平成15年 4月 1日(火):初稿 |
■初めに 前回は、世の中で成功する一番の鍵は「人間洞察力」にあり、この人間洞察力をつけることは、大変難しく、私自身、50年生きて、未だに右往左往していますと述べました。「人間洞察力」とは、対峙する相手が「何を思い、何も求めているか」見抜く能力です。 ■人間の幅広さ奥深さ 私も50年生きて、職業柄色々な人を見てきましたが、人間とは実に幅広く奥が深く、一筋縄ではいかないものであるともと感じると共に実は意外に単純であると感じることもあります。又人間とは、学歴、家柄、資格等過去のデータによって規定出来ない大きな可能性を秘めたものとも感じます。同じ弁護士でも東大出身でも大したこともない人もいれば名もない私立大学出身でも凄いと思わせる人も居ます。このような幅広く、奥深い人間についての洞察力をつけることが重要です。 ■人洞察力をつけるには それでは人間洞察力をつける秘訣は何でしょうか。私は生の人間を観察することに尽きると考えております。生きた人間の生の息吹が直接かかる至近距離で、その怒り、喜び、悲しみ等の感情をもろに感じ取って学んだ経験が最も重要です。この生きた人間観察には、何万冊の本の読書も映画鑑賞も適いません。映画や書籍だけでは生の息吹が感じられないからです。 ■ある経験 人の争いを飯の種にする職業柄、人間とはホントに怨み深いものだと感じた経験が何度もありますが、先日、こんな経験をしました。20歳直前の女性が、10人近い仲間が監禁され、1週間間かけてなぶり殺しにされ、挙げ句に死体を山中に捨てられ、遺体が数ヶ月後白骨死体で発見された事件の、主犯的加害者の女性の弁護をしました。私が、加害者の両親代理人として、加害者の両親と共に、被害者の両親にに詫び、数百万円の見舞金支払いを申し出る機会を得ました。その席で被害者の両親は、厳しい目で加害者の両親を睨み付けながら、20歳直前で生命を奪われた娘の無念さを繰り返し訴えました。そして最後に、成人式で着る振り袖を試着した被害者の写真を見せて号泣します。私は居たたまれなくなり、思わずその写真に向かって合掌して席を立ちました。 その時、私は、被害者の母に、形容しがたいほどの怨みを込めた厳しい目つきで睨み付けられ、背筋が寒くなる思いがしました。何で勝手に合掌する、誰が合掌を許したという表情であり、厳しい視線を背中に感じながら席を後にしました。 後に被害者側代理人として同席していた弁護士から電話連絡があり、被害者両親は、被害者写真に向かって勝手に合掌したことをひどく怒っており、見舞金は受け取らないと回答してきました。そこで私は、加害者女性の弁護をする私も怨みの対象であることについての配慮が足りなかったことを痛感しました。合掌した直後の、被害者の母の私を見る怨みを込めた厳しい目つきは生涯忘れることが出来ません。この経験で人間の怨みの深さを身を持って勉強させられました。この生の体験による感銘は本を幾ら読んでも得られません。(以下、次号に続く) 以上:1,242文字
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