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令和 7年 7月24日(木):初稿 |
○建設業等を営む原告会社が、業務委託先Aの従業員に自社の車両を運転させていたところ、当該従業員が2件の自損事故を起こして原告会社に損害を与えたとして、当該従業員に不法行為に基づき約407万円の損害賠償請求をしました。 ○被告は、原告から業務委託を受けていたAに雇用される立場で、原告との間で直接の雇用関係はなかったが、被告は、原告から指揮命令を受けており、直接の雇用関係のあると同じで、労働者が労働過程でささいな不注意により損害を与えたとしても、その労働過程で内在する性質の損害であれば、そのリスクは使用者が引受けるべきで、被告に前方注視義務ないし安全運転義務の違反があったとしても、賠償義務の認められるような重大な過失ではなく、責任はないと主張しました。 ○これに対し、被告はAの被用者であって、原告と雇用関係にはないが、原告の従業員の指示に従って業務を行っていたものであって、2件の事故は、原告の事業の執行について起きたもので、使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができ、本件では原告が被告に対し求めることのできる損害賠償は、未弁済額の25%に限られるとして、請求額を約2万円に限定して認容した令和5年6月27日東京地裁立川支部判決(判時2622号36頁)関連部分を紹介します。 ○この判決は控訴審東京高裁で取り消されていますが、別コンテンツで紹介します。 ********************************************* 主 文 1 被告は、原告に対し、2万2844円及びこれに対する平成31年3月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを180分し、その179を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、407万5940円及びこれに対する平成31年3月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、被告が原告所有の車両を運転中に交通事故を起こし原告に損害を被らせたとして、原告が被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、407万5940円及びこれに対する最後の不法行為の日である平成31年3月13日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実) (1)原告は、建設業等を事業目的とする有限会社である。 (2)被告が原告所有の車両を運転中に他の車両に関係なく起こした以下の各交通事故により、原告所有の車両は損傷した。 ア 第1事故 (ア)発生日時 平成31年1月28日午前6時40分ころ (中略) (エ)事故の状況 被告が第1車両を運転し車道を走行中、同車両を車道左側のガードレール等に衝突させた。 イ 第2事故 (ア)発生日時 平成31年3月13日午後4時30分ころ (中略) (エ)事故の状況 被告が第2車両を運転し高速道路を走行中、同車両を横転させた。 2 争点及び争点に関する当事者の主張 (1)原告の損害額(争点1) (原告) 原告は、第1事故及び第2事故により以下の損害を被った。 (中略) (3)被告の免責又は信義則による責任制限の有無(争点3) (被告) ア 労働者が労働過程でささいな不注意により損害を与えたとしても、その労働過程で内在する性質の損害であれば、そのような損害は使用者が当然に予見できるものであってそのリスクは使用者が引受けるべきものである。原告の業務においては廃棄物の運搬等のために車両の使用が不可欠であって、被告に前方注視義務ないし安全運転義務の違反があったとしても、賠償義務の認められるような重大な過失があったとはいえない。 被告は、第1事故の際には、原告から業務委託を受けていたAに雇用される立場にあり、原告との間で直接の雇用関係はなかった。しかし、被告は、原告から指揮命令を受けており、直接の雇用関係のあるもとでのものと異ならなかったのであるから、雇用関係がある場合と同様に考えるべきである。 イ 仮に被告の過失責任を問い得るとしても、事故における過失の態様は軽微であり、被告の免許条件違反は悪質なものではなく、原告は被告への賃金として支払うべき金銭を支払わないことにより原告主張の賠償金の実質的な回収を行い、原告による請求は当初根拠を欠く過大なものであり、被告を脅して弁済書を作成させるという不当な方法をとったことからすると、原告の被告に対する賠償範囲は信義則上制限されるべきであり、被告の負担すべき責任は存在しない。 (原告) ア 被告は、第1事故及び第2事故の当時、原告と雇用関係にはなかった。 イ 被告は、第1事故及び第2事故のいずれにおいても、原告の車両を全損させるほど大きく損傷させているのであるから、被告の過失が軽微ということはできない。原告代表者や従業員は、被告に対し、免許を有しない3トントラックを運転した場合に会社の責任となる可能性があるから、絶対に同車両を運転しないように注意していたにもかかわらず、被告がこれに従わなかった。原告が被告に対し支払うべき賃金を支払わなかった事実はない。弁済書は原告代表者と被告の話し合いの結果を被告自身が記載したものであって、原告代表者が脅して書かせたものではない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 以下に掲記する証拠及び弁論の全趣旨から、次の事実を認定することができる。 (1)原告は、第1事故当時、14台の車両を保有していた。第1車両及び第2車両は、いずれも、従業員の建設現場への移動手段及び建設現場の廃材の運搬のために使用されており、同じ目的で使用される車両は、第1車両及び第2車両を含め11台であった。