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刑事裁判での当事者主義とは

平成16年 4月 1日(木):初稿 平成17年 6月26日(日):更新
■始めに
前回は、法律の話として刑事裁判の仕組み、無罪の推定、刑事裁判での弁護士の役割について述べました。今回は、当事者主義の考え方について、実際の刑事裁判例に基づきもう少し突っ込んで説明します。

■当事者主義について
当事者主義とは、犯罪を捜査する機関と、犯罪事実の有無を判断する機関をハッキリ分けるものであり、捜査は警察・検察が行い、検察官が起訴した検察官の主張を、裁判官は判断するだけのいわばレフリーに徹しろと言う考え方です。
この考えでは、刑事裁判の目的は、あくまで検察官が起訴した内容-検察官の主張と言います-がルールに従った適正な証拠によって裏付けられるかどうかを裁判官が「判定」するだけであり、実際に、検察官主張の事実があったかどうかを追求するものではありません。
ここで重要なことは、「ルールに従った適正な証拠」による判断と言うことです。ルールに従ったと言うのは、憲法や刑事訴訟法に定めに従うと言うことです。例えば憲法には、何人も、自己に不利益な供述を強要されないと言う黙秘権や、又強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができないと言う定めがあります。この定めに従った証拠でなければ有罪には出来ません。

■筋弛緩剤事件
現在、仙台地方裁判所での公判手続き中の有名な事件で、仙台市の北陵クリニックを舞台にした筋弛緩剤混入による殺人事件があります。
この事件について、当初,余りに凶悪な犯罪として、無罪を主張して争う弁護人達の活動を非難する声が起こり、仙台弁護士会にまで、非難の電話や投書などがあったと聞いています。しかし、弁護人の活動は、当事者主義の立場から当然のことであり、何ら非難されるべきではありません。
この裁判についても、当事者主義の立場では、裁判の対象は、あくまで被告人M氏が筋弛緩剤を注射して患者を殺したという検察官の主張です。M氏が、筋弛緩剤を混入して患者を殺したと言う検察官の主張が、証拠によって裏付けられるかどうかを審理するのが裁判の目的です。審理の対象は、あくまで検察官の主張であり、極論すれば、実際にM氏が実際に筋弛緩剤を注射したかどうかではないのです。
このような説明を聞いても、審理の対象が、検察官の主張なのか、又は実際の事実なのかの違いは単なる言葉の違いであり、区別できないのではと言う疑問を感じる方もいるはずです。

■審理の対象
そこでこの審理の対象が主張か、事実かを区別する実際例を説明します。
審理の対象は主張であると言う考え方では、M氏が、実際に筋弛緩剤を注射して患者を殺していたとしても、検察官の立証が不十分だったり、又憲法の定めで法律で規定されたルールに従った(適正手続による)証拠によって立証されていない場合は、無罪となります。
例えば実際M氏が、筋弛緩剤による殺人を実行していたとしても、腕利きの弁護士と、間抜けな検察官が対峙し、検察官が必要な捜査・立証を怠り、その点を腕利き弁護士が強力に指摘して、検察官提出証拠だけでは、有罪認定に不足する場合は、無罪となります。
更に極端に言えば、検察官提出証拠で十分殺人の事実を認定できたとしても、その証拠が、先に説明した強制や脅迫による自白で、憲法や法律の定めにより証拠とすることが出来ない場合、その証拠を有罪認定の資料には出来ず、実際は有罪とハッキリしているのに、有罪認定の決め手となる証拠が使えないために、無罪となる場合もあります(以下、次号に続きます)。


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