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割販法35条の3の13第1項6号適用を認めた旭川地裁判決理由文一部紹介

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平成29年11月 1日(水):初稿
○着物販売業者がその運転資金を得る目的で既存の顧客に対して名義貸しを依頼し、これに応じた顧客との間で締結した架空の売買契約に基づいて信販会社から代金相当額の支払を受けていた場合において、販売業者が購入者に対して支払負担を不要とする旨の虚偽の説明を行い、購入者が告知された内容を真実であると誤認しかつ販売業者のクレジット取引悪用に積極的に加担したことを伺わせる事情が存しないときは、割販法35条の3の13第1項6号に基づき、購入者は信販会社に対して不実告知を理由に立替払契約の取消しをすることができるした平成26年3月28日旭川地方裁判所判決(判タ1422号120頁)理由の重要部分を紹介します。

○割賦販売法割販法35条の3の13の規定は以下の通りです。
第35条の3の13(個別信用購入あつせん関係受領契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
 購入者又は役務の提供を受ける者は、個別信用購入あつせん関係販売業者又は個別信用購入あつせん関係役務提供事業者が訪問販売に係る個別信用購入あつせん関係販売契約若しくは個別信用購入あつせん関係役務提供契約に係る個別信用購入あつせん関係受領契約又は電話勧誘販売に係る個別信用購入あつせん関係販売契約若しくは個別信用購入あつせん関係役務提供契約に係る個別信用購入あつせん関係受領契約の締結について勧誘をするに際し、次に掲げる事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより当該告げられた内容が事実であるとの誤認をし、又は第一号から第五号までに掲げる事項につき故意に事実を告げない行為をしたことにより当該事実が存在しないとの誤認をし、これらによつて当該契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 購入者又は役務の提供を受ける者の支払総額
二 個別信用購入あつせんに係る各回ごとの商品若しくは権利の代金又は役務の対価の全部又は一部の支払分の額並びにその支払の時期及び方法
三 商品の種類及びその性能若しくは品質又は権利若しくは役務の種類及びこれらの内容その他これらに類するものとして特定商取引に関する法律第六条第一項第一号又は第二十一条第一項第一号に規定する主務省令で定める事項のうち、購入者又は役務の提供を受ける者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの
四 商品の引渡時期若しくは権利の移転時期又は役務の提供時期
五 個別信用購入あつせん関係受領契約若しくは個別信用購入あつせん関係販売契約若しくは個別信用購入あつせん関係役務提供契約の申込みの撤回又は個別信用購入あつせん関係受領契約若しくは個別信用購入あつせん関係販売契約若しくは個別信用購入あつせん関係役務提供契約の解除に関する事項(第三十五条の三の十第一項から第三項まで、第五項から第七項まで及び第九項から第十四項までの規定に関する事項を含む。)
六 前各号に掲げるもののほか、当該個別信用購入あつせん関係受領契約又は当該個別信用購入あつせん関係販売契約若しくは当該個別信用購入あつせん関係役務提供契約に関する事項であつて、購入者又は役務の提供を受ける者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの


○この旭川地裁判決は、平成26年12月18日札幌高裁判決、平成29年2月21日最高裁判決と続きますが、割賦販売法35条の3の13について重要な解釈となりますので、続けて紹介します。

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(3)不実告知の有無について
ア 割販法35条の3の13第1項6号は,販売業者が「訪問販売」において立替払契約の勧誘をするに際し,「前各号に掲げるもののほか,当該個別信用購入あっせん関係受領契約(注:本判決における立替払契約)又は当該個別信用購入あっせん関係販売契約…に関する事項であって,購入者…の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」につき不実告知をした場合を取消事由としている。

 個別信用購入あっせん契約は,購入者と販売業者との間の商品の売買契約,購入者とあっせん業者との間の立替払契約,販売業者とあっせん業者との間の加盟店契約とから成る販売信用の取引(以下「クレジット取引」という。)であるところ,割販法の消費者保護に関する主な規定として,抗弁の対抗規定と不実告知による取消規定がある。このうち,抗弁の対抗規定に関する割販法及び旧割販法30条の4は,消費者保護の観点から,購入者が販売業者との間で生じている事由をもってあっせん業者に対抗することができる旨規定しているところ,クレジット取引における抗弁の対抗が認められた趣旨は,あっせん業者と販売業者との間には,購入者への商品の販売に関して密接な取引関係が存在していること,それゆえに購入者は,自社割賦の場合と同様に商品の引渡しがされないなど商品の販売に関して生じている事由がある場合には,支払請求を拒み得ることを期待していること,あっせん業者は,継続的取引関係を通じて販売業者を監督することができ,損失を分散,転嫁する能力を有しているのに対し,購入者は,購入に際して一時的に販売業者と接するに過ぎず,損失負担能力が低いなどあっせん業者に比して不利な立場に置かれていることなどを理由とするものである。

