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平成21年3月24日最高裁第三小法廷判決全文

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平成21年 8月 4日(火):初稿
「遺留分を侵害された相続人と相続債務の扱い」で、相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合,
①特段の事情のない限り,当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示され、相続人間では指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになると解するのが相当であり、
②相続人の1人が相続債務もすべて承継したと解される場合,遺留分の侵害額の算定においては,遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されない
とする最高裁判例を紹介しました。

○この最高判例は、相続債務の帰属と遺留分の関係の基本について、
①相続債務は、各相続人に法定相続分に従って分割承継され
②相続人間では,指定相続分の割合に応じて相続債務を承継し、
③相続債権者は相続債務についての相続分の指定の効力を承認し,各相続人に対し,指定相続分に応じた相続債務の履行を請求するが出来る
④しかし指定の効力を承認せず、法定相続分に応じた債務の履行も請求でき、遺留分権利者が相続債権者に法定相続分に応じた相続債務を支払った場合は、求償の問題で遺留分金額には無関係

との相続債務と遺留分侵害の場合の基本的法律関係を判断したもので相続実務上大変重要です全文を紹介します。

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平19(受)1548号持分権移転登記手続請求事件

主文

 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。 
 
理由
 上告代理人○○,同○○の上告受理申立て理由について

1 本件は,相続人の1人が,被相続人からその財産全部を相続させる趣旨の遺言に基づきこれを相続した他の相続人に対し,遺留分減殺請求権を行使したとして,相続財産である不動産について所有権の一部移転登記手続を求める事案である。遺留分の侵害額の算定に当たり,被相続人が負っていた金銭債務の法定相続分に相当する額を遺留分権利者が負担すべき相続債務の額として遺留分の額に加算すべきかどうかが争われている。

2 原審が適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) Aは,平成15年7月23日,Aの有する財産全部を被上告人に相続させる旨の公正証書遺言(以下「本件遺言」という。)をした。本件遺言は,被上告人の相続分を全部と指定し,その遺産分割の方法の指定として遺産全部の権利を被上告人に移転する内容を定めたものである。

(2) Aは,同年▲月▲日に死亡した。同人の法定相続人は,子である上告人と被上告人である。

(3) Aは,相続開始時において,第1審判決別紙物件目録記載の不動産を含む積極財産として4億3231万7003円,消極財産として4億2483万2503円の各財産を有していた。本件遺言により,遺産全部の権利が相続開始時に直ちに被上告人に承継された。

(4) 上告人は,被上告人に対し,平成16年4月4日,遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした。

(5) 被上告人は,同年5月17日,前記不動産につき,平成15年▲月▲日相続を原因として,Aからの所有権移転登記を了した。

(6) 上告人は,Aの消極財産のうち可分債務については法定相続分に応じて当然に分割され,その2分の1を上告人が負担することになるから,上告人の遺留分の侵害額の算定においては,積極財産4億3231万7003円から消極財産4億2483万2503円を差し引いた748万4500円の4分の1である187万1125円に,相続債務の2分の1に相当する2億1241万6252円を加算しなければならず,この算定方法によると,上記侵害額は2億1428万7377円になると主張している。

 これに対し,被上告人は,本件遺言により被上告人が相続債務をすべて負担することになるから,上告人の遺留分の侵害額の算定において遺留分の額に相続債務の額を加算することは許されず,上記侵害額は,積極財産から消極財産を差し引いた748万4500円の4分の1である187万1125円になると主張している。

3(1)本件のように,相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合,遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り,当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきであり,これにより,相続人間においては,当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになると解するのが相当である。

もっとも,上記遺言による相続債務についての相続分の指定は,相続債務の債権者(以下「相続債権者」という。)の関与なくされたものであるから,相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当であり,各相続人は,相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには,これに応じなければならず,指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張することはできないが,相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し,各相続人に対し,指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられないというべきである。

 そして,遺留分の侵害額は,確定された遺留分算定の基礎となる財産額に民法1028条所定の遺留分の割合を乗じるなどして算定された遺留分の額から,遺留分権利者が相続によって得た財産の額を控除し,同人が負担すべき相続債務の額を加算して算定すべきものであり(最高裁平成5年(オ)第947号同8年11月26日第三小法廷判決・民集50巻10号2747頁参照),その算定は,相続人間において,遺留分権利者の手元に最終的に取り戻すべき遺産の数額を算出するものというべきである。

 したがって,相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされ,当該相続人が相続債務もすべて承継したと解される場合,遺留分の侵害額の算定においては,遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されないものと解するのが相当である。

 遺留分権利者が相続債権者から相続債務について法定相続分に応じた履行を求められ,これに応じた場合も,履行した相続債務の額を遺留分の額に加算することはできず,相続債務をすべて承継した相続人に対して求償し得るにとどまるものというべきである。

(2)これを本件についてみると,本件遺言の趣旨等からAの負っていた相続債務については被上告人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情はうかがわれないから,本件遺言により,上告人と被上告人との間では,上記相続債務は指定相続分に応じてすべて被上告人に承継され,上告人はこれを承継していないというべきである。そうすると,上告人の遺留分の侵害額の算定において,遺留分の額に加算すべき相続債務の額は存在しないことになる。

4 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 堀籠幸男 裁判官 藤田宙靖 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫 裁判官 近藤崇晴) 
以上:3,007文字

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