原告は、平成31年1月から3月にかけて、同時期に10件から12件の現場を抱えており、原則として1件の現場当たり1台の車両が必要であったため、1台の車両で複数の現場を掛け持ちするなど、遊休車両は生じない状態であった。 (2)原告は、その業務の一部を第三者に委託することがあり、第1事故及び第2事故当時は、Aに業務委託をしており、被告はAの従業員として、原告の従業員である現場監督の指示に従い、原告の業務に従事していた。 (3)被告は、平成31年1月28日、原告の現場に向かうため、第1車両を運転していたところ、第1車両を街路樹に衝突させた(第1事故)。第1車両は大破して、走行不能となった。 (4)被告は、平成31年3月13日、原告の現場に向かうため、第2車両を運転していたところ、第2車両を単独で転倒させた(第2事故)。被告の自動車運転免許は、「準中型で運転できる準中型車は準中型車(5t)に限る」という条件が付されていた。上記条件は、運転できる準中型車は、車両総重量が3.5トン以上5トン未満、最大積載量が2トン以上3トン未満のものであったが、第2車両の最大積載量は3トンであった。原告代表者は、第2事故当時、被告の上記自動車運転免許に付されている条件を認識していたものの、原告がAに業務委託していた現場の現場責任者(原告の従業員)は、被告に第2車両の運転を指示し、被告はこれを拒まなかった。 (中略) (11)原告は、令和2年4月7日ころ、被告に対し、第1事故及び第2事故に基づく損害賠償として、第1車両の時価額320万円、第2車両の時価額235万円、代車費用30万5400円の合計585万5400円を請求した。 (12)原告代表者は、原告において、営業、事務、現場回り及び作業を担当していたところ、第1事故及び第2事故の処理などに時間を要したため、担当していた事務等ができなくなったことがあった。原告の、平成31年3月以降の各月の売上高は、同年3月は1809万円余り、同年4月は2242万円余り、令和元年5月は1916万円余り、同年6月は1767万円余り、同年7月は2564万円余り、同年8月は2107万円余り、同年9月は2027万円余り、同年10月は2320万円余り、同年11月は1273万円余り、同年12月は1155万円余り、令和2年1月は983万円余り、同年2月は861万円余りであり、年間合計は2億1029万円余りである。 2 争点1(原告の損害額)について (1)代車費用について (中略) 3 争点2(弁済額)について 上記1(2)のとおり、第1事故及び第2事故は、被告がAに雇用されてAが受託した業務を行っていた際に起こしたものであるから、原告は、Aに対して債務不履行に基づく損害賠償請求ないし使用者責任を問うことができたものと考えられるところ、上記1(6)のとおり、原告はAに対して、平成31年1月分の業務委託料のうち40万円を支払っていない。原告は、Aから、第1事故及び第2事故に基づく損害のうち、同額を回収したものと認められる。 4 争点3(被告の免責又は信義則による責任制限の有無)について 使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。 本件において、上記1(2)のとおり、被告はAの被用者であって、原告と雇用関係にはないものの、原告の従業員の指示に従って業務を行っていたものであって、第1事故及び第2事故は、原告の事業の執行について起きたものである。 そして、上記1(12)のとおり、原告の事業規模は年間売上高が2億1029万円余りとそれほど大きいとはいえないこと、被告は一作業員にすぎず、上記1(7)のとおり、その給与は月額23万円から25万円程度であったこと、上記1(1)のとおり、原告の事業には、建設現場への移動及び建設現場の廃材の運搬のために車両を用いることが必須であり、事故が起きた場合には保険で損害を賄うことができたところ、上記1(5)、(8)、(10)のとおり、原告が付けていた保険は、代車費用が補償されず、免責金額が設定されたものであったこと、第2事故は被告の免許条件違反の状態で起きたものであるが、同免許条件違反については現場監督であった原告の従業員も気付いておらず、第2事故の発生と因果関係を有するとまではいえないこと、上記1(3)、(4)のとおりの第1事故及び第2事故の態様からして、被告の前方注視義務違反等によるものと考えられるものの、その過失の程度が特に大きいと認められる証拠はないことからすると、損害の公平な分担という見地から、原告が被告に対し求めることのできる損害賠償は、未弁済額の25%に限られるというべきである。 5 小括 原告が第1事故及び第2事故により被った損害のうち、車両保険及びAからの回収によっても回復されていないものは、8万3376円である。そのうち、原告が被告に対して賠償請求できる金額は、2万0844円である。 (計算式) 8万3376円+40万円-40万円=8万3376円 8万3376円×25%=2万0844円 第1事故及び第2事故と相当因果関係のある被告に対する請求に関しての弁護士費用相当額は、2000円である。 したがって、原告が被告に対して請求し得る本件損害合計額(元本)は、2万2844円である。 (計算式) 2万0844円+2000円=2万2844円 第4 結論 よって、原告の請求のうち、被告に対して2万2844円及びこれに対する平成31年3月13日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求には理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 (裁判官 永田早苗) 以上:5,107文字
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