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遺言書としては無効としても死因贈与契約成立を認めた高裁判決紹介

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令和 2年 2月25日(火):初稿
○「遺言書としては無効としても死因贈与契約成立を認めた地裁判決紹介2」の続きで、その控訴審である平成15年7月9日広島高裁判決(判決裁判所ウェブサイト)を紹介します。

○広島高裁判決も、遺言書が方式違背により遺言としては無効な場合でも、死因贈与の意思表示の趣旨を含むと認められるときは、無効行為の転換として死因贈与の意思表示があったものと認められ、相手方のこれに対する承諾の事実が認められるときは、死因贈与の成立が肯定されるとしました。

○さらに、遺贈と死因贈与とは法的事実を異にするから、遺贈の根拠となった遺言書によって死因贈与のあったことが認められる場合であっても、死因贈与に対する遺留分減殺請求権の消滅時効の起算点は、遺言のあったことを知った時ではなく、死因贈与があったことを知った時であると解するのが相当であり、Yらは本件遺言書をXに開示して以降本件反訴に至るまで終始遺贈を主張し、本件反訴状によって初めて死因贈与を主張するに至ったのであり、この点からすれば、Xは、本件反訴状の送達を受けた時に、死因贈与があったことを知ったというべきであるとしました。

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主    文
1 原審原告の控訴を棄却する。
2 原判決主文第2項ないし第4項を次のとおり変更する。
(1) 原審被告らの主位的請求をいずれも棄却する。
(2) 原審原告は,原審被告Bに対し,原判決別紙物件目録1記載の不動産の各6分の1の持分について,平成11年1月29日贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
(3) 原審原告は,原審被告Cに対し,原判決別紙物件目録2記載の番号1ないし4の不動産の各6分の1の持分について,平成11年1月29日贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
(4) 原審原告と原審被告Cとの間で,原審被告Cが別紙物件目録2記載の番号5の不動産について,6分の5の持分権を有することを確認する。
(5) 原審被告らのその余の予備的請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第1,第2審を通じ,本訴,反訴を含めて3分し,その2を原審原告の負担とし,その余を原審被告らの負担とする。 

事実及び理由
第1 控訴の趣旨

1 原審原告
(1) 原判決中原審原告敗訴部分を取り消す。
(2) 原審被告Bの請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,第2審とも原審被告Bの負担とする。

2 原審被告ら
(1) 原判決主文第2ないし第4項を次のとおり変更する。
(主位的請求)
ア 原審原告と原審被告Bとの間で,原審被告Bが原判決別紙物件目録1記載の各不動産について所有権を有することを確認する。
イ 原審原告と原審被告Cとの間で,原審被告Cが原判決別紙物件目録2記載の各不動産について所有権を有することを確認する。

(予備的請求)
ア 原審原告は,原審被告Bに対し,原判決別紙物件目録1記載の不動産の各3分の1の持分についてそれぞれ平成11年1月29日贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
イ 原審原告は,原審被告Cに対し,原判決別紙物件目録2記載の番号1ないし4の各不動産の各3分の1の持分についてそれぞれ平成11年1月29日贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
ウ 原審原告と原審被告Cとの間で,原審被告Cが別紙物件目録2記載の番号5の不動産について所有権を有することを確認する。

(2) 訴訟費用は,第1,第2審とも原審原告の負担とする。

第2 事案の概要
1 事案の概要
は,次項に原判決を補正し,第3項に当審における当事者の主張を補充するほかは,原判決「第2 事案の概要」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。

2 原判決の補正
 3頁6行目の後に行を改め次を加える。
 「 原審は,遺言が無効であるとして原審原告の本訴請求を認容し,原審被告らの反訴請求のうち,遺言が有効であることを前提とする主位的請求をいずれも棄却し,死因贈与を受けたとする予備的請求のうち,原審被告Bについては死因贈与を認めた上で遺留分減殺請求の抗弁を認めて請求を一部認容し,原審被告Cについては死因贈与は認められないとして請求を全て棄却した。
 原審原告及び原審被告らの双方が控訴した。」

3 当審における当事者の主張
(1) 原審原告
ア 平成10年12月1日から5日の間及び平成11年1月17日に死因贈与がされた事実はない。

イ 契約,特に不動産のような重要な財産の取引については書面を作成するのが通例であるのに,本件においてはこれが作成されていない。また,原審被告らの主張は,契約締結時期が極めて曖昧である。これらの事実からしても,契約の締結があったとは認められない。

ウ 本件遺言の無効を認めながら,同遺言をもって死因贈与を認めることは,遺言について厳格な要件を定めている遺言制度の存在を無意義にするものであり不合理である。

エ 本件遺言の「遺言申立人」欄には「D」と書かれているだけで,「E」という氏が記載されていない。遺言書の記載内容は相当複雑なものであるから,自分の氏も記載できない状態にある者がこのような複雑な内容を十分理解して贈与契約を締結したというのは不合理である。

