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再転相続人(おいの母)としての相続放棄受理申述を受理した高裁決定紹介

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令和 7年 8月23日(土):初稿
○「再転相続人(おいの母)としての相続放棄受理申述を却下した家裁審判紹介」の続きで、その抗告審令和6年7月18日東京高裁決定(判タ1532号75頁・判時2624号39頁)全文を紹介します。

○先ず事案再現です。
被相続人B-Bの兄H = 妻(相続放棄申述人)
                    |
         Hの相続人は妻Cの間の子A、I、D
                       |
             Iの相続人は妻E、子F・G

・平成16年、死亡被相続人Bの相続について、相続人のHは、平成28年に相続の承認又は放棄をしないで死亡
・令和5年4月、再転相続人となったHの妻Cと子A・Dが相続放棄申述受理(①放棄申述)
・令和5年*月、Hの子IがBの相続放棄申述をしないまま死去
・令和5年3月、Iの妻Eと子F・Gは、Bの再転相続人として相続放棄申述受理(②放棄申述)
・令和5年5月、Hの妻Cは、Iの再転相続人として相続放棄申述(③放棄申述)
・令和5年8月、東京家裁立川支部はCの相続放棄申述却下、C即時抗告
・令和5年*月、C死去・子が手続承継


○東京家裁立川支部のCの相続放棄申述却下理由は、B相続人Hの再転相続人妻Cと子A・Dが再転相続放棄申述受理され、Iについてもその相続人妻Eと子F・Gが再転相続放棄申述受理されたことで、Hは始めからBの相続人ではなかったことになり、CがIの相続人になってもBの相続人にはならないとし、一見もっともだと思いました。

○ところが、東京高裁は、相続放棄申述却下は、却下すべきことが明白な場合を除いては,相続放棄の申述を受理するのが相当として、本件で、①放棄申述は、CとしてはHの再転相続人としての放棄申述であり、母として子Iの再転相続人としての放棄申述ではなく、②放棄申述受理の結果、母Cは子Iの再転相続人としての地位が残ると解する余地が残り、却下することが明白な場合に該当しないとして、受理するのが相当として、原審判を取り消し、Cの相続放棄申述を受理しました。

○事案が複雑で判りづらい面がありますが、兎に角、相続放棄申述は、却下すべきことが明白な場合を除いては受理されるべきとの原則を覚えておきます。

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主   文
1 原審判を取り消す。
2 被承継人亡Cの相続放棄の申述を受理する。
3 手続費用は,第1,2審を通じ,抗告人の負担とする。

理   由
第1 事案の概要
(以下,略称は,特記しない限り,原審判の例による。)
1 本件は,被承継人亡C(以下「申述人」という。)が,東京家庭裁判所立川支部に対し,令和5年6月8日に,再転相続人として,被相続人(被相続人B)の相続(第1次相続)について,相続放棄の申述(以下「本件申述」という。)をした事案である。なお,申述人は,同支部に対し,同年3月29日にも再転相続人として第1次相続について相続放棄の申述(以下「別件申述」という。)をしており、別件申述は同年4月19日に受理された。

2 原審は,重ねて相続放棄をする必要は認められないとして,本件申述を却下する審判をし,申述人がこれを不服として即時抗告を提起した。申述人は,即時抗告を提起した後に死亡し,抗告人が手続を受継した。 

3 抗告の趣旨及び理由は,別紙抗告状に記載のとおりである。

第2 当裁判所の判断
1 当裁判所は,本件申述を受理するのが相当であると判断する。その理由は,以下のとおりである。

2 認定事実(一件記録によって認められる事実)
 以下のとおり補正するほかは,原審判2頁7行目から3頁3行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原審判2頁12行目から同頁13行目にかけての「A(以下「A」という。)」を「抗告人」に改める。

(2)原審判2頁17行目の「申述人は」から同頁19行目末尾までを以下のとおり改める。
 「抗告人及びDは,東京家庭裁判所立川支部に対し,令和5年2月23日,再転相続人として,第1次相続について,相続放棄の申述をし,同年3月15日,これらの申述がいずれも受理された(同支部**,**)。」

(3)原審判2頁20行目の「申述人,A及びDとは異なり,」を削る。

(4)原審判2頁24行目の「E,F」から同頁26行目末尾までを以下のとおり改める。
 「E,F及びGは,東京家庭裁判所立川支部に対し,令和5年3月14日までに,再転相続人として,第1次相続について,相続放棄の申述(以下「Eらの申述」と総称する。)をし,同月27日までに,Eらの申述がいずれも受理された(同支部**,**,**)。」

