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グーグルマップクチコミ記事の名誉毀損削除請求を認容した高裁判決紹介2

○「グーグルマップクチコミ記事の名誉毀損削除請求を認容した高裁判決紹介1」の続きで、令和7年7月23日東京高裁判決(LEX/DB)の理由部分後半を紹介します。

○高裁判決でも投稿記事目録内容は省略されていますが、原審判決と控訴審判決の内容から
本件記事1は、「レントゲンも撮らずに、銀歯の下を見てみるしかないと言われ・・・銀歯を取られそうになりました。・・・」、「十分な説明、検査なしに、銀歯を取り歯を削ろうとする歯医者に驚きました」、「その後違う歯医者で診ていただき、レントゲン撮影後、銀歯は取る必要ないとの判断でした。」
本件記事2は、原告が本件記事2の投稿者に施術する際、まだ虫歯がごっそり残っているのに被せ物をした
となっています。

○高裁判決は
本件記事1については、
控訴人は、レントゲン検査を行えば、銀歯を取る必要があるかどうかについて適切な判断を行えたにもかかわらず、レントゲン検査を行わずに銀歯を取ろうとするなど不適切な診療を行う歯科医師であるとの印象を与えるものであり、控訴人の社会的な評価を低下させる
公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出たものと認められるが、その摘示事実の重要な部分が真実であることをうかがわせる事情はない
として、

本件記事2については、
虫歯を残したまま被せ物をしてはいけない状況であるにもかかわらず、被せ物をしたものとして読むと考えられ、控訴人の社会的評価は低下すると認められるもので、
公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出たものと認められるが、摘示事実は、事実に反している可能性が高く、その重要な部分が真実であることをうかがわせる事情ははない
本件記事2の投稿者に係る医療記録等の客観証拠を提出することはおよそ不可能であり、そのような状態で投稿者に客観的証拠の提出を求めることは相当ではない

との理由で、いずれも削除を認めました。

○原審判決は、投稿記事で摘示された事実の不存在について、投稿された医師に立証責任がある如く読めるもので、投稿された側には極めて厳しすぎる判決であり、高裁判決の判断が妥当と思われます。

*********************************************

主   文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、別紙投稿記事目録記載の各投稿記事を削除せよ。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じ、被控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣

 主文同旨

第2 事案の概要
1 事案の要旨

 本件は、歯科医院の院長である控訴人が、オンライン地図サービスであるGoogleマップに、同歯科医院についての口コミとして投稿された別紙投稿記事目録記載の各記事により名誉権を侵害されたとして、Googleマップを運営する被控訴人に対し、名誉権に基づき、上記各記事の削除を求めた事案である。
 原審が、控訴人の請求をいずれも棄却したところ、控訴人が控訴した。

     (中略)

第3 当裁判所の判断
 当裁判所は、控訴人の請求はいずれも理由があると判断する。その理由は以下のとおりである。

1 判断の枠組みについて

     (中略)

2 本件記事1について
(1)
ア 本件記事1は、「レントゲンも撮らずに、銀歯の下を見てみるしかないと言われ・・・銀歯を取られそうになりました。・・・」との記載の後に「十分な説明、検査なしに、銀歯を取り歯を削ろうとする歯医者に驚きました」との記載があり、以上の記載を併せて一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準としてみると、控訴人が、レントゲンを撮らず、事前に説明を行うことなく銀歯(被せ物。以下同じ。)を取り歯を削ろうとしたことを主張するものと解され、事実を摘示したものと認められる。

 そして、本件記事1の投稿者の診察当時の客観的な症状等は明らかでないものの、本件記事1において、上記記載に続けて「その後違う歯医者で診ていただき、レントゲン撮影後、銀歯は取る必要ないとの判断でした。」との記載があり、これを前記記載と併せて読むと、上記摘示事実は、一般の閲覧者に対し、控訴人は、レントゲン検査を行えば、銀歯を取る必要があるかどうかについて適切な判断を行えたにもかかわらず、レントゲン検査を行わずに銀歯を取ろうとするなど不適切な診療を行う歯科医師であるとの印象を与えるものであり、控訴人の社会的な評価を低下させると認められる。

