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全文・日付・氏名を自署指印した郵便葉書を遺言無効とした地裁判決紹介

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令和 2年 6月10日(水):初稿
○判例時報令和2年6月1日号に掲載された郵便はがきに、全文、日付及び氏名を自署指印して作成された上、郵送された当該郵便はがきについて、東京家裁で自筆証書遺言として検認手続までしましたが、遺言としての効力を認めなかった平成31年2月8日東京地裁判決(判時2440号69頁)全文を紹介します。郵便葉書記載文書を遺言書と主張した例は初めて見ました。

○判決は、被相続人が、「DはマンションはCにやりたいと思っている。自宅はBがもらってはどうですか。」などと記載した葉書を郵送し、これを受け取った相続人が、この葉書を自筆証書遺言として東京家裁で検認手続までしていましたが、Dの財産の処分につき確定的な意思が示されているとはいい難く、「遺言」,「相続」等,死後における財産の処分であることを示す文言もないことから、遺言としての効果を生じさせる意思があったとは認められないとしています。「思っている」だけでは、確定意思とは認められないようです。


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主   文
1 亡Dが平成24年2月2日付けで作成した別紙〔1〕記載の自筆証書遺言は無効であることを確認する。
2 亡Dが平成14年10月10日付けで作成した別紙〔2〕記載の自筆証書遺言は有効であることを確認する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 主文同旨

第2 事案の概要
 本件は,亡D(昭和3年○○月○日生。以下「D」という。)の相続人である原告らが,共同被相続人である被告に対し,Dが平成24年2月2日付けで作成した別紙〔1〕の文書(郵便はがきの表面と裏面。以下「本件24年文書」という。)は自筆証書遺言として無効であることの確認を求めるとともに,Dが平成14年10月10日付けで作成した別紙〔2〕の文書(以下「本件14年文書」という。)は自筆証書遺言として有効であることの確認を求めた事案である。

1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)原告A(以下「原告A」という。)は,昭和26年5月10日にDと婚姻し,長女である原告B(以下「原告B」という。)及び二女である被告をもうけた。(甲2)
(2)Dは,原稿用紙を用いて,平成14年10月10日付で本件14年文書を作成した。(甲4)
(3)Dは,郵便はがきを用いて,平成24年2月2日付で本件24年文書を作成した。(甲3)
(4)Dは平成28年4月25日に死亡し,相続が開始した。Dの相続人は,原告A,原告B及び被告の3名である。(甲1,2)
(5)Dは,死亡時,別紙〔3〕物件目録記載1ないし3の各不動産(以下,併せて「本件各不動産」という。)を所有していた。なお,同目録記載1の主地上には,同目録記載3の建物(以下「本件マンション」という。)が建っており,同目録記載2の土地上には,原告A,原告B及び同人の夫が共有・居住する建物(以下「原告ら自宅建物」という。)が建っている。(甲5ないし8)
(6)本件14年文書につき,平成29年3月10日,原告Aの申立てに基づき,東京家庭裁判所において検認手続が実施された。また,本件24年文書につき,同年5月10日,被告の申立てに基づき,東京家庭裁判所において検認手続が実施された。(甲12,14)

2 争点
(1)本件24年文書は自筆証書遺言として有効か。
(2)本件14年文書は自筆証書遺言として有効か。

3 争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(本件24年文書は自筆証書遺言として有効か)について
【被告の主張】
 本件24年文書は,民法968条1項に定める自筆証書遺言の要件を全て満たしている。また,本件24年文書には,Dの財産である本件マンションを被告に相続させる旨が明確に記載されている。さらに,本件24年文書は,Dが被告に送付した他の手紙とは異なる形式で作成されているから,Dは,自筆証書遺言を行うことを明確に意図して本件24年文書を作成したと推認される。
 したがって,本件24年文書は自筆証書遺言として有効である。

【原告の主張】
 本件24年文書は,その記載内容からすれば,Dの財産である本件マンションとDの財産ではない自宅建物の処理について,Dの考えている方向性を示しつつ,提案又は相談するものにすぎず,自己の財産を相続させる旨の確定した最終的意思を表示したものではない。
 したがって,本件24年文書は自筆証書遺言として無効である。

(2)争点(2)(本件14年文書は自筆証書遺言として有効か)について
【原告の主張】
 本件14年文書の記載全体及び本件14年文書が作成された当時の事情やDの置かれた状況等からすれば,本件14年文書は,Dが本件各不動産を原告Aに相続させる意思を表示したものというべきである。また,本件14年文書の作成からDの死亡までの間,Dにより本件14年文書の内容が撤回されたり,本件14年文書と抵触する内容の遺言が作成されたりした事実はない。さらに,本件14年文書には,「Dの所有する不動産」を対象とする旨の記載がある上,末尾に記載された「東京都大田区α××号×」は本件マンション及び原告ら自宅建物の住居表示を示すものであるから,地番や家屋番号等による特定がなくても,対象不動産としての特定は十分である。
 したがって,本件14年文書は自筆証書遺言として有効である。

【被告の主張】
 本件14年文書には,「不動産の相続は,夫のEにすべてまかせます。」と記載されていることからすれば,本件14年文書は,Dが,原告Aに対し,本件各不動産の遺産分割手続を中心となって行うよう委ねる趣旨で作成したものというべきであり、Dが本件各不動産を原告Aに遺贈する意思を表示したものということはできない。また,本件14年文書は,Dが死亡する約14年も前に作成されたものであるところ,Dは,本件14年文書の作成から死亡するまでの間,被告及び被告の夫を一番かわいいと思うようになるなどして,相続に関する考えを大きく変化させているから,本件14年文書がDの相続に関する確定した最終的意思を表示したものとはいえない。さらに,Dは複数の不動産を所有しているにもかかわらず,本件14年文書には対象不動産として「東京都大田区α××号×」とのみ記載されており,地番や家屋番号等により特定されていないから,本件14年文書は内容の確定性を欠く。
 したがって,本件14年文書は自筆証書遺言として無効である。 