(2) 原審被告ら
ア 死因贈与について
(ア) 亡Dは,原審被告らとの間で,それぞれ平成10年12月1日から5日ころ,又は,平成11年1月17日に,本件遺言の内容のとおりの死因贈与をした。

(イ) 亡Dは,本件遺言をする以前から,原審被告らに対して本件遺言の内容のとおり財産を譲渡する旨表明しており,原審被告らはこれを承諾していたが,本件遺言に際しても,原審被告Bは本件遺言に署名捺印することによりこれを承諾したものであり,原審被告Cについても,本件遺言の内容を聴取したFにおいて,原審被告Cの取得分に関して,原審被告Bの子供が農業を継ぐときには原審被告Cはそれを放棄してくれる旨を亡Dに告げて,原審被告Cに対する贈与を承諾する趣旨を表明し,後にこの話を聞いた原審被告CがFの言を追認したものであり,いずれも死因贈与の承諾をしている。

(ウ) 亡Dは,平成10年12月7日の入院の直前に,原審被告らに対して遺産を取得させる旨伝え,原審被告らはこれに同意していたものであり,その時期は明らかであるのみならず,取得する内容も本件遺言の内容のとおり明確であった。
 また,贈与をしたものについても遺言書に記載することはしばしばあることであり,遺言書を作成したことをもって死因贈与がされなかったことの根拠とはなし得ない。

(エ) 亡Dが,その遺産である不動産を原審被告らに受け継がせる意思であったことは明らかであり,原審被告Cについて贈与を否定するのは不合理である。

イ 遺留分減殺請求について
 平成11年1月29日に亡Dが死亡した翌日には遺言の存在が明らかにされ,その後遺言の検認,確認がされ,遺産の分配に関する亡Dの考えが明らかにされた。したがって,原審原告は,平成11年1月29日以降は遺留分減殺請求をすることができたものである。これは,遺言が有効なものであるか,死因贈与が存在するかによっては左右されるものではない。

第3 当裁判所の判断
1 次項に原判決を補正するほかは,原判決「第3 争点に対する判断」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。

2 原判決の補正
(1) 8頁15行目「Fの」を「Fに」と改める。
(2) 8頁24行から12頁5行までを次のとおり改める。
「2 死因贈与の有無について
(1) 平成11年1月17日の経過についてみると,証拠(乙7,原審被告ら各本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 亡Dは,原審被告Bに指示して,実弟Fを病院に呼び寄せ,平成11年1月17日,来院したFに対し,「俺はもうだめだ。遺言を頼む。」と訴えた。
 そこで,Fは,亡Dの言うことをメモに書き取り,これを取りまとめて本件遺言書を作成した。その内容は,不動産については,原判決の別紙物件目録(以下「目録」という。)1記載の各不動産を原審被告Bに取得させ,目録2記載の各不動産を原審被告Cに取得させるというもので,保険金等すべての現金は,農協等の借入金を返済し,葬祭費用を支払った後,残額を原審被告らに2分の1ずつ取得させるというものであった。
 上記作成後,Fは,亡Dに署名,押印をするよう促した。亡Dは,衰弱していたものの,力を振りしぼって署名をし,日付を書き込んだ。
 その場には,Fの妻Gはいたが,原審被告Bはいなかった。

イ その後,Fは,病室に原審被告Bを呼び入れ,亡D,原審被告B及びGの面前で,本件遺言書の内容を読み聞かせて確認させ,原審被告B及びGに立会人として署名を求めた。その場で,原審被告B及びGは,本件遺言書の内容を了解し,これに署名した。その後,Fは,看護婦及び医師の署名を得た。

ウ Fは,本件遺言書作成後,亡Dに対し,「Cの相続分については,少ない財産を一時的に小分けすることになるが,Bの子供の一人が農業を受け継ぐことになれば,Cも喜んで放棄してくれるから,財産は元どおりになると思う。」と話したところ,亡Dは涙ながらに頷いた。

エ Fは,同病院内において,原審被告Cに本件遺言書の内容を説明した。同説明を受けた原審被告Cは,不平を言うことはなく,「原審被告Bの子供の一人が農業を継いでくれることを心から望んでおり,それが実現したときは,相続した田畑をその子供に譲る。」旨述べた上,病室を訪れて亡Dを見舞ったが,本件遺言書の内容について特段の不服も述べなかった。

オ 原審被告らは,本件遺言書作成後も,亡Dの付添や見舞いをしていたが,その際,亡Dは,原審被告Bに対し,「おばあちゃんを頼む。おばあちゃんの世話をしてくれる原審被告らに財産を残しておく。」旨言っていた。