イ 被控訴人は、歯科医師の説明や検査が十分かどうかは投稿者による主観的な評価に過ぎず、また、社会的評価の低下を認めるためには、一般の閲覧者が一定程度信用する具体的な事実の記載があることが必要であるところ、本件記事1には具体的な事実は記載されていないから、社会的評価を低下させない旨主張する。

しかし、本件記事1には「十分な説明、検査なしに」、「もう行きません」などの投稿者の意見や感想等を記載したと読める部分もあるものの、上記アに挙げた記載も含め、患者と控訴人との口頭のやり取りを含む控訴人の言動等を記載したと読める部分があり、閲覧者は、前記の摘示された事実については、投稿者が体験した診療の経過を記載したものとして読むと認められるのであり、上記アに説示するとおり、本件記事1は控訴人の社会的評価を低下させるものと認められるから、被控訴人の前記主張は採用できない。

 また、被控訴人は、本件サイトには本件歯科医院について好意的な評価も多数あることを指摘するが、同時に好意的な評価が多数掲載されているかどうかは、閲覧する時点によって変わり得ることであるし、本件サイトは、ネットユーザー一般が、利用する施設の選択等のための情報を手軽に収集するために閲覧するものであり、前記1(2)イ(イ)説示のとおり、閲覧者は、必ずしも対象者に関する口コミを一つ一つ熟読して、他の口コミと読み比べたり、投稿者の特性や背景等を想定したりしながら、子細に検討するわけでもなく、短時間で全体として目を通すのが一般的と考えられることも考慮しても、本件記事1は、他の多数の口コミの中にあってもなお、控訴人の社会的評価を低下させると認められるから、被控訴人の上記指摘は失当である。

(2)次に、違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情がないと認められるかについて、以下検討する。
ア 本件記事1の投稿は歯科医師による治療行為に関するものであるから、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出たものと認められる。
 真実性については、控訴人の陳述書(甲27)は、控訴人は、通常、治療前に問診、視診、検査(口内写真及びエックス線写真撮影)という手順を踏むことが記載されており、この記載が虚偽のものであることをうかがわせる事情は認められないから、同陳述書により前記の記載に係る事実が認められる。また、控訴人において、特定の患者について、上記の通常の診療に係る手順をあえて変更して、何ら検査をせずに銀歯を取ろうとするような事態は、通常想定し難い。そうすると、本件記事1について、その摘示事実の重要な部分が真実であることをうかがわせる事情はないと認められる。

イ 被控訴人は、甲27は一般的な治療の流れを述べたにすぎず、それから外れた治療が行われる可能性を排斥するものではない、歯の状態や歯科医師の知識・経験等を踏まえ即座に治療しようとすることが不自然とはいい難く、また、本件歯科医院に対する口コミには治療に当たって説明がなかった旨のものが複数あるから、本件記事1が真実であることがうかがわれるなどと主張する。

しかし、控訴人において、通常の診療手順と異なる診療を行うことが考え難いことは上記アに説示するとおりである。また、本件歯科医院に対する他の口コミの中には、説明も断りもなく歯を削り出したとか説明が分かりにくいなど本件記事1と同旨のものがあるが(乙36)、口コミが摘示する事実の真実性を検討する場面において,他の口コミが有する証拠の価値は低いというべきであるし、低い証拠価値であることを前提としても、本件においては、他方で、患者の話を丁寧に聞いてしっかり説明してくれる、病状や治療方針を分かりやすく説明してくれるなどの、対象者に肯定的な口コミも複数存在することが認められるのであり(乙36)、以上を総合して考慮すると、被控訴人の上記主張は採用できない。

(3)したがって、本件記事1の削除請求は、理由がある。
 

3 本件記事2について
(1)原判決「3 本件記事2について」の(1)は、6頁15行目の「(1)」を「(1)ア」に改め、同頁20行目末尾に改行の上、次のとおり加えるほかは、原判決記載のとおりであるから、これを引用する。

「イ 被控訴人は、本件記事2には具体的事実は記載されていないから、一般の閲覧者が直ちにその内容を信用するとはいえないし、治療の経緯等によっては必ずしも不適切でなかった場合も想定され、社会的評価が低下するとはいえない旨主張する。