 不実告知による取消規定は,平成20年改正により新設されたものであるところ,同規定は,売買契約に抗弁事由があるとして同契約が取り消された場合においても立替払契約が存続し,購入者が既払金の返還を受けることができない不都合を回避し,消費者保護の徹底を図るため,上記の抗弁の対抗規定に基づく未払金の支払拒絶に加えて,消費者契約法4条及び5条の特則として,販売業者が立替払契約又は売買契約に関する重要事項について不実告知をした場合に,購入者にあっせん業者との立替払契約の取消しを認めたものである。

 不実告知による取消規定の内容をみると,まず,割販法35条の3の13第1項6号は,立替払契約又は売買契約のいずれかの契約に関する不実告知があれば立替払契約を取り消すことができるとしている。その上で,立替払契約に関する不実告知の対象事項として,購入者の支払総額(割販法35条の3の13第1項1号),各回ごとの支払額,支時時期及び方法(同項2号)等を列挙した上,同項6号において,以上のほか立替払契約又は売買契約に関する事項であって購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものと規定して不実告知の対象を包括的かつ補充的に定めていることからすると,同項6号の不実告知の対象には,契約内容や取引条件に限らず,契約締結の動機も含まれるものと解される。

イ ところで,クレジット取引において,資金繰りが悪化した販売業者があっせん業者からの立替金の支払により金融を得る目的で,一般消費者に対して「支払について迷惑を掛けることはない」などと言って名義貸しを依頼し,これを承諾した購入者との間で締結した架空の売買契約に基づいて,あっせん業者から立替金の支払を受けて金融を得るという,いわゆる狭義の名義貸しは従前から問題となっている販売業者主導で行われるクレジット取引の悪用事例の一つであるところ,このような事例は,上記で述べたクレジット取引における立替払契約と売買契約との密接な牽連関係,あっせん業者と購入者との損失負担能力の差等に照らし,消費者保護の必要性が高い場合であるといえる。

 このような観点からすると,狭義の名義貸し事案における販売業者の購入者に対する「支払負担を不要とする旨の説明」は,立替払契約締結の動機に関する事項であって,この点の不実告知がなければ一般通常人も立替払契約の申込みの意思表示をしなかったであろうと考えられる点で重要性が認められるから,割販法35条の3の13第1項6号の不実告知の対象に含まれると解するのが相当である

 上記解釈は,平成20年改正の趣旨にも合致するということができる。すなわち,平成20年改正により,あっせん業者による加盟店調査義務の規定が新設され,あっせん業者は,訪問販売に係る契約において,立替払契約を締結しようとする場合,その契約の締結に先立って,「当該個別信用購入あっせん関係販売等契約若しくは当該個別信用購入あっせん関係受領契約(注:本判決における立替払契約)に関する事項であって当該申込みをした者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」につき告げられた内容が事実であるとの誤認の有無(不実告知等による誤認の有無)を調査しなければならないと規定されている(割販法35条の3の5,同法施行規則75条2号イ,同規則76条11項5号)。

 そして,証拠(乙共7)によれば,平成21年6月26日経済産業省令第37号による割賦販売法施行規則の改正のために同年5月28日に開催された第2回消費経済審議会特定商取引部会割賦販売部会合同会合において,所管行政庁から,あっせん業者による加盟店調査義務の対象である同規則76条11項5号の「不実告知等による誤認の有無」には,名義貸し事案における申込者の支払負担を不要とする旨の虚偽説明の有無も含まれる旨の説明がされており,同号と割販法35条の3の13第1項6号の文言の基本的部分は同一であることからすると,同号の不実告知の対象には,狭義の名義貸し事案における販売業者の購入者に対する「支払負担を不要とする旨の説明」も含まれると解するのが同号の制定趣旨であるということができる。

 以上によれば,割販法35条の3の13第1項6号の不実告知の対象には,狭義の名義貸し事案における販売業者の購入者に対する「支払負担を不要とする旨の説明」も含まれると解するのが相当である。

ウ これを本件についてみると,前記前提事実(2),前記1(4),2(1)イ,(2)イ及び(3)イのとおり,本件販売店の代表者であるP1は,本件販売店の金融を得る目的のためにクレジット取引を悪用する意図があるにもかかわらずこのことを秘して,改正後被告らに対し,立替払契約の締結について勧誘するに際し,「絶対に迷惑は掛けない。」などと支払負担を不要とする旨の虚偽の説明をしたことが認められ,本件販売業者は,改正後被告らに対し,立替払契約について割販法35条の3の13第1項6号の不実の告知をしたことが認められる。

