関係の点から判断する。
1 《証拠略》を総合すると、次の事実が認められる。

(1)被控訴人は昭和25年から所轄官庁の許可をえその監督の下に、高山薬品商会の商号で個人企業として、淡路島一円において3名、東京において1名の従業員を使用して医薬品の配置販売業を営み、自らも淡路島の一地区を担当して配置販売をしていた。右販売業は、被控訴人及び配置販売員(毎年知事の許可を受ける)が、原則として、毎年1月から3月までと7月から9月までの2回にわたり長期滞在宿泊の上、各人に定められた各担当地域につき、その地域内の顧客先を、自動二輪車に医薬品を積んで戸別訪問し、置薬の調査、点検、使用済の薬代の集金、置薬の補充、新薬配置などを行う。

右業務は、取扱うものが医薬品であつて顧客との間に長期的継続的な信頼関係を基礎とするため、単に右配置業務を行うに止まらず、これを円滑に行うには、配置販売員が根気よく顧客の健康についてはもとより婚姻、就職その他生活全般について誠意をもつて相談にあたることが求められ、各担当地域も広範である上必ず一家の財布を預る者との面接が必要なため顧客の住所、職業、家族構成、代金支払可能な時期、在宅時間、道順の遠近など諸種の事項を考慮の上能率的な最良の方法を考慮決定する必要があり、長年の販売経験で各人特有の販売技術ができていた。そして、Aは、創業以来の配置販売員で、淡路島のうち洲本市の一部、一ノ宮町、沼島などの担当地区内約1200戸の顧客との間には、その親切で誠実な人柄、根気強さから絶大な信頼関係があり、配置販売業務に高度に熟練していた。

(2)Aは被控訴人の従業員であるが、格別被控訴人から包括的代理権を与えられているわけではなく、その集金した代金は、すべて、A個人の金銭と区別して管理し、被控訴人の営業上の収入に計上し、Aは被控訴人から給与(本件事故当時日給金3500円及び若干の手当)の支払を受ていた。

 以上の事実が認められ、これを左右する証拠はない。また、《証拠略》を総合すると、Aは昭和51年10月6日控訴人との間に、Aが本件事故により受けた入院治療約2年その後通院治療を要した足首複雑骨折等の治療費、休業補償、慰藉料など損害賠償として金1038万1922円の支払を受ける旨約定し、同年同月同日までにその金額が支払われたことが認められる。


(一)事業の経営者は、通常、事業に従事する者が不時の災害を受けても営業に支障を生じないようあらかじめ担当者の配置換、あるいは後任者の養成など種々対応策を講じておくべきであり、その事業または従業員の職種が特殊の高度な専門的知識や長年の経験を要する場合において、経営者がその従業員により継続的な営業を維持しようとするときは、なおさら右の要請は強いといえるのであり、事業はその従業員が余人をもつて代え難い者であればある程その者の事故に伴ない停滞し、あるいは困難となる危険が大きいが、その危険の除去は、その危険があるのにそのような継続的事業をしようとする経営者の責任であるというべきである。したがつて、本件において、「企業の従業員としての代替性がないこと」をもつて相当因果関係存在の一つの判断基準とするのは相当ではない。

また、経営者がこの点につき万全の方策を講ずるかぎり、従業員が事故により事業に従事できなくなつても、右方策に従い直ちに他の者を補充し事業に支障を生じさせないことができるから、経営者がその対応策を講ずることを怠り、従業員が交通事故で従事できなくなり事業上の損害を生じたとしても、そのような損害は交通事故の加害者において一般に通常予見可能であつたということのできる損害とは認め難いといわなければならない。したがつて被控訴人の主張する営業上の損害は、一般の社会通念からみれば、他に特段の事情の認められない限り、本件Aの受傷事故から通常生ずべき損害とは認められないというべきである。


(二)そこで、本件において、特段の事情があるかについて検討する。
(1)前記1認定の事実によると,Aが淡路島担当地区の医薬品配置販売員として高度に熟練した販売技術を有しており、本件事故当時に直ちに同等の能力を有する後任者の補充は事実上困難であつたとはいえるけれども、Aと被控訴人とは別個の自然人で形式上も実質上も別個の人格を有するものであるのみならず、前記1認定の事実によると、Aは被控訴人と別個の経済生活を有し、営業に関しても、その収入を峻別していて混同しておらず、Aの休業補償と被控訴人の営業上の損害とはその性質、内容はもとより実質上の帰属主体をも異にするものであつて、Aと被控訴人との間には経済的一体性を肯認することもできない。

(2)さらに、本件事故の損害賠償としてAはすでに控訴人から金1038万1922円を受領しその間の紛争は解決ずみであること前記認定のとおりであり、控訴人としては本件事故による損害賠償としては十分にその責任を果しているものというべきであり、被控訴人の営業上の損害についてその賠償義務を否定しても、前記各説示の点からみて、公平に反するものとすることはできず、他に被控訴人の営業上の損失を賠償させるべきであるとするような特段の事情も存在しない。

三 よつて、被控訴人の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当として棄却を免れないところ、これと異なる原判決は失当で本件控訴は理由があるから、原判決は取消を免れず、訴訟費用の負担につき民訴法96条89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 安藤覚 裁判官 石川義夫) 裁判官高木積夫は転任につき署名押印することができない。(裁判長裁判官 安藤覚)

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