第3 争点に対する判断
1 争点〔1〕(本件24年文書は自筆証書遺言として有効か)について

 証拠(甲3,14)及び弁論の全趣旨によれば,本件24年文書は,Dがその全文,日付及び氏名を自署し,これに指印することで作成されたものと認められる。
 しかしながら,証拠(甲3,14)及び弁論の全趣旨によれば,本件24年文書は,郵便はがきを用いて作成されたものであり,表面に被告の住所と氏名が記載された上,被告に郵送されていることが認められることからすれば,Dは,被告への私信として本件24年文書を作成したものと見るのが自然かつ合理的である。

また,その内容をみると,裏面の本文として,「DはマンションはCにやりたいと思っている。自宅はBがもらってはどうですか。」などと記載されているにすぎず,Dの財産の処分につき確定的な意思が示されているとはいい難い。加えて,本件24年文書には,「遺言」,「相続」等,死後における財産の処分であることを示す文言もない。こうした本件24年文書の体裁,取扱い及び記載内容等を総合考慮すれば,Dにおいて,本件24年文書の作成により自筆証書遺言としての効果を生じさせる意思を有していたと認めることはできない。
 したがって,本件24年文書は自筆証書遺言としての効力を有しない。


2 争点〔2〕(本件14年文書は自筆証書遺言として有効か)について
(1)証拠(甲4,12)及び弁論の全趣旨によれば,本件14年文書は,「遺言状」との表題の下,Dがその全文,日付及び氏名を自署し,これに指印することで作成したものと認められるから,自筆証書遺言としての要件を具備している。
 したがって,本件14年文書は自筆証書遺言として有効といえる。

(2)被告の主張について
ア 被告は,本件14年文書は,原告Aに本件各不動産の遺産分割手続を中心となって行うよう委ねる趣旨で作成されたものにすぎない旨主張する。
 しかしながら,原告Aは共同相続人の1人であり,原告Aに対して遺産分割手続を中心となって行うよう委ねるためだけに,「遺言状」との表題の文書を作成する意義は乏しい。仮に,被告の主張のとおり解釈すると,原告Bと被告の各遺留分の侵害が生じないから,本件14年文書の本文の後段部分(「長女Bと二女Cには遺留分として八分の壱1/8づつ遺します」との記載部分)が意味をなさないことになる。

 他方,証拠(甲16)によれば,原告Aが設立した河合建設株式会社は,昭和48年頃,城南信用金庫から融資を受け,本件マンションを建築したものの,同社名義にしておくと,同社が倒産の危機に瀕した際,本件マンションが差押えの対象となって賃料収入を得られなくなるおそれがあり,こうした事態を避けるため,原告AとDが相談の上,本件マンションの所有権の登記名義をDにすることとし,その旨の所有権登記を了した事実が認められる。

かかる事実経緯に照らせば,原告AとDとの間では,本件各不動産は,その登記名義はDにあるものの,実質的には,原告Aが会社経営を通じて築いた財産であるとの共通認識があったことが推察される。以上に加え,本件14年文書の本文の後段部分において,原告Bと被告の各遺留分の侵害が生じることを前提としていることにも照らせば,本件14年文書の本文の前段部分(「右Dの所有する不動産の相続は,夫のEにすべてまかせます。」との記載部分)は,本件各不動産を原告Aに相続させる意思を表示したものと解するのが相当である。
 したがって,上記被告の主張は採用できない。

イ 被告は,本件14年文書は,死亡するまでの間に相続に関する考えを大きく変化させたDの確定した最終的意思を表示したものとはいえない旨主張する。
 しかしながら,仮にDが死亡するまでの間に相続に関する考えを大きく変化させたとしても,それのみでは,自筆証書遺言として有効に成立している本件14年文書の効力に影響を及ぼすことはない。
 したがって,上記被告の主張は採用できない。

ウ 被告は,本件14年文書は,対象不動産を地番や家屋番号等により特定していないから,内容の確定性を欠く旨主張する。
 しかしながら,本件14年文書の末尾には,対象不動産として「東京都大田区α××号×」と記載があるところ,証拠(甲17,18)及び弁論の全趣旨によれば,本件マンションの住居表示及び原告ら自宅建物の住居表示がいずれも東京都大田区α××-×であることが認められることからすれば,本件14年文書は,「Dの所有する不動産」との本文の記載と相まって,本件各不動産を対象としているものと解するのが相当である。
 したがって,本件14年文書は内容の確定性を欠くとはいい難いので,上記被告の主張は採用できない。

第4 結論
 以上によれば,原告らの被告に対する請求はいずれも理由があるから,これらを認容することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第26部 裁判官 森田淳

別紙〔1〕
別紙〔2〕
別紙〔3〕物件目録
1 土地
  所在   大田区α
  地番   ××番××
  地目   宅地
  地積   261.02平方メートル
2 土地
  所在   大田区α
  地番   ××番××
  地目   宅地
  地積   386.47平方メートル
3 建物
  所在   大田区α××番地××
  家屋番号 ××番××の×
  種類   共同住宅,倉庫,車庫
  構造   鉄筋コンクリート造陸屋根5階建
  床面積  1階 123.00平方メートル
       2階 122.41平方メートル
       3階 122.41平方メートル
       4階 107.66平方メートル
       5階  93.54平方メートル

以上:5,019文字

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