(5)原審判3頁1行目から同頁3行目までを以下のとおり改める。
 「(5)申述人は,東京家庭裁判所立川支部に対し,令和5年3月29日,再転相続人として,第1次相続について,相続放棄の申述(別件申述)をし,同年4月19日,別件申述が受理された(同支部**)。別件申述に係る申述書には,申述人と被相続人Bとの関係について「兄弟の配偶者」と記載されており,別件申述に係る事件記録の表紙には,申述人(申立人)の氏名等として,「相続人亡H再転相続人C」と記載されている。

(6)申述人は,東京家庭裁判所立川支部に対し,令和5年6月8日,再転相続人として,第1次相続について,相続放棄の申述(本件申述)をした(同支部同年(家)第8325号)。本件申述に係る申述書には,申述人が同年5月19日にEらの申述を知った旨が記載されており,申述人と被相続人Bとの関係について「その他(おいの母)」と記載されている。また,本件申述に係る事件記録の表紙には,申述人(申立人)の氏名等として,「相続人亡H再転相続人亡I再転相続人C」と記載されている。

(7)東京家庭裁判所立川支部は,令和5年8月8日,本件申述を却下する旨の原決定をし,申述人は,*月*日,原決定を不服として,即時抗告を提起した。
 申述人は,同年*月*日死亡し,申述人の子である抗告人が手続を受継した。」

3 検討
(1)相続放棄の申述は,これが受理された場合であっても,相続放棄の実体法上の効力を確定させるものではなく,相続放棄の効力を争う者は,その旨を主張することができる一方で,これが却下された場合には,民法938条の要件を欠くことになり,相続放棄をしたことを主張することができなくなる。このような手続の性格に鑑みれば,家庭裁判所は,却下すべきことが明白な場合を除いては,相続放棄の申述を受理するのが相当である。

(2)
ア これを本件についてみると,抗告人は,申述人は,第1次相続について,Hの再転相続人としての地位と,Eらの申述の結果として取得することとなったIの再転相続人としての地位とを併有していたところ,別件申述は,Hの再転相続人としての地位に基づいてされたものであり,申述人は,別件申述が受理された後も,依然として,Iの再転相続人としての地位に基づいて,第1次相続についての相続人であったのであるから,本件申述によって,第1次相続について相続放棄をすることができると主張しており,上記2において認定説示した本件申述に係る申述書の記載からは,申述人は,本件申述の際にも,これと同旨の主張をしていたと解される。

イ 抗告人の上記主張は,まず,Iの第1順位の法定相続人であるF及びGが,Iの再転相続人として,第1次相続について,相続放棄の申述(Eらの申述)をしたことによって,F及びGが初めから第1次相続についての相続人とならなかったものとみなされ,その結果,Iの第2順位の法定相続人である申述人が,第1次相続について,Iの再転相続人となるとの解釈を前提とするものと理解することができる。このような解釈は,民法上一般的なものであるかはともかくとして,およそ成り立ち得ないものということはできず,採用される見込みがないとはいえない。

ウ 次に,上記イの解釈を前提として,申述人が,別件申述をした当時,第1次相続について,Hの再転相続人としての地位とIの再転相続人としての地位を併有していたと解する場合には,別件申述に係る申述書に,申述人と被相続人Bとの関係について「兄弟の配偶者」と記載され,別件申述に係る事件記録の表紙に,申述人(申立人)の氏名等として,「相続人亡H再転相続人C」と記載されていることを踏まえると,別件申述は,上記二つの地位のうち,Hの再転相続人としての地位との関係においてのみ,第1次相続について,相続放棄をする趣旨であったと解する見解が成り立つ余地がある。

エ そうすると,仮に上記イの解釈及びウの見解を前提とするならば,申述人は,本件申述をした当時,第1次相続について,Iの再転相続人としての地位を有していたと解する余地があることになり,申述人は本件申述においてこのような主張をしていたのであるから,申述人が,本件申述をした当時,第1次相続についての相続人でないことが明白であったということはできない。そして,ほかに,本件申述に関し,相続放棄の要件を欠くことが明白であるといえる事情は存在しない。


(3)以上によれば,本件申述については,却下すべきことが明白であるとは認められないから,これを受理するのが相当である。

第3 結論
 以上の判断に従って,原審判を取消して,本件申述を受理することとして,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 筒井健夫 裁判官 武田美和子 裁判官 坂庭正将)

別紙 抗告状〈省略〉

以上:3,896文字

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