しかし、本件記事2が事実を摘示するものであることは、上記アに説示するとおりであって、具体的事実が記載されていないとはいえない。また、仮に治療の経緯等によっては虫歯を残したまま被せ物をする事態があるとしても、本件記事2の閲覧者はそのような読み方はせず、虫歯を残したまま被せ物をしてはいけない状況であるにもかかわらず、被せ物をしたものとして読むと考えられ、控訴人の社会的評価は低下すると認められるのであるから、被控訴人の上記主張は採用できない。」

(2)原判決「3 本件記事2について」の(2)及び(3)を、次のとおり改める。
「(2)違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情がないと認められるかについて、以下検討する。
ア 本件記事2の投稿は歯科医師による治療行為に関するものであるから、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出たものと認められる。
 真実性については、控訴人の陳述書(甲27)は、控訴人は、通常、施術後に虫歯の削り残しがないか入念にチェックしていること、治療後に本件歯科医院に対し、削り残しがあるのに被せ物をされたという趣旨のクレームが寄せられたことはないことがそれぞれ記載されており、これらの記載が虚偽のものであることをうかがわせる事情は認められないから、同陳述書により前記の各記載に係る事実が認められ、そうすると、本件記事2は事実に反している可能性が高く、本件記事2について、その摘示事実の重要な部分が真実であることをうかがわせる事情はないと認められる。

 なお、真実性をうかがわせる事情がないと判断された場合であっても、サイト運営者においてはこの点についての反証が可能であり、実際にサイト運営者において投稿者に連絡をして反証を行うかどうかは、サイト運営者の判断に委ねられているというべきである。また、投稿者の本件歯科医院における治療時期や治療内容は明らかでなく、本件歯科医院における治療後に歯が痛み出して別の歯科医で治療を受けるまでの経緯等も明らかでないが、前記(1)ア説示のとおり、本件記事2は、本件歯科医院の歯科医師は、投稿者に虫歯が大きく残っている状態で、その歯に被せ物をしたという事実を摘示したものと認められるのであるから、前記の各事情が明らかでないことにより、真実性についての前記の判断が左右されるものではない。

イ 被控訴人は、本件記事2に記載された事実の反真実性を立証する客観的な証拠は何ら提出されていない、虫歯菌が残ったまま詰め物等をしてしまうことは多いとされており(乙32)、本件歯科医院においても虫歯が残ったまま被せ物をした可能性を否定できない、本件歯科医院に対する口コミには歯科医師等の技術が乏しい旨の口コミが複数あるから、本件記事2の記載は真実であることがうかがわれるなどと主張する。

しかし、本件記事2は、本件訴え提起(令和5年12月21日)の4年前に仮名で投稿されたものであり(甲3)、本件歯科医院における治療時期や治療内容が明らかでないから、被控訴人において投稿者に意見照会をするなどして、これらについての手がかりが得られない限り、控訴人において、本件記事2の投稿者に係る医療記録等の客観証拠を提出することはおよそ不可能であり、そのような状態で投稿者に客観的証拠の提出を求めることは相当ではない。

また、被控訴人が主張するように、虫歯菌が残ったまま詰め物等をしてしまうことが多いとしても、前記(1)ア説示のとおり、本件記事2は、本件歯科医院の歯科医師は、投稿者において虫歯菌ではなく虫歯が大きく残っている状態で、その歯に被せ物をしたという事実を摘示したものと認められるのであるから、被控訴人の主張はその前提を欠き失当である。さらに、本件歯科医院又は対象者について医療の技術がないという趣旨の口コミが複数投稿されていることが認められることについては(乙36)、口コミが摘示する事実の真実性を検討する場面において、他の口コミが有する証拠価値は低いというべきであるし、低い証拠価値を前提にしたとしても、本件においては、他方で、対象者による治療が的確で信頼できた、対象者にとても丁寧に処置してもらえたなどの対象者に肯定的な口コミも複数存在することが認められるのであり(乙36)、以上を総合して考慮すると、被控訴人の上記主張は採用できない。

(3)したがって、本件記事2の削除請求は、理由がある。

4 以上の認定、判断は、その余の被控訴人の主張によって左右されるものではない。

第4 結論
 以上のとおり、前記第3の判断と異なり、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は失当であって、控訴人の控訴は理由があるから、原判決を取消して控訴人の請求をいずれも認容することとし、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第23民事部
裁判長裁判官 古谷恭一郎 裁判官 間史恵 裁判官 島村典男

別紙 投稿記事目録(省略)
以上:5,671文字

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