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人傷保険会社の自賠責保険金回収を加害者弁済とした高裁判決紹介

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令和 3年 1月18日(月):初稿
○人身傷害補償保険会社(人傷社)が、被害者Xの同意を得て加害者の加入する自賠責保険金を回収した場合において、これを加害者Yの被害者Xに対する弁済に当たるとして、損益相殺を認めた令和2年3月19日福岡高裁判決(判タ1478号52頁)を紹介します。

○問題は、裁判基準差額説によって人傷社による保険代位が認められる金額は8万6762円(111万0181円-102万3419円)に過ぎないのに、人傷社は、控訴人Xと本件協定書を締結することにより、支払った人傷保険金のうち83万5110円を自賠責保険から回収したことになり、他方、人傷社が支払った人傷保険金のうち人傷社が受領した自賠責保険金に当たる部分が、人傷社と控訴人Xとの間においても被控訴人Yの過失部分に充当されるとすると、控訴人Xの過失部分に対する人傷保険からの補てん額は27万5071円(111万0181円-83万5110円)にとどまることになる点です。

○被害者Xが加害者Yに対し、原審では、248万1984円(治療費等の損害賠償金(既払額98万7697円を除く)220万8058円、弁護士費用相当額22万1000円)及び確定遅延損害金5万2926円の合計額)及びうち220万1984円に対する不法行為以降の日である平成30年3月13日から、うち22万1000円に対する不法行為の日である平成29年4月25日から、それぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めました。

○判決は、Xの損害額は弁護士費用を除いて341万1398円と認定し、Xの過失割合30%部分は102万3419円と認定しましたので、XはYに対し、Yの過失割合部分238万7978円請求でき、ここから既払金98万7697円と、人傷保険金保険金111万0181円と自己過失割合部分102万3419円の差額8万6762円を差し引いた131万3519円の支払が認められて然るべきです。

○ところが、人傷社が自賠責保険から83万5110円を回収しこれも差し引かれてXのYに対する請求額は47万8409円に下がります。XはYに対し、控訴審では、原審で認められた56万4632円を越えた140万7804円の支払を求めていますが、これは弁護士費用等が入っているため数値が異なっていると思われます。人傷社は自賠責保険から回収した83万5110円はXに返還すべきと思うのですが、この処理をどうなっているかは不明です。

○控訴人Xと人傷社は、協定書により、本件事故による控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求権は、自賠責保険への請求権を含め、支払った人傷保険金の限度で人傷社に移転する旨を合意して、人傷社は、控訴人Xに対し、人傷保険金として合計111万0181円を支払い、その後、自賠責保険から83万5110円を受領しています。しかしXは、協定書の一部無効を理由に、本件判決確定後、人傷社に対し、人傷社が受領した自賠責保険83万5110円の返還を求めることができないと、自己の過失部分を補填する保険金としての人傷保険の意味が無くなります。

○自賠責保険金の支払は原則加害者の支払に充当されるので、受け取ったのが人傷社であろうともその分は加害者の損害賠償義務が消滅するのは当然で、高裁判決の結論は妥当と思われます。問題は人傷社の協定書です。最近はこのような協定書は作成されずに人傷保険金が支払われているはずですが、相談を受けた時は注意が必要です。

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主   文
1 本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の、附帯控訴費用は被控訴人の各負担とする。 

事実及び理由
第1 控訴の趣旨

1 控訴の趣旨
(1)原判決を次のとおり変更する。
(2)被控訴人は、控訴人に対し、156万3978円及びうち140万7804円に対する平成30年5月31日から、うち14万円に対する平成29年4月25日から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

2 附帯控訴の趣旨
(1)原判決中、被控訴人の敗訴部分を取り消す。
(2)控訴人の被控訴人に対する請求を棄却する。
(3)訴訟費用は、第1、2審とも控訴人の負担とする。

第2 事案の概要(略称等は、特に断らない限り、原判決の表記による。)
1 本件は、控訴人が、信号機による交通整理が行われていない交差点において、控訴人の運転する普通乗用自動車(以下「控訴人車両」という。)と被控訴人が運転する普通乗用自動車(以下「被控訴人車両」という。)が衝突した交通事故(本件事故)により傷害を負ったとして、被控訴人に対し、民法709条又は自賠法3条に基づき、248万1984円(治療費等の損害賠償金(既払額98万7697円を除く)220万8058円、弁護士費用相当額22万1000円)及び確定遅延損害金5万2926円の合計額)及びうち220万1984円に対する不法行為以降の日である平成30年3月13日から、うち22万1000円に対する不法行為の日である平成29年4月25日から、それぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

 原審は、控訴人の請求を一部認容し、その余を棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴し、被控訴人が附帯控訴した事案である。
 なお、原審は、控訴人の損害に係る主張のうち、休業損害は全額認めず、傷害慰謝料は103万円の限度で認めたことから、控訴人は、当審において、損害に係る主張を原審で認容された限度に訂正し、請求を減縮した。

2 前提事実、争点及びこれに対する当事者の主張は、以下のとおり補正し、3項で当審における補充主張を加えるほか、原判決の「事実及び理由」欄の第2の1及び2(原判決2頁7行目から同8頁22行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
 原判決8頁20行目から22行目までを次のとおり改める。
 「 被控訴人には任意保険が付保されているため、人傷社が回収済みの自賠責保険金について人傷社と任意保険会社との間で調整する実務が確立しており、本件において自賠責保険分を損益相殺する実益もない。」