(4)誤認の有無及び因果関係の有無について
ア 狭義の名義貸し事案において,販売業者が購入者に対し,立替払契約又は売買契約に関する事項の重要なものについて不実告知をした場合には,特段の事情のない限り,購入者は,これによって告知された内容を真実であると誤認したということができるけれども,狭義の名義貸し事案の中でも,購入者が,販売業者においてクレジット取引を悪用してあっせん業者に損害を及ぼす意図であることを知りながらこれに積極的に加担したような場合には,もはや当該購入者を保護すべき前提を欠く上,その実態に照らし,購入者は不実告知された内容を誤認したとはいえないというべきである。

 これを本件についてみると,上記(3)のとおり,本件販売業者は,改正後被告らに対し立替払契約に関し不実告知をしたことが認められるところ,立替払契約の締結の経緯及び不実告知の内容にかんがみ,購入者は告知された内容を真実であると誤認したことが認められ,本件全証拠によっても,購入者が,販売業者においてクレジット取引を悪用してあっせん業者に損害を及ぼす意図であることを知りながらこれに積極的に加担したことをうかがわせる事情は認められない。

 また,本件について,不実の告知と誤認,誤認と立替払契約の申込みの意思表示との各間には因果関係があることが認められる。

イ この点,原告は,改正後被告らにおいて,〈1〉法的効果について誤認していない,〈2〉本件販売店が負担するから承諾したのであり,高齢者が負担するという意味での誤認はない,〈3〉支払負担をするのが本件販売店であるという事実が告知されていれば名義貸しに応じなかったであろうという因果関係はないと主張する。

 しかしながら,〈1〉及び〈2〉の点については,前記1(3)で認定した本件販売店の営業状況によれば,本件販売店は,廃業に至る直前まで,呉服等の販売行為を継続して行っている外観を示して営業活動を行っていたことが認められるところであり,このような状況にかんがみると,改正後被告らは,本件販売店が支払不能状態にあることや本件販売店の金融を得る目的のためにクレジット取引を悪用する意図があることを認識し又は認識し得たとまでは認められないから,販売業者の不実告知によって支払負担は不要であるとの説明内容を真実であると誤認したものと認められる。

 また,〈3〉の点については,前記1(4),2(1)イ,(2)イ及び(3)イで認定した改正後被告らの立替払契約締結の経緯等からすれば,改正後被告らにおいて,不実告知がなかったとしても,立替払契約の申込みの意思表示をしたなどの事情は認められず,不実の告知と誤認,誤認と立替払契約の申込みの意思表示との各間に因果関係を肯定することができる。
 よって,この点に関する原告の主張は採用できない。

(5)以上によれば、本件各立替払契約(立替払契約4及び23-〈1〉を除く。)については,いずれも,本件販売店が,「訪問販売」の形態で行われる売買契約に係る立替払契約の締結を勧誘するに際し,割販法35条の3の13第1項6号の不実告知を行ったことにより,売買契約の購入者が立替払契約に係る支払負担が不要であるとの誤認をし,これによって立替払契約を締結するに至ったものと認められるのであるから,改正後被告らは,同号に基づき,立替払契約を取り消すことができるというべきである。そして,前記1(8)のとおり,改正後被告らは,原告に対し,別表4記載のとおり,それぞれ,同号の不実告知による取消の意思表示をしたことが認められるから,同意思表示によって,本件各立替払契約(立替払契約4及び23-〈1〉を除く。)はいずれも取り消されたものと認められる。

4 争点(5)(抗弁の対抗)について(改正前被告ら)
(1)前記1(4)で認定したとおり,改正前被告らは,本件販売店から商品を購入した事実がないにもかかわらず本件販売店と通謀して売買契約を仮装したものであるから,改正前被告らと本件販売店との間で締結された売買契約は虚偽表示により無効であると認められる。 

(2)これに対し,原告は,原告は民法94条2項の「第三者」に当たるから,改正前被告らは,売買契約の虚偽表示による無効を原告に対抗することはできないと主張する。
 しかしながら,あっせん業者は,販売業者に立替払契約の申込受領権限を与え,販売業者を利用して立替払契約を締結して利益をあげており,販売業者はあっせん業者の媒介者的立場にあるといえ,あっせん業者は民法94条2項の「第三者」に当たらないと解することができる。また,そもそも,昭和59年法律第49号による改正以後の割販法30条の4第1項は,消費者保護の観点から,購入者が販売業者との間で生じている事由をもってあっせん業者に対抗し得ることを認めていることからすると,同規定による抗弁の対抗は民法94条2項に優先するものと解される。

 以上によれば,改正前被告らは,旧割販法30条の4第1項の抗弁の対抗規定に基づき,売買契約の虚偽表示による無効を原告に対抗することができる。
以上:6,329文字

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