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定期金賠償請求を否認し一時払金を認めた地裁判決紹介

○交通事故で後遺障害を残した場合の将来の逸失利益について通常は一時払い請求をしますが、一定期間毎月定期金を支払う定期金賠償を求めることがあります。支払総額は、定期金賠償の方が、一時払い金額より遙かに大きくなるからです。その理由は、「重度後遺障害被害者逸失利益に定期金賠償を認めた一・二審判決まとめ」に記載しています。

○症状固定時26歳の原告が、交差点において、原告の運転する原動機付自転車(原告車両)が対面の青色信号に従って交差点を直進通過しようとしていたときに、被告会社が所有し、被告P2の運転する大型貨物自動車(被告車両)が対面の信号が赤色信号だったにもかかわらず、直進して原告車両の左側側部に衝突した交通事故について、被告P2に対しては民法709条に基づき、被告P2の使用者である被告会社に対しては自動車損害賠償保障法3条又は民法715条に基づき、連帯して、
〔1〕後遺障害逸失利益を除く一時金払の損害賠償金等の支払
〔2〕後遺障害逸失利益の定期金払の損害賠償金等の支払
を求めました。

○原告が定期金賠償を求める理由は、原告は高次脳機能障害に基づく情動障害・社会的行動障害などのため、保険金を浪費するなど自ら適切な金銭管理をするのが困難で、一時金払いでは賠償金を浪費してしまうおそれがあり、一時金払では現行民法下の者と比べて不公平になるため、憲法14条に違反するとしていました。

○これに対し、被告P2は民法709条、被告会社は民法715条及び自動車損害賠償保障法3条に基づき、原告に対し損害賠償責任を負うことが認められるところ、後遺障害逸失利益について、原告は、一時金払では現行民法下の者と比べて不公平になるため、憲法14条に違反するから、定期金賠償方式が相当であると主張するが、平均余命を前提とした一時金払をすることが損害の公平な分担という理念に照らし、明らかに妥当ではないとはいえないから、憲法14条に反するとはいえず、後遺障害による逸失利益については、一時金による賠償を命ずるのが相当であると判断した令和6年3月26日さいたま地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。

********************************************

主   文
1 被告らは、原告に対し、連帯して、5824万9825円及びこれに対する令和2年9月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを10分し、その3を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
4 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

1 被告らは、原告に対し、連帯して、1466万1752円及びうち357万7313円に対する令和2年9月4日から、うち1108万4439円に対する平成29年2月18日から、いずれも支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告に対し、連帯して、平成30年8月から令和49年1月まで、毎月末日限り月額26万3297円及びこれらに対する各翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告P2の運転する車両が原告の運転する車両に衝突した交通事故(以下「本件交通事故」という)について、被告P2に対しては民法709条に基づき、被告会社に対しては自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条又は民法715条に基づき、〔1〕後遺障害逸失利益を除く一時金払の損害賠償金として、1466万1752円及びうち357万7313円に対する自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)の保険金受領日の翌日である令和2年9月4日から、うち弁護士費用1108万4439円に対する不法行為の日である平成29年2月18日から、いずれも支払済みまで平成29年法律第44号による改正前民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金、〔2〕後遺障害逸失利益の定期金払の損害賠償金として、原告の症状固定月である平成30年8月から原告が75歳に達する月である令和49年1月まで、毎月末日限り月額26万3297円及びこれらに対する各翌月1日から支払い済みまで平成29年法律第44号による改正前民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。

1 前提事実等

     (中略)

2 争点
 損害


3 争点についての当事者の主張
(原告の主張)

     (中略)

(8)後遺障害逸失利益
 労働能力喪失期間について、現在は高齢化社会なので、就労可能年数を75歳にすべきである。
 労働能力喪失期間が長期間であり、原告は、高次脳機能障害に基づく情動障害・社会的行動障害などのため、保険金を浪費するなど自ら適切な金銭管理をするのが困難で、一時金払いでは賠償金を浪費してしまうおそれがあるし、一時金払では現行民法下の者と比べて不公平になるため、憲法14条に違反することから、定期金賠償方式が相当である。
 基礎収入は、賃金センサス(男性・全年齢・学歴計558万4500円)を採用すべきである。
(計算式)
558万4500円×56%×49年÷582か月=26万3297円

     (中略)

(被告の主張)

     (中略)

(8)後遺障害逸失利益
 基礎収入について、賃金センサスにおける25歳男性の平均給与額は月額29万8900円(年収にして358万6800円)であるが、原告の収入はその3割にも満たないから、原告が将来にわたって賃金センサス男子学歴計・全年齢平均を得る蓋然性があるとは認められない。
 労働能力喪失期間については、就労可能期間が67歳を超える個別具体的な立証がないので、就労可能期間を67歳以上とすべき理由はない。
 また、原告について、将来的に労働能力喪失率が大きく変動することが想定されないから、定期金賠償を相当とすべき理由はない。

     (中略)

第3 争点に対する判断
1 争点(損害)について


     (中略)