3 当審における控訴人の補充主張(争点(4)(人身傷害保険金と自賠責保険金との関係)について
 控訴人は、人傷社との間で締結した「保険金のお支払いについての協定書」(乙16。以下「本件協定書」という。)により、本件事故による控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求権について、自賠責保険への請求権を含め、支払った人傷保険金の限度で人傷社に移転する旨を承諾しているが、本件協定書によって人傷社が受領した自賠責保険金の全額が控訴人に対する既払金として評価されるとすることは、保険代位についていわゆる裁判基準差額説を採用する保険約款に整合せず、被害者の過失部分を補てんするという人傷保険の性格にも反して保険契約者である控訴人の不利益となるものである。

 このような保険約款と整合せず、かつ、控訴人に不利益となる合意を本件協定書によって行う場合には、その旨を明確に合意する必要があるところ、本件協定書は、上記の点を明記しない定型的なものにすぎないから、本件協定書の文言は、保険約款と整合するよう限定的に解釈されるべきであって、本件協定書により人傷社が受領した自賠責保険金のうち控訴人に対する弁済として評価されるのは、保険代位の場合にいわゆる裁判基準差額説により認められる人傷社の代位取得分(保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り、その上回る部分に相当する額の範囲)に限られるというべきである。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求は、66万6506円及びうち56万4632円に対する平成30年3月13日から、うち5万6000円に対する平成29年4月25日から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を認める限度で理由があると判断するが、その理由は、次のとおりである。

2 認定事実
 証拠及び弁論の全趣旨から認められる事実は、原判決の「事実及び理由」欄の第3の1(原判決8頁24行目から同12頁12行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

3 争点1(過失の内容及び過失割合)について
 この点については、原判決の「事実及び理由」欄の第3の2(原判決12頁13行目から同頁24行目まで)に記載のとおりであるからこれを引用する。

4 争点2(控訴人の本件事故による傷害及び後遺障害)について
 この点については、原判決の「事実及び理由」欄の第3の3(原判決12頁25行目から同15頁5行目まで)に記載のとおりであるからこれを引用する。

5 争点3(控訴人の損害)について
 この点については、原判決の「事実及び理由」欄の第3の4(原判決15頁6行目から同17頁25行目まで)に記載のとおりであるからこれを引用する。
 被控訴人は、控訴人について、現実の減収を示す証拠がないなどとして、逸失利益が生じたとは認められない旨主張する。しかし、上記認定のとおり、控訴人には現実にしびれが生じるといった後遺障害が発生していることが認められ、控訴人が歯科医師としても勤務していることにも照らすと、こうした後遺障害が症状固定後の収入に何らの影響も与えないとは認め難い。そして、仮に、そうした状況にあるにもかかわらず、現実に減収が生じていないのであれば、それは控訴人の特別の努力や家族の援助の結果であり、逸失利益の発生を認める特段の事情があるというべきである。したがって、被控訴人の主張は採用できない。

6 争点4(人身傷害保険金と自賠責保険金との関係)について
(1)この点については、次のとおり補足するほか、原判決の「事実及び理由」欄の第3の5(原判決17頁26行目から同19頁17行目まで)に記載のとおりであるからこれを引用する。

(2)判断の補足
ア 掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。
(ア)本件事故により控訴人の被った損害の額は、弁護士費用を除き341万1398円であり、そのうち、控訴人の過失部分(30%)に当たる金額は102万3419円である。
(イ)控訴人と人傷社は、平成30年5月24日、本件協定書により、本件事故による控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求権は、自賠責保険への請求権を含め、支払った人傷保険金の限度で人傷社に移転する旨を合意し(乙16)、人傷社は、控訴人に対し、同月30日までに、人傷保険金として合計111万0181円を支払い、その後、自賠責保険から83万5110円を受領した(乙9)。

イ 本件協定書の文言は、控訴人から人傷社に対し、支払った人傷保険金の限度で自賠責保険金の受領権限が委任されたと解するほかないものであり、自賠責保険は、本件協定書に基づく受領権限を有する人傷社に自賠責保険金を支払ったものであるから、自賠責保険が加害者のための保険であることに照らすと、本件協定書により人傷社が受領した自賠責保険金は、控訴人と被控訴人との間においては、加害者たる被控訴人の過失部分に対する弁済に当たると解すべきである。

ウ 上記アによれば、いわゆる裁判基準差額説によって人傷社による保険代位が認められる金額は8万6762円(111万0181円-102万3419円)であるところ、上記ア(イ)のとおり、人傷社は、控訴人と本件協定書を締結することにより、支払った人傷保険金のうち83万5110円を自賠責保険から回収したことになる。他方、人傷社が支払った人傷保険金のうち人傷社が受領した自賠責保険金に当たる部分が、人傷社と控訴人との間においても被控訴人の過失部分に充当されるとすると、控訴人の過失部分に対する人傷保険からの補てん額は27万5071円(111万0181円-83万5110円)にとどまることになる。

 本件協定書は、上記のような結果の生じ得ることまでを人傷保険の契約者である控訴人に説明した上で締結されたものではない可能性があるが、この点は、飽くまでも人傷保険の契約当事者である控訴人と人傷社との間の問題であるから、これを理由として、本来加害者の過失部分に対する弁済としての効力が認められるべき自賠責保険金が支払われたにもかかわらず、控訴人と被控訴人との間において、その弁済の効力を否定ないし制限するのは相当ではない


7 控訴人が被控訴人に対し請求し得る損害賠償額は、原判決の「事実及び理由」欄の第3の6(原判決19頁18行目から同20頁10行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

第4 結論
 以上によれば、本件控訴及び附帯控訴はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 山之内紀行 裁判官 矢﨑豊 裁判官 杉本敏彦) 
以上:5,304文字

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