(2) ところで,死因贈与は,遺贈と同様に死亡が効力発生要件とされているため,遺贈に関する規定が準用されるが(民法554条),死因贈与の方式については遺贈に関する規定の準用はないものと解される(最判昭和32年5月21日民集11巻5号732頁参照)。したがって,遺言書が方式違背により遺言としては無効な場合でも,死因贈与の意思表示の趣旨を含むと認められるときは,無効行為の転換として死因贈与の意思表示があったものと認められ,相手方のこれに対する承諾の事実が認められるときは,死因贈与の成立が肯定されると解せられる。

 これを本件についてみると,前記認定のとおり,亡Dは,死期が迫っていることを悟り,死後自己所有の財産を,敢えて養子である原審原告を除外して,実子である原審被告らに取得させようと考え,本件遺言書を作成したのであり,その目的は,専ら,死亡時に所有財産を原審被告らに取得させるという点にあったこと,遺言という形式によったのは,法的知識に乏しい亡Dが遺言による方法しか思い付かなかったからであり,その形式にこだわる理由はなかったこと,そのため結局遺言としては無効な書面を作成するに至ったこと,亡Dは,本件遺言書の作成当日,Fを介し,受贈者である原審被告らにその内容を開示していること等の点にかんがみれば,本件遺言書は死因贈与の意思表示を含むものと認めるのが相当である。

 そして,前記認定のとおり,原審被告Bは,本件遺言書作成には立ち会ってはいなかったものの,その直後に亡Dの面前でその内容を読み聞かされ,これを了解して本件遺言書に署名をしたのであるから,このときに亡Dと原審被告Bとの間の死因贈与契約が成立したといえる。また,原審被告Cは,本件遺言書に署名することはなかったものの,本件遺言書作成日に,病院内で,Fから本件遺言書の内容の説明を受け,これに異議はない旨述べた上,亡Dを見舞い,その際にも本件遺言書の内容に異議を述べることもしなかったのであるから,亡Dに対し,贈与を受けることを少なくとも黙示に承諾したものというべきであり,このときに,亡Dと原審被告Cとの間の死因贈与契約が成立したといえる。

 以上によれば,原審被告ら主張の平成11年1月17日付死因贈与契約の成立が認められる。

3 遺留分減殺請求権の消滅時効について
 証拠(甲8,原審原告及び原審被告B各本人)及び弁論の全趣旨によれば,Fは,平成11年1月30日,亡Dの葬儀がほぼ終わり,弔問客が帰った後,原審原告,原審被告ら,親族のいる場において,本件遺言書を読み上げたこと,その場で原審原告は本件遺言書を渡され,これを手に取って読んだこと,原審原告は,遺留分があるとの法的知識を有していなかったため,本件遺言書に異議を述べることはしなかったが,平成11年6月15日,本件遺言書の検認手続がなされた際,家庭裁判所職員から遺留分の制度について説明を受け,これを理解するに至ったこと,原審原告は,原審被告らに対し,平成12年5月26日ころ到達の書留郵便で,遺留分減殺の意思表示をしたことが認められる。また,原審被告らが,平成13年6月4日送達の本件反訴状によって,予備的請求の原因として,本件遺言書による死因贈与を主張するに至ったこと,これに対し,原審原告が,同年8月27日の原審弁論準備手続期日において,本件遺言書による死因贈与について,遺留分減殺の意思表示をしたことは記録上明らかである。

 ところで,原判決も説示しているとおり,遺贈と死因贈与とは法的事実を異にするから,本件のように遺贈の根拠となった遺言書によって死因贈与のあったことが認められる場合であっても,死因贈与に対する遺留分減殺請求権の消滅時効の起算点は,遺言のあったことを知った時ではなく,死因贈与があったことを知った時であると解するのが相当である。そして,原審被告らは本件遺言書を原審原告に開示して以降本件反訴に至るまで終始遺贈を主張し,本件反訴状によって初めて死因贈与を主張するに至ったのであり,この点からすれば,原審原告は,本件反訴状の送達を受けた時に,死因贈与があったことを知ったというべきである。

 そうすると,原審原告は消滅時効完成前に遺留分減殺請求権を行使したことは明らかであるから,この点に関する原審被告らの主張は採用できない。」

3 以上によれば,原審原告の控訴は理由がなく,原審被告らの反訴請求のうち主位的請求は理由がなく,予備的請求は主文第2項の(2)ないし(4)の限度で理由があり,その余はいずれも理由がないから,これと一部異なる原判決を変更することとし,訴訟費用の負担につき民訴法67条2項,65条1項本文,64条,61条を適用して,主文のとおり判決する。(裁判長裁判官 下司正明 裁判官 能勢顯男 裁判官 齋藤憲次) 
以上:6,015文字

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