○「
定期金賠償請求を否認し一時払金を認めた地裁判決紹介」の続きでその控訴審令和7年7月23日東京高裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。
○一審原告が原動機付自転車を運転していたところ、一審被告P2が一審被告会社の業務のために運転する大型貨物自動車と衝突する交通事故によって受傷し、高次脳機能障害等の後遺障害が残存したと主張して、一審被告P2に対しては民法709条に基づき、一審被告会社に対しては自動車損害賠償保障法3条又は民法715条に基づき、連帯して、〔1〕後遺障害逸失利益を除く一時金払の損害賠償金等の支払を求めるとともに、〔2〕後遺障害逸失利益の定期金払の損害賠償金等の支払を求め、原審が、後遺障害による逸失利益については一時金による賠償を命ずるのが相当であると判断し、原告の請求のうち、5824万9825円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し、一審原告及び一審被告らがそれぞれ控訴しました。
○控訴審判決も、一審原告が求める後遺障害による逸失利益を定期金による賠償の対象とすることが、不法行為に基づく損害賠償制度の目的及び理念に照らして相当と認めることはできず、一審原告の後遺障害による逸失利益については一時金による賠償を命ずるのが相当としながら、一審原告の請求は、6487万4776円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があると認められるとして、一審被告らの控訴に基づき原判決を変更し、その余の一審原告の控訴は棄却しました。
○定期金賠償に関する民訴法規定は以下の通りです。
第117条(定期金による賠償を命じた確定判決の変更を求める訴え)
口頭弁論終結前に生じた損害につき定期金による賠償を命じた確定判決について、口頭弁論終結後に、後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には、その判決の変更を求める訴えを提起することができる。ただし、その訴えの提起の日以後に支払期限が到来する定期金に係る部分に限る。
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主 文
1 被告らの控訴に基づき、原判決を以下のとおり変更する。
(1)被告らは、原告に対し、連帯して6487万4776円及びうち4854万5891円に対する令和7年4月16日から、うち485万円に対する平成29年2月18日から各支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(2)原告のその余の請求をいずれも棄却する。
2 原告の本件控訴を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じ、これを10分し、その3を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、1項(1)に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
(以下、自動車損害賠償保障法を「自賠法」、自動車損害賠償責任保険を「自賠責保険」、自賠責保険の保険金を「自賠責保険金」、自動車損害賠償保障法施行令別表第二を「後遺障害等級表」、労働者災害補償保険法を「労災保険法」という。人証は、いずれも原審におけるものである。)
第1 控訴の趣旨
1 被告らの控訴の趣旨
(1)原判決を以下のとおり変更する。
(2)原告の請求をいずれも棄却する。
2 原告の控訴の趣旨
(1)原判決を以下のとおり変更する。
(2)被告らは、原告に対し、連帯して1466万1752円及びうち357万7313円に対する令和2年9月4日から、うち1108万4439円に対する平成29年2月18日から、各支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(3)被告らは、原告に対し、連帯して平成30年8月から令和49年1月まで毎月末日限り月額26万3297円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
(中略)
第3 当裁判所の判断
当裁判所は、以下の理由により、原告の後遺障害による逸失利益については一時金による賠償を命ずるのが相当であり、原告の請求は、6487万4776円及びうち4854万5891円に対する令和7年4月16日から、うち485万円に対する平成29年2月18日から、各支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で理由があると判断する。
1 認定事実
(中略)
4 後遺障害による逸失利益に係る定期金による賠償の可否
(1)不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補填して、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり、また、損害の公平な分担を図ることをその理念とするところである。
このような目的及び理念に照らすと、交通事故に起因する後遺障害による逸失利益という損害につき、将来において取得すべき利益の喪失が現実化する都度これに対応する時期にその利益に対応する定期金の支払をさせるとともに、将来、その損害の額の算定の基礎となった後遺障害の程度、賃金水準その他の事情に著しい変更が生じ、算定した損害の額と現実化した損害の額との間に大きなかい離が生ずる場合には民訴法117条によりその是正を図ることができるようにすることが相当と認められる場合があるというべきである。