(8)後遺障害逸失利益
ア 高次脳機能障害が残存しているかについて。
(ア)証拠(甲63、乙1、6、証人P12)によれば、原告の平成29年3月14日の頭部MRI(磁化率強調画像)において、脳幹(中脳)に微小出血、右大脳白質にも多発性の微小出血が認められ、びまん性軸索損傷が認められ、原告の平成29年2月18日午前6時13分の意識障害はJCS〈3〉-100、GCS E1V1M5=7点であり、同日午前7時30分から同月19日午後1時40分の間静脈麻酔薬が投与されたことが認められる。また、事故直後は、原告は理解力が低下して医師の話も理解することが出来なかったが、平成29年4月頃には理解力が戻り、同年5月頃にはコミュニケーションも良好にとれるようになってきたことが認められる。更に、下記のとおり同年10月には些細なことがきっかけで同僚に暴行を振るったこと、その後は暴行事件を起こしていないことが認められる。

(イ)本件事故後1時間以内の意識障害が重度であることから、脳外傷に起因する意識障害が重度だといえる。他方、その後麻酔薬が投与されていることから、意識障害の持続が長いとまではいえない。
 更に、事故後直後は高次脳機能障害の症状といえる理解力の低下がみられ、その後高次脳機能障害の扱いに長けている医療従業者との間ではコミュニケーションが改善したが、一般人である同僚との間のコミュニケーションにおいては高次脳機能障害の症状である易怒性か発現し、その後改善したことが認められるから、事故後発現した症状が時間が経つにつれ徐々に軽減したことが認められる。

 以上によれば、原告に、高次脳機能障害の後遺障害が残存していると認めるのが相当である。
 なお、被告提出の意見書(乙6、10)も、原告に高次脳機能障害が残存していること自体を否定しているとは解されない。

イ 後遺障害の等級(労働能力喪失率)について

     (中略)

 以上によれば、原告は、ミスが多い等のことから一般人と同等の作業を行うことができないといえ、原告が、令和4年夏頃から一人暮らしをし、外出、買い物や役所での手続、自動車の運転も大過なく一人で出来ていることを考慮したとしても、原告の高次脳機能障害は後遺障害等級の7級4号に該当すると認められる。
 原告には、他に嗅覚障害(14級)、尿道狭窄症(14級)の後遺症があることから、7級と14級で重い方の後遺障害等級7級に該当すると認められる。

ウ 基礎収入の額
(ア)証拠(甲20、原告、証人P16)によれば、以下の事実が認められる。
a 原告は平成24年3月に調律学校であるP17を卒業した。調律師の資格は有していない。
b 原告は、P17を卒業後、横浜の調律の会社に就職した。同社では最初の3か月は手取りで月額15万円位の給与が支給されていたが、その後無給になった。原告は、同年秋頃に同社を退職し、携帯の販売等で月21万円程度の収入を得ていた。
c 原告は、平成27年に交際相手が死亡して気分が大きく落ち込んだため、同年から事故時まで新聞配達の仕事をし、収入額は月額平均8万8000円だった。

(イ)原告は当時30歳以下の若年であり、専門学校を卒業し、その経験を生かせる仕事についたが、長続きせず、その後はアルバイト程度の勤務をしていたこと、事故後専門知識を生かして勤務をしており、平成27年からの気分の落ち込みは永続的なものではなかったといえることから、事故前の現実収入を超えて賃金センサス(症状固定時の男性・全年齢・学歴計)の8割程度の賃金を得る蓋然性があったと認められる。
 よって、基礎収入の額は、以下の計算式により、446万7600円となる。
558万4500円×0.8=446万7600円

エ 労働能力喪失期間について
 一般的な就労可能期間は67歳であると認められ、原告がそれ以上勤務可能なことについての個別具体的な立証がないので、就労可能期間を67歳以上とすべきとはいえない。
(計算式)
446万7600円×0.56×17.2944/=4326万8098円

オ 定期金について
 証拠(原告)によれば、現在原告の申し出により自賠責保険金を原告代理人が預かり、原告代理人が原告の口座に毎月17万円を振り込んでおり、途中でその方法を止めたいと申し出たこともないこと、原告の最近の浪費は、5万円のチューニングハンマーや黒毛和牛の購入であることが認められる。

 原告の年齢、後遺障害等級に鑑みれば、障害の程度が非常に重く将来変化する可能性が高いとはいえず、発達により症状が変化する可能性が高いともいえず、既に就労しているから、賃金水準等が社会情勢等の変化により、予測した事情と現実の事情のかい離が生じやすいとまではいえない。また上記認定のとおり症状固定後に大きく症状が悪化したことは認められないから、将来的にみて損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じ、予測した損害額と将来現実化する損害額との間に大きなかい離が生じ得る蓋然性が高いとはいえない。金銭管理は定期金払以外の方法で適切にすることができると認められる。どのような事案に改正法が適用されるかは経過措置により定められており、経過措置をあてはめた結果改正法が適用される事案と適用されない事案で損害賠償の額に差が出ることは予め想定されているものといえ、憲法14条に反するとはいえない。
 以上によれば、平均余命を前提とした一時金払をすることが損害の公平な分担という理念に照らし、明らかに妥当ではないとはいえないので、定期金の方法が相当とはいえない。


     (中略)

第4 結論
 よって、原告の請求は、主文1項の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
 主文3項についての仮執行宣言は、相当でないから付さないこととする。
さいたま地方裁判所第5民事部 裁判官 小松美穂子
以上:4,909文字

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