以上によれば、交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において、上記目的及び理念に照らして相当と認められるときは、同逸失利益は、定期金による賠償の対象となるものと解される。(最高裁平成30年(受)第1856号令和2年8月9日第一小法廷判決・民集74巻4号1204頁)
(2)これを本件についてみると、原告の労働能力喪失期間は41年間と長期間にわたるが、原告の症状固定時における年齢(26歳)、上記2及び3(1)で認定した原告の後遺障害の内容及び程度(後遺障害等級表7級4号に該当する高次脳機能障害、同表14級に相当する嗅覚障害、同表14級に相当する尿道狭窄症)に照らせば、原審及び当審における原告の主張及び立証(甲55~61、80)を踏まえて検討しても、将来、原告の後遺障害の程度、賃金水準その他の事情に著しい変更が生じ、算定した逸失利益の額と現実化した逸失利益の額との間に大きなかい離が生ずる可能性が高いとは認められず、民訴法117条によりその是正を図ることができるようにする必要性があるとはいえない。
原告は、高次脳機能障害の影響によって金銭管理能力が低下しているため、一時金による賠償を受けた場合、浪費等によって実質的な生活保障を図れなくなるおそれがあると主張する。確かに、先に述べたとおり、原告には、本件事故後、浪費傾向がみられるものの(認定事実(5)イ(カ)、(シ))、その程度は必ずしも明らかでなく、原告が一時金による賠償を受けた場合、浪費等によって実質的な生活保障を図れなくなるおそれがあると認めることは困難である。
以上によれば、原告が求める後遺障害による逸失利益を定期金による賠償の対象とすることが、上記損害賠償制度の目的及び理念に照らして相当と認めることはできない。
(3)原告は、原告が求める後遺障害による逸失利益について、一時金による賠償とした場合、その算定に当たって控除される中間利息は旧民法が定める法定利率である年5%によることになるところ、現行民法が定める法定利率である年3%による中間利息の控除を受ける者との間で著しい不平等が生じ、憲法14条1項に違反する事態になるとも主張する。
平成29年法律第44号附則17条2項は、中間利息の控除について定める現行民法417条の2(現行民法722条1項において準用する場合を含む。)の規定は、平成29年法律第44号の施行の日(以下「施行日」という。)前に生じた将来において取得すべき利益又は負担すべき費用についての損害賠償請求権については、適用しないと定める。
民法の定める法定利率を改正する場合,逸失利益の算定に当たって控除される中間利息の利率について、改正前の法定利率が適用される者と改正後の法定利率が適用される者との間に差異が生じることは避けられないところ、社会経済に混乱をもたらすことなく、できる限り明確かつ公平な適用を確保するという観点から、平成29年法律第44号附則17条2項が、逸失利益に係る損害賠償請求権が生じた時期が施行日前か否かによって、現行民法の規律の適用の可否を決めることとしたことについては、合理性があるというべきである。
よって、原告が求める後遺障害による逸失利益について、一時金による賠償とし、その算定に当たって、旧民法が定める法定利率である年5%により中間利息を控除することが、憲法14条1項に違反するということはできない。
(4)以上によれば、原告が求める後遺障害による逸失利益は、定期金による賠償の対象とはならず、一時金による賠償とすることが相当である。
5 損害
以上の認定・説示を踏まえた原告の損害についての当裁判所の判断は、別紙損害一覧表の「判断」及び「判断理由」の各欄に記載のとおりであり、原告の損害(弁護士費用を除く。)から既払金を控除した残額(自賠責保険金については、受領日である令和2年9月3日までの確定遅延損害金に充当した上、その残額を損害元本から控除する。)は4854万5891円、自賠責保険金の受領日の翌日から労災保険法に基づく障害補償給付の給付金の各受領日(最後に受領した日は令和7年4月15日)までに生じた確定遅延損害金の合計額は1147万8885円、弁護士費用は485万円、その合計額は6487万4776円となる。
6 小括
そうすると、被告P2は民法709条に基づき、被告会社は自賠法3条に基づき、原告に対し、損害賠償として、連帯して6487万4776円及びうち4854万5891円に対する令和7年4月16日(原告が障害補償給付の給付金を最後に受領した日の翌日)から、うち485万円に対する平成29年2月18日(本件事故の日)から、各支払済みまで旧民法所定の年5%の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
第4 結論
以上によれば、原告の請求は、上記第3の6の金員の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容し、その余の請求は棄却すべきである。そうすると、原判決のうち、原告の請求を棄却した部分は相当であるが、認容した部分は一部相当でない。よって、被告らの控訴は一部理由があるから、これに基づき、原判決を上記第3の6のとおり変更し、原告の控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第11民事部 裁判長裁判官 三木素子 裁判官 下馬場直志 裁判官 南宏幸
以上:4,410文字
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